過信バイアスとは?判断への自信と正確さを分けて考える
「この案件はかなり決まりそうだ」「この見積もりなら間違いない」と強く感じても、その自信の強さがそのまま判断の正確さを表すとは限りません。こうしたずれを考えるときに使われるのが、過信(overconfidence)です。
ただし、研究上の過信は一つの現象ではありません。自分の成績を実際より高く見積もる場合もあれば、他人より上だと思いすぎる場合、予測の幅を狭く取りすぎる場合もあります。
仕事で重要なのは、「自信が強いか」ではなく、「同じ程度の自信を示した判断が、実際にどれくらい当たっているか」を記録で確かめることです。
過信バイアスとは 意味と仕組み
MooreとHealy(2008)は、過信の研究を大きく3種類に整理しています。
- 過大評価(overestimation):自分の実際の成績や能力、成功確率などを高く見積もること。
- 過大な相対評価(overplacement):自分が他の人より良い成績を出すと考えすぎること。
- 過剰精密性(overprecision):自分の予測や知識の正確さについて、実際以上に確実だと考えること。
日常語ではこれらをまとめて「過信バイアス」と呼ぶことがありますが、研究結果を読むときは分ける必要があります。たとえば、自分の成績を高く見積もっていても、他人との比較では自分を低く評価することがあります。
そのため、「人はいつも自分を高く評価する」という単純な法則ではありません。
研究で分かっていること
研究では、自信と正確さのずれは確認されていますが、その方向や大きさは課題や測り方によって変わります。とくに一貫して問題になりやすいのは、自分の判断を実際以上に精密だと考える過剰精密性です。一方、自分の成績の過大評価は、難しい課題では見られても、簡単な課題では逆方向になることがあります。
難しい課題では成績を過大評価し、簡単な課題では過小評価した
MooreとHealy(2008)は、カーネギーメロン大学の学生82人を対象に、過信の3種類を同じ実験で測定しました。
参加者は、科学、映画、歴史、スポーツ、地理、音楽の6分野について、各10問のクイズを18回受けました。それぞれの分野には簡単・中程度・難しいクイズがありました。
予測は1回だけではありません。各ラウンドで、参加者は回答前に自分と比較相手の得点分布を予測し、回答後・正解や得点のフィードバックを受ける前にも予測し直しました。さらに正解を見て自分の得点を確認した後には、過去に同じクイズを受けた参加者から無作為に選ばれた比較相手の得点をもう一度予測しました。
このように、研究では「回答前」「回答後で結果を知らない段階」「自分の結果を確認した後」を分けて測定しています。以下の8.64点や1.50点は、回答後・フィードバック前に本人が見積もった自分の得点です。
結果を見ると、簡単なクイズの実際の平均得点は8.86点で、参加者が回答後に見積もった平均は8.64点でした。つまり、簡単な課題では平均0.22点ほど自分を低く見積もっていました。
一方、難しいクイズでは実際の平均得点が0.71点だったのに対し、本人の見積もりは1.50点でした。こちらは平均0.79点の過大評価です。
この結果は、過信がいつでも「自分を高く評価する」という形で現れるわけではないことを示しています。課題が簡単か難しいかによって、自己評価のずれの方向が変わりました。
「約90%の範囲」と考えた予測に、実際の得点が入ったのは73.1%だった
同じ実験では、参加者が示した得点の確率分布から、約90%の確信を置いている得点範囲も調べています。
ここでの90.5%と73.1%は、特定の難易度や一つの測定段階だけの値ではありません。簡単・中程度・難しいクイズ、18回のラウンド、利用できる各測定段階、自分自身と比較相手についての予測をまとめた集計です。
その全体で、選ばれた範囲は平均すると90.5%の確信度を表していましたが、実際の得点がその範囲に入った割合は73.1%でした。つまり、集計全体では、本人が考えていたほど予測範囲は正確ではありませんでした。
これは過剰精密性の例です。「絶対にこのあたりだ」と予測の幅を狭く取りすぎると、実際の結果が想定範囲から外れやすくなります。
なお、この研究でも自信と正確さが無関係だったわけではありません。より不確かだと考えて広い範囲を示した判断ほど、実際の得点から離れる傾向もありました。自信には情報が含まれているが、その強さを額面どおりの正確さとして受け取れないというのが重要な点です。
測り方によって、過信の見え方は大きく変わる
Klaymanら(1999)は3つの実験から、自信と正確さの系統的なずれは確認できる一方、その大きさは判断の形式によって大きく異なると報告しました。
二者択一問題では全体的な過信は小さかったのに対し、数値の答えについて「正解が入る範囲」を答える主観的な信頼区間では、明確な過信が見られました。過信を一つの固定した性質として扱うのではなく、何を、どの形式で予測したのかを見る必要があります。
記録とフィードバックがある予測では、過信が小さい場合もある
Mooreら(2017)は、3年間にわたる地政学的な予測大会で、数千人の予測者が数百の出来事について行った予測を分析しました。
この研究でいう「過信」は、予測者が付けた確信度が、実際の的中率をどれだけ上回ったかで見ています。
論文本文では、全体の平均確信度は65.4%、実際の的中率は63.3%で、差は2.1パーセントポイントでした。さらに、確率の考え方に関する訓練を受け、チームで予測した条件では、平均確信度64.3%、的中率63.6%で、差は0.7パーセントポイントでした。
この結果は、「人は必ず過信する」と考える必要がないことも示しています。予測を確率で表し、結果を継続して確認し、訓練や他者との検討を行う環境では、自信と正確さを近づけられる可能性があります。
仕事での具体例
以下は説明用の仮の例です。
営業担当者が商談ごとに「受注する確率」を記録しているとします。担当者は、かなり有望だと思った案件を「受注確率80%」として記録しました。
1件だけなら、受注しても失注しても「80%という予測が正しかったか」は判断できません。80%とは、同じように80%と予測した案件を多数集めたとき、およそ8割が成立するという意味だからです。
そこで半年後、80%前後と予測した案件が20件たまった時点で確認したところ、実際に受注したのは12件だったとします。
| 確認する内容 | 結果 |
|---|---|
| 記録した確信度 | 80%前後 |
| 対象案件 | 20件 |
| 実際の受注 | 12件 |
| 実現率 | 60% |
この場合、20件という限られた記録だけで本人に恒常的な過信があると断定はできません。ただ、少なくとも「80%くらい確実」と判断した案件群の実績は60%だったという、次の予測を見直す材料が得られます。
仕事で活かす方法
自信と正確さを分けて確認するには、予測した時点の判断を残し、後から実績と比べます。
- 結果が決まる前に予測を書く
「受注する」「期限内に完了する」など、後で結果を○か×か判断できる問いにします。結果を知った後で当時の自信を思い出そうとすると、記憶が変わる可能性があります。 - 確信度を数字で残す
「たぶん」「かなり自信がある」だけでなく、60%、70%、80%などの確率で記録します。予測日と結果が判明する期限も一緒に残します。 - 結果が出たら予測を消さずに記録する
受注・失注、期限内・遅延など、最初に決めた基準で結果を入力します。外れた予測だけを書き換えないことが重要です。 - 同じ確信度の予測をまとめる
70%前後と予測した案件を集め、実際に何%成立したかを確認します。70%の予測が十分な件数あり、実現率もおよそ70%なら、その範囲では自信と実績が比較的よく対応しています。 - ずれの方向を次の判断に使う
80%予測の実現率が一貫して低ければ、確信度を下げるか、予測時に見落としている条件を探します。反対に実現率の方が高ければ、必要以上に慎重になっていないかを確認します。
このように、自分の判断を予測→結果→比較の形で残すと、「私は自信があるから正しい」ではなく、「これまでこの確信度の予測はどれくらい当たったか」で判断できます。
参考文献・出典
- Moore, D. A., & Healy, P. J. (2008). The Trouble With Overconfidence. Psychological Review, 115(2), 502–517. ― 過信を過大評価・過大な相対評価・過剰精密性の3種類に整理し、82人・18回のクイズ実験で同時に検討した中心研究。
- Klayman, J., Soll, J. B., González-Vallejo, C., & Barlas, S. (1999). Overconfidence: It Depends on How, What, and Whom You Ask. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 79(3), 216–247. ― 過信の大きさが判断形式や対象によって大きく異なることを3つの実験で検討した研究。
- Moore, D. A., Swift, S. A., Minster, A., Mellers, B., Ungar, L., Tetlock, P., Yang, H. H. J., & Tenney, E. R. (2017). Confidence Calibration in a Multiyear Geopolitical Forecasting Competition. Management Science, 63(11), 3552–3565. ― 3年間の予測大会で確信度と正確さの対応を調べ、訓練やチーム協力との関係を検討した研究。