アポフェニアとは?偶然のデータに意味を見いだす判断の注意点

判断・認知バイアス
Psychology Laws 編集部

売上グラフを見て、「この施策を始めた直後から数字が上がっている。やはり効果があった」と感じることがあります。ところが、期間を広げると以前にも同じ程度の上下があり、施策をしていない商品でも同時に売上が伸びていた、ということもあります。

アポフェニアとは、ランダムな出来事や本来は無関係な情報の間に、意味のあるパターンやつながりを見いだすことを指します。仕事では、データから仮説を見つけること自体は必要です。注意したいのは、「パターンが見えた」ことと「実際に関係がある」ことを同じにしないことです。

アポフェニアとは?意味と用語の背景

アポフェニアという言葉は、ドイツの精神科医Klaus Conradが1958年の著書で、統合失調症の初期に見られる「周囲の出来事が特別な意味を持ってつながって感じられる」経験を説明するために用いた言葉に由来します。Mishara(2010)は、Conradの概念を「一見関係のない意味の間に異常なつながりを経験すること」として解説しています。

現在は、より広い意味で、ランダム・無関係な出来事に意味ある関係を見いだす傾向を「アポフェニア」と呼ぶ場合があります。心理学の実験研究では、近い現象を錯覚的パターン知覚(illusory pattern perception)として調べることもあります。

たとえば、コイン投げで「表・表・裏・表・裏・裏」と続いたときに「何か規則がある」と感じたり、毎週水曜日に売上が高い日が数回続いただけで「水曜日は売れる」と考えたりする場合です。実際に規則が存在する可能性もありますが、偶然でもパターンらしい並びは生まれます。

研究で分かっていること

研究では、人がランダムな刺激にもパターンを見いだすことが確認されています。ただし、「不安やコントロール感の低下が必ずアポフェニアを強める」といった単純な説明は、後の研究で一貫して支持されているわけではありません。

無関係な情報にも意味ある関係を見つけることがある

Whitson・Galinsky(2008)は6つの実験で、ランダムまたは無関係な刺激の間に意味ある関係を見つける「錯覚的パターン知覚」を調べました。

研究では、ノイズ画像の中に像を見る、株式市場の情報に実際にはない相関を見いだす、出来事を陰謀として結び付ける、迷信的な関係を作るといった複数の課題が使われました。著者らは、自分で状況を動かせるという感覚であるコントロール感を失った条件で、こうしたパターン知覚が増える結果を報告しました。

この研究は、仕事に近い「数字の並びから関係を読み取る」場面でも、実際には無関係な情報を関連づける可能性があることを示しています。

「コントロール感がないほどパターンを見る」は再現が安定していない

一方で、van Elk・Lodder(2018)は7つの実験で、コントロール感を低下させる操作と、錯覚的な関連・陰謀信念・超常信念・パターン知覚などの関係を調べました。

その結果、どの主要な指標でも、コントロール感を低下させる操作によって錯覚的パターン知覚が増える明確な証拠は得られませんでした。著者らが関連研究を再分析した結果でも、出版バイアス(肯定的・目立つ結果の研究ほど公表されやすく、研究全体の傾向が偏って見える問題)の可能性と、従来より小さな効果が示されました。

したがって、「不安定な状況では人は必ず意味のないパターンを見る」と一般化することはできません。仕事で役立つのは、特定の心理状態を決めつけることより、見つけたパターンが本物かを検証する手順を持つことです。

ランダムな並びでも「規則がある」と感じる人はいる

van Prooijen・Douglas・De Inocencio(2018)は5つの研究で、ランダムな刺激のパターン知覚を調べました。

研究1では米国の264人が、ランダムに生成されたコイン投げの並びにどの程度パターンがあると感じるかを評価しました。研究2では、パターンを探すよう指示することで、ランダムな並びへのパターン知覚が強まりました。

この研究は陰謀信念や超自然的信念との関係を調べることが主目的でしたが、仕事で重要なのは、ランダムなデータでも「並びに意味がありそう」と感じることがあるという点です。

パターンを「見つける力」と、何でもパターンと答える傾向は別

Müller・Hartmann(2023)は723人を対象に、画像の中に実際に対象がある場合と、ない場合を見分ける課題を使いました。

この研究では、単に「パターンを多く見つけたか」ではなく、実際のパターンを見分ける感度、何かがあると答えやすい反応傾向、何もないのに「ある」と答える誤検出を分けて分析しています。

結果は、錯覚的パターン知覚を考えるときに「たくさんパターンを発見する人ほど観察力が高い」とは限らないことを示しています。仕事のデータ分析でも、発見数だけでなく、見つけた規則が別のデータでも当たるかを確かめる必要があります。

仕事での具体例

以下は研究で使われた場面ではなく、アポフェニアを仕事で考えるための仮の例です。

Webサイトの担当者が、直近6週間の売上を確認したところ、メールマガジンを火曜日に配信した週は、水曜日の売上が高いことに気づいたとします。

そこで「火曜日のメール配信によって、水曜日の売上が伸びる」と考えました。しかし、確認すると次の事情もありました。

  • 水曜日に給料日が重なった週があった
  • 同じ時期に検索広告の予算も増えていた
  • メールを配信していない週にも同程度の売上増があった
  • 6週間だけでなく半年分を見ると、水曜日だけが高いとは言えなかった

最初に見つけた並びは、仮説を作るきっかけとしては有用です。ただし、その時点では「メールが売上を増やした」という結論ではありません。別の期間や比較対象で同じ関係が再現されるかを確認する必要があります。

仕事で活かす方法

  1. 観察した事実と、自分が付けた意味を分ける
    「メール配信の翌日に売上が上がった」は観察です。「メールが原因で上がった」は解釈です。最初から一つにしません。
  2. データを見る前に考えていた仮説か確認する
    グラフを見てから説明を作った場合は、偶然の特徴を拾った可能性が高くなります。「後から見つけた仮説」として扱い、別データで確認します。
  3. 比較対象を置く
    施策をしていない商品、別の期間、前年同期など、同じ変化が他でも起きていないかを確認します。
  4. 期間や対象を変えても再現するか見る
    数日だけ、数人だけで見える規則ではなく、別期間・別顧客でも同じ傾向が続くか確かめます。
  5. 反対の例を探す
    仮説に合う日だけでなく、「施策をしたのに上がらなかった日」「施策なしで上がった日」も集めます。
  6. 重要な判断では統計的な検証や小規模テストを使う
    大きな投資や制度変更につなげる場合は、偶然の変動を考慮できる分析や、条件Aと条件Bを実際に分けて結果を比べるA/Bテストなどで確認します。

活用するときの注意点

  • 偶然に見えるものが本当に偶然とは限りません。アポフェニアを知ったからといって、すべての関係を「気のせい」と切り捨てるのも適切ではありません。検証して区別します。

参考文献・出典