計画錯誤とは?納期や作業時間を見積もるときの注意点

意思決定理論・行動経済学
Psychology Laws 編集部

「この資料なら3日で終わります」「前回も予定より遅れたけれど、今回は順調に進むはず」。仕事の見積もりでは、こうした予測が思ったより簡単に外れることがあります。

計画錯誤(planning fallacy)とは、自分がこれから行う作業の完了時間を、過去の類似した作業が予定より長引いた経験を知っていても、短く見積もりやすい傾向です。計画の中身を具体的に思い描く一方で、過去の実績を十分に見積もりへ反映しないことが、この現象の重要な特徴とされています(Buehler et al., 2010)。

この記事では、計画錯誤の意味と研究結果を確認したうえで、納期や作業時間を見積もるときに、過去の実績や工程をどう使えばよいかを説明します。

計画錯誤とは?意味と「今回はうまくいく」という見積もり

計画錯誤は、KahnemanとTverskyが1979年に示した考え方です。古典的な説明では、人は現在の計画について「この作業をして、次にこれをして……」と個別の筋書きを組み立てる内側の見方に集中しやすく、過去の類似案件が実際にどれくらいかかったかという外側の情報を十分に使わないと考えます(Buehler et al., 2010)。

たとえば、過去3回の資料作成に4日、6日、5日かかっていても、今回の計画を細かく考えると「構成1日、作成1日、確認1日で3日」と見積もることがあります。今回だけ3日で終わる特別な理由が確認できていないなら、過去実績と現在の予測にずれが生じています。

なお、計画錯誤は「楽観的な人は何でも甘く見る」という性格の説明ではありません。また、後に企業や公共事業の文脈では時間だけでなく費用や便益の予測まで広く論じられていますが、心理学での古典的な研究は主に自分の作業がいつ終わるかという時間予測を扱っています。

研究で分かっていること

卒論の見積もりは、実際の完了までの日数より短かった

Buehler、Griffin、Ross(1994)は、卒業論文に取り組んでいた心理学専攻の学生37人に、完成までに何日かかると思うかを予測してもらいました。

完了時期を確認できた学生では、平均予測は33.9日だったのに対し、実際の完了までは平均55.5日かかりました。自分が予測した日までに完成した学生は29.7%でした。また、「すべてが悪い方向に進んだ場合」の予測でも平均48.6日で、実際の平均より短い見積もりでした(Buehler et al., 1994)。

この研究の重要な点は、見積もりが単にばらついたのではなく、全体として実際より短い方向へ偏っていたことです。

予測するときは、過去より「今回の進み方」を考えやすい

同じ論文の別の実験では、参加者が完了時間を予測するときに何を考えているかを調べました。その結果、参加者は過去に似た作業がどれくらいかかったかよりも、これから作業がどう進むかという未来の筋書きに重点を置いていました(Buehler et al., 1994)。

一方、研究のStudy 4では、過去の関連する経験を今回の予測へ明示的に結びつけるよう指示された参加者では、楽観的な時間予測の偏りが解消されました。つまり「前回は遅れた」と知っているだけではなく、その実績を今回の見積もりに使うことが重要だと考えられます。

複雑な作業は、工程に分けると見積もりが改善することがある

KrugerとEvans(2004)は、買い物、外出準備、文書の書式設定、料理など複数の課題を使い、作業を構成する工程を一つずつ考えてから時間を予測する方法を調べました。

工程を分けて考えるよう促された参加者は、そうでない参加者より長い時間を見積もりました。文書作業と料理を扱った実験では、その見積もりは実際の所要時間により近くなりました。また、作業が複雑で多くの工程を含むほど、工程を分けて考える影響が大きいことも示されています(Kruger & Evans, 2004)。

ただし、工程分解だけでどんな仕事の見積もりも正確になるとまでは言えません。研究で効果が確認された条件を踏まえ、特に複数の工程や見落としやすい作業があるときの補助として使うのが適切です。

仕事での具体例と活かし方

ここからは、研究結果を仕事の見積もりへ応用するための説明用の例です。

営業チームが、新しい提案書の完成まで「3営業日」と見積もったとします。担当者は、構成に1日、資料作成に1日、最終確認に1日と考えました。しかし、過去の似た提案書3件を見ると、実際には4日、6日、5日かかっています。

このとき、「今回は3日でできるか」を議論するだけではなく、次のように確認します。

  1. 完了条件を決める
    「初稿ができた時点」なのか、「上司の確認と修正を終えて提出できる時点」なのかをそろえます。完了の定義が違えば、過去実績と比較できません。
  2. 工程を一度分けてみる
    情報収集、構成、作成、関係者確認、修正、最終確認など、実際に必要な作業を書き出します。これは複雑な作業で見落としを減らすための考え方です。
  3. 似た仕事の実績を見る
    過去の同種案件について、予定ではなく実際にかかった時間を確認します。Flyvbjerg(2008)が実務で紹介する参照クラス予測も、個別計画だけを見るのではなく、比較可能な過去案件の実績を基準に予測する方法です(Flyvbjerg, 2008)。
  4. 今回だけ早くできる理由を具体化する
    テンプレートが完成している、確認者が一人に減った、自動化した工程があるなど、過去との差を確認します。「今回はうまくいきそう」という感覚だけでは短縮理由にしません。
  5. 予測と実績を残す
    「3日と見積もったが実際は5日」のように記録します。次回は記憶ではなく実績を参照できるため、外側の情報を使いやすくなります。

たとえば過去3件が4日、6日、5日で、今回の見積もりが3日なら、「なぜ今回は過去より1~3日短くできるのか」を説明できるか確認します。説明できなければ、まず過去実績を基準に考え直すほうが安全です。

反対に、過去より短くできる根拠が確認できるなら、単純に過去平均へ合わせる必要はありません。重要なのは、現在の計画だけでなく、過去の実績と今回の違いを同じ判断材料にすることです。

参考文献・出典