少数の法則とは?少ない事例から全体を決めつける判断の偏り

判断・認知バイアス
Psychology Laws 編集部

顧客5人に試作品を見せたところ、4人が「使いたい」と答えた。営業3件で同じ説明を試したところ、2件で受注できた。こうした少数の結果を見ると、「この方法はかなり有効だ」と全体へ広げて考えたくなることがあります。

このときに関係するのが、心理学でいう少数の法則(belief in the law of small numbers)です。これは、小さな標本でも母集団の特徴をかなり正確に表し、結果も安定していると期待しすぎる傾向を指します。

仕事では、少数の事例を無視する必要はありません。少数の結果は仮説を作る材料になります。ただし、「数件で見えた傾向」と「全体でも同じ傾向があること」を分け、対象と件数を増やして確かめることが大切です。

少数の法則とは 意味と仕組み

TverskyとKahneman(1971)は、人が小さな標本を、実際以上に母集団によく似たものとして扱う傾向をbelief in the law of small numbersと呼びました。

ここでいう標本とは、全体を知るために取り出して調べる一部の対象です。顧客全体を知りたいときに調査した20人、全案件の傾向を知りたいときに調べた10案件などが標本にあたります。標本の元になる顧客全体や案件全体は母集団と呼びます。

小さな標本ほど、偶然によって割合や平均が大きく振れやすくなります。たとえば、同じ顧客層から5人ずつ何度も選べば、5人中4人が賛成する回も、5人中1人しか賛成しない回も起こり得ます。人数を増やすと、こうした偶然の振れは一般に小さくなります。

なお、「law of small numbers」という表現は確率論で別の意味に使われることもあります。この記事では、TverskyとKahnemanが扱った小さな標本を過信する心理について説明します。

研究で分かっていること

研究では、人は小さな標本から得た結果を実際以上に安定したものとして扱う場合があります。ただし、誰もがいつでも標本数を無視するわけではありません。課題の示し方によっては、人数が多い方が安定すると正しく判断できることも確認されています。

専門家でも、10人の追加調査が同じ結果を出す確率を高く見積もった

TverskyとKahneman(1971)は、心理学の専門家を対象に、研究上の判断について質問しました。

代表的な問題では、「20人を対象にした実験で、理論を支持する統計的に有意な結果が得られた。さらに別の10人を調べた場合、その10人だけでも同じ方向で有意な結果が得られる確率はどれくらいか」と尋ねました。ここで統計的に有意とは、観察された差を偶然のばらつきだけで説明するのは難しいと、あらかじめ決めた基準で判断されたという意味です。

数学心理学の会合や米国心理学会の会合で回答した84人の中央値は、およそ0.85でした。しかし論文で示された、より妥当な見積もりはおよそ0.48です。0.40〜0.60の範囲で答えた人は84人中9人だけでした。

つまり、多くの回答者は「最初の20人で得られた結果なら、次のわずか10人でもかなり高い確率で再現する」と考えていました。小さな追加標本で起こる偶然の振れを、実際より小さく見積もっていた例です。

この論文は、こうした直感が研究者にも見られ、少なすぎる人数で研究を計画したり、一度の結果を強く信じたりすることにつながり得ると指摘しました。

「人数が多いほど安定する」と理解できる場面もある

SedlmeierとGigerenzer(1997)は、それまでの標本数に関する研究をレビューし、「人は標本数を無視する」という研究と、「人数の違いを考慮できる」という研究が両方あることを整理しました。

著者らは、個々の観測値がどのように分布するかを考える課題では標本数の違いを理解しやすい一方、同じ大きさの標本を何度も取り出したとき、平均や割合がどの程度ばらつくかを考える課題では理解が難しくなると説明しています。

そのため、少数の法則を「人は人数を全く考えられない」という性質として扱うのは適切ではありません。問題になりやすいのは、少ない事例から得た平均や割合が、別の標本でも同じように出ると期待しすぎることです。

100人の研究でも標本数の影響を見落とす回答が多かった

Bishopら(2022)は、生命科学または社会科学を学んだ経験がある100人を対象に、標本数を無視する傾向と、可視化トレーニングの効果を調べました。

参加者は、標本数に関する6問を含む推論問題に回答しました。事前テストでは、標本数に関する6問すべて不正解だった人が20%おり、6問中5問以上正解できた人は2人だけでした。

その後、異なる人数のデータを画面で増やしながら判断する訓練を行い、38%の参加者は「より大きな標本になるまで待って判断することを学んだ」と答えました。訓練課題そのものでは成績が改善しましたが、別の推論問題の得点は改善しませんでした。

この結果は、「少ないデータでは不確実だ」と一度体験するだけでは、別の仕事場面まで自動的に応用できるとは限らないことを示しています。実務では、標本数を確認する手順そのものを判断過程に入れる方が安全です。

仕事での具体例

以下は説明用の仮の例です。

新しい予約機能を開発する前に、既存顧客5人へインタビューしたところ、4人が「ぜひ使いたい」と答えました。

最初の調査 結果
回答者 5人
「使いたい」 4人
回答割合 80%

80%という数字だけを見ると、「顧客の大半が欲しがっている」と考えたくなります。しかし、5人がどの顧客から選ばれたのか、たまたま熱心な利用者に偏っていないか、別の5人でも同じ割合になるかは分かりません。

そこで、対象顧客の条件を決めて20人を追加し、合計25人に同じ質問をしたところ、「使いたい」は14人だったとします。全体では56%です。

確認段階 「使いたい」 回答者数 割合
最初 4人 5人 80%
追加後の合計 14人 25人 56%

この例では、最初の4人の回答が間違っていたわけではありません。5人という小さな標本から得た80%を、顧客全体の割合と考えるには情報が足りなかったということです。

仕事で活かす方法

数件の成功例や少人数の調査から全体を判断するときは、次の順番で確認します。

  1. 割合と一緒に件数を書く
    「満足度80%」だけでなく、「5人中4人」のように分母を必ず残します。80人中64人とは証拠の安定性が異なります。
  2. 誰を全体と考えたいのか決める
    全顧客なのか、新規顧客なのか、特定プラン利用者なのかを明確にします。母集団が曖昧なまま人数だけ増やしても、判断したい対象を表さない可能性があります。
  3. 最初の対象がどう選ばれたか確認する
    使いやすい顧客だけ、成功案件だけ、回答してくれた人だけになっていないかを確認します。標本数が多くても、選び方が偏っていれば別の問題が残ります。
  4. 追加の対象を別に集め、結果が安定するか見る
    最初の5人を繰り返し分析するのではなく、同じ条件で新しい対象を追加します。割合や平均が大きく動くなら、まだ少数の偶然に左右されている可能性があります。
  5. 重要な判断では「何人なら十分か」を目的から決める
    必要な標本数は一律に「30人」「100人」と決められません。許容したい誤差、元のばらつき、比較したい差などで変わります。大きな投資や重要な検証では、必要な精度を決めて標本数を設計し、信頼区間(標本から得た推定値の不確かさを幅で示す方法)も確認します。
  6. 少数の結果は結論ではなく仮説として使う
    「5人中4人が希望したので、この機能への需要が高い可能性がある。対象を広げて確認する」のように、次の調査につなげます。

実務で使いやすい確認は、「割合は何%か」より先に「何件中の結果か」「誰を調べた結果か」を見ることです。

参考文献・出典

  • Tversky, A., & Kahneman, D. (1971). Belief in the law of small numbers. Psychological Bulletin, 76(2), 105–110. ― 小さな標本を過度に代表的・安定的だと考える傾向を、84人の心理学専門家への質問などから示した中心研究。
  • Sedlmeier, P., & Gigerenzer, G. (1997). Intuitions about sample size: The empirical law of large numbers. Journal of Behavioral Decision Making, 10(1), 33–51. ― 標本数を考慮する研究と無視する研究の違いを整理し、課題の種類による違いを検討したレビュー。
  • Bishop, D. V. M., Thompson, J., & Parker, A. J. (2022). Can we shift belief in the ‘Law of Small Numbers’?. Royal Society Open Science, 9, 211028. ― 100人を対象に標本数を無視する判断と可視化トレーニングを検討し、訓練課題での改善が別の推論問題には一般化しなかったことを示した研究。