因果帰属バイアスとは?仕事の成功・失敗の原因をどう考えるか
営業目標を達成したときに「本人の実力が高かった」と考え、失敗したときには「市場が悪かった」と考える。あるいは、部下が納期に遅れたのを見て「責任感が足りない」と判断する。仕事では、結果を見た後に「なぜ起きたか」を説明する場面が数多くあります。
因果帰属バイアスとは、出来事や行動の原因を考えるときに、人・状況・偶然などの候補を均等に検討せず、特定の原因へ偏って説明することです。重要なのは、原因を考えないことではありません。最初に思いついた説明を事実とみなさず、他の原因候補と照合することです。
因果帰属バイアスとは?原因の見方に生じる偏り
心理学でいう「帰属」とは、行動や結果がなぜ起きたのかを、人がどの原因に結び付けて理解するかという考え方です。
Ross(1977)は、帰属研究を整理する中で、人が出来事を説明・予測するときに生じる複数の偏りを attributional biases として論じました。そのため、この記事では「因果帰属バイアス」を一つの固定した効果名ではなく、原因帰属に現れるさまざまな偏りの総称として扱います。
たとえば、他人の行動を状況より本人の性格で説明しやすい「基本的帰属の誤り」、成功を自分の力、失敗を外部要因で説明しやすい「自己奉仕バイアス」などは、帰属判断に関係する個別のパターンです。このサイトでは、それぞれを別の記事で扱います。
研究で分かっていること
帰属研究から分かるのは、原因の説明にはいくつもの候補があり、どの情報を見るかで判断が変わるということです。また、一つの結果に原因が一つだけとは限りません。
原因を考えるときは「他の人・別の場面・過去」を比較できる
Kelley(1973)は、原因を推測するときに、行動が何と一緒に変化しているかを見る考え方を整理しました。仕事で使いやすい形にすると、次の三つの情報を分けて考えられます。
- 合意性:同じ状況で、他の人も同じ結果になるか
- 弁別性:その人は別の仕事や状況でも同じ結果になるか
- 一貫性:同じ人が同じ状況で、繰り返し同じ結果になるか
たとえば一人の社員が特定のシステム導入案件だけで遅れていて、他の社員も同じ案件で遅れているなら、「本人の性格」だけでなく、案件固有の難しさや仕組みを確認する必要があります。反対に、その人だけが多くの案件で継続して同じ問題を起こしているなら、本人側の要因も検討する理由が強くなります。
この三つは、原因を自動的に決める公式ではありません。最初の印象だけで決めず、比較情報を集めるための手がかりとして使えます。
成功と失敗の原因は「内か外か」だけでは足りない
Weiner(1985)は、成功・失敗の原因を考えるとき、原因を少なくとも三つの性質で整理できるとしました。
- 所在:本人側の原因か、外部の原因か
- 安定性:今後も続きやすい原因か、変わりやすい原因か
- 統制可能性:本人や周囲が変えられる原因か、変えにくい原因か
たとえば「経験不足」と「能力がない」は、どちらも本人側の原因に見えます。しかし経験不足は訓練で変えられる可能性があり、「今後も変わらない原因」とは限りません。原因をどう捉えるかは、その後の期待、感情、行動にも関わります。
仕事で原因を考えるときも、「本人か環境か」だけで終わらず、変えられるのか、次回も続くのかまで分けると、対応を選びやすくなります。
一つの結果には複数の原因が関わることがある
Kun・Weiner(1973)は197人を対象に、成功や失敗を能力と努力、課題の難しさなどからどう説明するかを調べました。結果は、出来事によっては一つの原因だけでなく、複数の原因を組み合わせて判断することを示しました。
たとえば難しい課題での成功は、能力だけ、努力だけというより、両方が必要だったと考えられやすい条件がありました。実際の仕事でも、売上増加を「営業担当者の実力だけ」、失敗を「市場環境だけ」と一つの要因に固定すると、再現や改善に必要な条件を見落とす可能性があります。
上司が原因をどう見るかで、部下への対応も変わる
Mitchell・Wood(1980)は、部下の低い業績に対する上司の反応を二つの研究で調べました。合意性・一貫性・弁別性の情報は原因判断に使われ、低業績を部下本人の内的な原因だと判断したときほど、上司は懲罰的な対応を選びやすくなりました。
また、低業績の結果が深刻な条件では、本人側の原因と判断し、懲罰的な対応を選ぶ傾向が強くなりました。これは、原因の見方が単なる説明で終わらず、評価・指導・処分といった次の行動につながることを示しています。
「自分は状況、他人は性格」という単純な法則ではない
帰属研究では、自分の行動は状況、他人の行動は本人の性質で説明しやすいという「行為者―観察者バイアス」が長く知られてきました。
しかし、Malle(2006)が173件の研究をまとめたメタ分析(複数の研究結果をまとめて、全体としてどんな傾向があるかを調べる方法)では、一般的な行為者―観察者の差は平均するとほとんど確認されませんでした。出来事が肯定的か否定的か、当事者同士の関係など、条件によって結果が変わっていました。
そのため、帰属バイアスを「人は必ずこう原因判断する」という一覧として覚えるより、今の原因説明に必要な情報が抜けていないかを確認するほうが実務では役立ちます。
仕事での具体例
以下は研究で使われた場面ではなく、因果帰属を仕事で点検するための仮の例です。
プロジェクトで担当者が納期を3日遅らせたとします。上司は最初に「本人の段取りが悪かった」と考えました。
ここで原因を確定せず、次の情報を確認します。
- 同じ工程を担当した他のメンバーも遅れていたか
- 本人は他の案件でも納期遅れを繰り返しているか
- この案件だけ要件変更や承認待ちが多くなかったか
- 必要なスキルや情報は事前に渡されていたか
- システム障害や突発対応など偶発的な要因はなかったか
調べると、他のメンバーも同じ工程で遅れており、直前の仕様変更で承認が2日止まっていたとします。一方で、担当者自身も確認を一日遅らせていました。
この場合、「本人が悪い」「環境が悪い」のどちらか一つに決めるより、承認プロセスの問題と本人の確認行動の両方が関わったと考えるほうが、次の改善につながります。
仕事で活かす方法
- まず結果と原因を分けて書く
「納期が3日遅れた」は観察した結果です。「段取りが悪い」は原因の推測です。最初から一文にまとめないようにします。 - 原因候補を本人・状況・仕組み・偶然に分けて出す
能力、努力、情報不足、目標設定、業務量、システム、外部環境などを一度並べます。 - 合意性・弁別性・一貫性を確認する
他の人も同じか、その人は別の場面でも同じか、同じ条件で繰り返すかを見ます。 - 原因を「変えられるか」「続くか」で整理する
研修で変わる不足なのか、業務設計を直す必要があるのか、一時的な事故なのかを分けます。 - 複数原因の可能性を残す
本人と環境の両方が関わる場合があります。最も目立つ一要因だけで説明を終えないようにします。 - 原因に合った対応を選び、次の結果で見直す
能力不足なら支援や訓練、情報不足なら共有方法、業務量なら配分など、原因仮説に対応する行動を取り、改善したかを確認します。
活用するときの注意点
- 結果だけから原因を断定しません。成功したから判断が正しかった、失敗したから能力がなかった、とは限りません。偶然や他の要因が結果に影響する場合があります。
参考文献・出典
- Kelley, H. H. (1973). The Processes of Causal Attribution. American Psychologist, 28(2), 107–128. 合意性・弁別性・一貫性など、複数の情報から原因を推測する考え方の根拠。
- Ross, L. (1977). The Intuitive Psychologist and His Shortcomings: Distortions in the Attribution Process. Advances in Experimental Social Psychology, 10, 173–220. 帰属判断に生じる複数の偏りと、因果帰属バイアスを総称として整理する根拠。
- Kun, A., & Weiner, B. (1973). Necessary versus Sufficient Causal Schemata for Success and Failure. Journal of Research in Personality, 7(3), 197–207. 成功・失敗を能力や努力など複数の原因から判断する研究の根拠。
- Weiner, B. (1985). An Attributional Theory of Achievement Motivation and Emotion. Psychological Review, 92(4), 548–573. 成功・失敗の原因を所在、安定性、統制可能性などから整理する理論の根拠。
- Mitchell, T. R., & Wood, R. E. (1980). Supervisor’s Responses to Subordinate Poor Performance: A Test of an Attributional Model. Organizational Behavior and Human Performance, 25(1), 123–138. 上司の原因帰属と部下への対応の関係を調べた研究の根拠。
- Malle, B. F. (2006). The Actor–Observer Asymmetry in Attribution: A (Surprising) Meta-Analysis. Psychological Bulletin, 132(6), 895–919. 173研究をまとめ、一般的な行為者―観察者差が単純な法則ではないことを示したメタ分析。