バックファイア効果とは?誤情報の訂正は本当に逆効果になるのか

判断・認知バイアス
Psychology Laws 編集部

社内チャットで「新プランの解約率は20%らしい」という誤った数字が広まったとき、「強く訂正すると、かえって相手が意地になって信じ込むのでは」と心配することがあります。こうした不安と一緒に語られるのが、バックファイア効果(backfire effect)です。

バックファイア効果とは、誤情報を訂正した結果、訂正前や訂正なしの場合よりも、かえって誤情報への信念が強まる現象を指します。

ただし、現在の研究から「誤情報は訂正すると逆効果になるのが普通」とは言えません。大規模な再検証やレビューでは、バックファイア効果は、条件や研究を変えても繰り返し確認される一般的な現象ではなく、訂正は多くの場合、誤った信念を弱める方向に働くと整理されています。

仕事では、逆効果を恐れて誤情報を放置するのではなく、何が正しく、何が誤りで、なぜそう言えるのかを確認できる形で伝えることが大切です。

バックファイア効果とは 意味と注意点

バックファイア効果は、単に「訂正しても完全には信じてもらえなかった」という意味ではありません。訂正によって誤情報への信念が、訂正しない場合より強くなることを指します。

ここは、継続的影響効果(continued influence effect)と区別する必要があります。継続的影響効果とは、誤情報が訂正された後でも、その情報が推論や判断に一部残る現象です。訂正後も誤情報の影響が残ることと、訂正によって誤信念がさらに強くなることは同じではありません。

また、研究では、自分の世界観に反する訂正への反発を想定した「世界観バックファイア」や、訂正の中で誤情報を繰り返すことで親しみが増すとする「親近性バックファイア」などが論じられてきました。しかし、後続研究では再現されない例が多く、現在は慎重に扱われています。

研究で分かっていること

研究全体を見ると、バックファイア効果は「訂正するとよく起こる現象」とは言えません。初期研究では一部の条件で確認されましたが、その後の大規模研究では再現されないことが多く、レビューでも条件を変えても同じ結果が繰り返し確認されるとは言いにくいと整理されています。

初期研究では、一部の政治的誤情報で逆方向の変化が報告された

NyhanとReifler(2010)は、政治家による誤った主張を含む模擬ニュース記事と、その主張に事実確認による訂正を加えた記事を使い、4つの実験を行いました。

その一部では、イラク戦争前の大量破壊兵器など、政治的立場と関係する誤情報について、訂正を見せた特定の参加者群で、訂正なしの条件より誤った回答が強くなる結果が報告されました。

この研究は「訂正が逆効果になる場合がある」という議論の重要な出発点になりました。ただし、同じ論文のすべての実験、すべての参加者、すべての誤情報でバックファイアが起きたわけではありません。

1万人を超える再検証では、52の争点でバックファイアは見つからなかった

WoodとPorter(2019)は、バックファイア効果が広く起こるのかを、より大きな規模で検証しました。

研究は5つの実験、合計1万100人を超える参加者を含み、政治的・社会的に意見が分かれやすい52の争点について誤情報と訂正を提示しました。研究者は、価値観との衝突によるバックファイアが起こりそうな題材を意図的に選んでいます。

しかし、52の争点のうち、訂正によって誤信念が強まったものはありませんでした。多くの場合、参加者は自分の政治的・思想的立場と衝突する訂正であっても、事実に近い方向へ回答を動かしました。

この結果から、初期研究で見られた現象を、そのまま「人は自分の信念に反する訂正を受けると逆に信じ込む」という一般則にはできないことが分かります。

レビューでも「繰り返し確認される現象ではない」と整理されている

Swire-Thompsonら(2020)は、世界観バックファイアと親近性バックファイアに関する研究をレビューしました。

その結果、後続研究ではバックファイアを再現できない例が多く、著者らはバックファイア効果は、研究条件を変えても安定して繰り返し確認される現象ではないと結論づけています。また、少人数や単一質問による測定では、偶然の変化をバックファイアと見誤る可能性があることも指摘しました。

同じく、Eckerら(2020)は、訂正の中で初めて誤情報に触れる場合も含め、3実験・合計1,718人で「親近性バックファイア」を検討しました。全体として、訂正によって誤情報を知った人が、訂正も誤情報も見なかった人より誤信念を強める結果は確認されませんでした。

訂正は「正しい情報と理由」を示す方が使いやすい

Eckerら(2022)のレビューでは、誤情報を訂正するときの実務的な考え方として、正しい情報を先に示すこと、信頼できる根拠を使うこと、訂正を分かりやすくすること、なぜ誤りなのかを説明すること、可能なら代わりとなる正しい説明を示すことなどが整理されています。

これは「バックファイアを防ぐ魔法の型」ではありません。訂正後も誤情報の影響が残る場合はあります。しかし、現在の研究からは、逆効果を恐れて訂正そのものを避ける根拠は乏しいと考えられます。

仕事での具体例

以下は説明用の仮の例です。

社内チャットで「新プランの解約率は20%を超えているらしい」という投稿が広まり、営業担当者が「このプランは問題が多い」と考え始めたとします。

担当部署が同じ定義で確認すると、直近3か月の対象顧客500社のうち解約は40社で、解約率は8%でした。一方、「20%」は、その3か月のうち特定の1週間だけを取り出した25社中5社の解約率でした。1週間の値として20%という計算自体は合っていますが、期間と母数の違う数字を3か月全体の解約率として扱ったことが誤りでした。

この場面で、「それはデマです」とだけ返すより、次のように情報を分ける方が確認しやすくなります。

伝える内容 例
正しい情報 直近3か月の解約率は8%です
3か月の根拠 対象500社のうち40社が解約しています
20%の意味 3か月のうち特定の1週間では25社中5社が解約していました
訂正する理由 1週間・25社の割合を、3か月・500社の割合として扱わないためです
確認先 期間・対象顧客・計算方法を記載した同じダッシュボード

仕事で活かす方法

社内や顧客対応で誤情報を訂正するときは、次の順番で整理すると確認しやすくなります。

  1. 最初に正しい情報を一文で示す
    「直近3か月の解約率は8%です」のように、読んだ人が最初に正しい結論を把握できるようにします。
  2. 何を訂正しているのか短く示す
    「20%は1週間・25社中5社の割合で、3か月全体の解約率ではありません」のように、期間と母数の違いまで示します。誤情報を何度も繰り返す必要はありません。
  3. 根拠を確認できる形にする
    対象期間、母数、計算方法、一次資料などを示します。「こちらが正しい」と断言するだけで終わらせません。
  4. なぜ誤った数字になったのか説明する
    期間の違い、対象の違い、古い資料、集計方法の違いなど、誤解が生じた理由を示すと、古い説明を置き換えやすくなります。
  5. 最後に正しい情報をもう一度確認する
    「したがって、現在の判断には3か月・500社を対象にした8%を使います」のように、今後使う情報を明確にします。
  6. 重要な誤情報は後からも訂正を参照できるようにする
    会議だけで訂正せず、議事録、よくある質問をまとめたページ、ダッシュボードなど、同じ誤情報が出たときに確認できる場所へ残します。

訂正の目的は、相手の考えを否定することではなく、次の判断に使う共通の事実を更新することです。

参考文献・出典