生存者バイアスとは?成功例だけで仕事のやり方を決めないために

判断・認知バイアス
Psychology Laws 編集部

成功した案件や成長した会社を調べると、「このやり方が成功の共通点だ」と感じることがあります。しかし、比較に失敗した案件や撤退した会社が入っていなければ、その共通点が本当に成功と関係しているかは分かりません。

こうした問題に関係するのが、生存者バイアス(survivorship bias)です。生存者バイアスは、途中で失敗・撤退・脱落した対象がデータから抜け、残った対象だけを見て全体を判断することで生じる偏りです。

仕事では、成功例から学ぶことをやめる必要はありません。大切なのは、「この一覧から消えている対象は何か」を確認してから、成功例の共通点を解釈することです。

生存者バイアスとは 意味と仕組み

生存者バイアスは、調査や比較の対象に残るかどうかが結果と関係しているときに起こる選択バイアスの一種です。選択バイアスとは、分析に入った対象が全体を適切に表していないために、結論が偏る問題を指します。

たとえば「現在も成長している企業10社」を調べれば、そこには当然、廃業した企業は含まれません。10社すべてに共通する特徴が見つかっても、廃業した企業にも同じ特徴があったのなら、それだけでは成功の理由とは言えません。

ポイントは、成功例の情報が間違っていることではありません。観測できている対象が、最初に存在した対象の一部だけになっていることです。

研究で分かっていること

研究から分かるのは、残った対象だけで分析すると、本来はない差や規則性があるように見える場合があるということです。そのため、結果を解釈する前に、どの対象が分析から抜けたのか、抜ける条件が成果と関係していないかを確認する必要があります。

Waldの航空機分析は「戻った機体だけを見る」問題を扱った

Wald(1943、1980年再録)の報告は、第二次世界大戦中にコロンビア大学のStatistical Research Groupで作成された8本の覚書をまとめたもので、生還した航空機に残った損傷から、機体各部の脆弱性をどう推定するかを扱っています。

報告のPart VIIIには、方法を説明するための仮想データが示されています。1,000機を出撃させ、そのうち634機が実際に攻撃を行い、32機を戦闘で失ったという設定です。戻った機体には合計399発の命中が記録され、その内訳はエンジン45発、燃料系84発、その他の部分238発などでした。

命中数だけを見れば、「その他の部分」が最も危険に見えるかもしれません。しかし、Waldの方法では、その部分に1発当たったときに機体を失う確率を推定します。弾種を特定しない場合、エンジンは0.179(約17.9%)、その他の部分は0.038(約3.8%)でした。つまり、戻った機体では「その他の部分」の被弾が多くても、1発当たりの危険度はエンジンの方が高いという推定です。

ここで重要なのは、記録されている損傷が戻ってきた機体の損傷だという点です。致命的な場所に被弾した機体ほど記録に戻ってこない可能性があるため、「多く傷が残っている場所」と「攻撃されたときに危険な場所」は同じとは限りません。

投資信託の分析では、残った運用者だけで「好成績が続く」ように見えた

Brownら(1992)は、投資信託などの運用成績を調べるとき、成績が悪く消えた運用者がデータから抜けることで、過去の好成績が将来も続くように見える可能性を分析しました。

研究では、600人の運用者について年ごとのリターンを生成し、本来は各年の成績が連続して予測できない設定にしたうえで、成績の悪い運用者を分析対象から除外するシミュレーションを20,000回繰り返しました。

除外がない条件では、前の期間の「勝者」と次の期間の「勝者」が特に結びつく結果にはなりませんでした。ところが、各年の成績下位を5%、10%、20%と除外する条件を入れるほど、前に好成績だった運用者が次も好成績になるような見かけの持続性が強くなりました。たとえば10%を除外する条件では、本来は各年の成績が独立なのに、過去と次の成績に関係があるように見える結果が約4分の3のシミュレーションで生じました。

つまり、残った運用者だけを見ると、「勝てる人には持続的な実力がある」という結論に傾きやすくなります。しかし、その規則性の一部は、成績の悪い対象が途中でデータから消えたことによって作られた可能性があります。

新規事業の研究でも、早く消えた企業を捉えにくいことが問題になる

YangとAldrich(2012)は、新規事業の生存を調べる研究で、登録済みの企業だけを対象にすると、早い段階で失敗した事業を取りこぼす可能性を指摘しました。

さらに、事業の立ち上げ段階から追跡する調査でも、活動開始から最初に観測されるまでに時間差があると、その間に消えた事業が抜けます。これは左側切断(left truncation)と呼ばれる問題で、観測開始より前に脱落した対象が分析に入らないことを意味します。

この研究も、成功企業の特徴を見るだけではなく、どの段階から対象を数え始めたのかを確認する必要があることを示しています。

仕事での具体例

以下は説明用の仮の例です。

営業チームが、直近の受注案件20件を調べたところ、16件で提案前に顧客の責任者へヒアリングをしていました。そこで「責任者ヒアリングをすると受注しやすい」と考え、すべての案件で必須にしようとしています。

しかし、受注案件だけでは判断できません。同じ期間の失注案件60件も調べると、そのうち48件で責任者ヒアリングをしていたとします。

案件 責任者ヒアリングあり 割合
受注20件 16件 80%
失注60件 48件 80%

受注案件だけを見ると「成功例の80%に共通する方法」に見えます。しかし、失注案件でも80%なら、このデータだけでは責任者ヒアリングが受注を分ける要因だとは言えません。

成功事例を集めるだけでなく、同じ条件で始まった失敗例・中止例・未達例も比較に入れることで、共通点を成功要因と取り違えるリスクを減らせます。

仕事で活かす方法

成功事例から仕事のやり方を決める前に、次の順番で確認します。

  1. 最初の母集団を決める
    「今残っている顧客」ではなく「昨年度に契約した全顧客」、「成功した企画」ではなく「審査に進んだ全企画」のように、比較の出発点を決めます。
  2. 途中で消えた対象を挙げる
    失注、解約、撤退、中止、途中離脱、記録なしなど、現在の一覧から抜ける経路を書き出します。
  3. 成功例と非成功例で同じ項目を確認する
    「成功例の何%に特徴Aがあったか」だけでなく、「失敗例の何%にも特徴Aがあったか」を同じ定義で数えます。
  4. 記録がない対象を黙って除外しない
    不明なら「不明」として件数を残します。欠損が特定の失敗案件に偏っていれば、それ自体が判断材料になります。
  5. 共通点と原因を分ける
    成功例で多い特徴が見つかっても、それだけで成功の原因とは決めません。案件規模、顧客属性、担当者経験など別の違いがないかを確認してから施策を決めます。

実務で使いやすい問いは、「この成功例と同じスタート地点にいたのに、今ここに載っていない対象は何か」です。この問いを先に置くと、成功者だけを見た比較に気づきやすくなります。

参考文献・出典