アクション・バイアスとは?「何かしなければ」と動く判断を考える
売上が急に落ちたり、システムで障害が起きたりすると、「とにかく何かしなければ」と感じることがあります。設定を変える、担当を入れ替える、施策を追加する。動いている方が、何もしないより責任を果たしているように見えるからです。
しかし、情報が足りない段階で動くと、原因を分からなくしたり、別の問題を増やしたりすることもあります。行動する合理的な理由が十分でないのに、行動すること自体を好む傾向は、アクション・バイアスと呼ばれます。
大切なのは、「行動すること」と「良い判断」を同じものにしないことです。待つ、観察する、追加情報を集めることが合理的な場面もあります。一方で、行動によって情報が得られる場合や、待つことで損失が広がる場合には、動く方が合理的です。
アクション・バイアスとは?行動そのものを好む判断の偏り
PattとZeckhauserは2000年、アクション・バイアスを、行動を好むことに合理的な理由がある場面で身についた傾向が、その理由が当てはまらない場面にも持ち込まれることとして論じました(Patt & Zeckhauser, 2000)。
つまり、「動く人は立派」「何もしないのは怠慢」という意味ではありません。次の二つを比べたときに、結果や情報の価値ではなく、動いたという事実そのものが判断を押していないかがポイントです。
- 行動する:設定を変える、追加施策を始める、担当を替える、検査を増やす。
- 行動しない:現在の状態を維持する、一定期間観察する、追加情報が出るまで待つ。
行動による期待利益が大きいなら、動くのはバイアスではありません。反対に、待機の方が期待される結果が良いのに、「何かした方が説明しやすい」「動かないと後悔しそう」という理由で行動を選ぶなら、アクション・バイアスを疑う余地があります。
オミッション・バイアスとの関係
アクション・バイアスとは反対に、行動して悪い結果を生むことを、何もしないことで同じ結果が起きる場合より重く感じる傾向は、オミッション・バイアス(不作為バイアス)として研究されています。
どちらが起きやすいかは、行動と不行動のどちらが「普通」と感じられる場面かによって変わります。FeldmanとAlbarracínの4つの実験では、悪い結果が起きたときの後悔について、社会的な標準が不行動なら行動の後悔が強く、行動が標準ならその差が弱まったり逆転したりしました(Feldman & Albarracín, 2017)。
そのため、「人はいつも行動したがる」と考えるより、その職場や役割で、何をすることが普通・期待されているかを見る方が適切です。
研究で分かっていること
アクション・バイアスは、環境政策、医療、スポーツなどで検討されてきました。ただし、有名な実例の一部は再検証で異なる結果が出ています。行動が多いという観察だけで、「非合理なバイアスだ」と結論づけないことが重要です。
環境判断では「改善する行動」が好まれた
PattとZeckhauserは2000年、仮想的な環境政策の判断を使って、行動への選好を調べました。たとえば、一方の地域を悪い状態から良い状態へ改善する選択と、別の地域が良い状態から悪化するのを防ぐ選択を比べると、結果の枠組みが対応していても、参加者は「改善する」方を好む傾向を示しました。
研究者は、成果に自分が働きかけたという感覚が、選択の価値に加わる可能性を論じています。ただし、この研究は主に仮想的な意思決定を使ったものであり、実際の職場で同じ強さの効果が起きるとまでは言えません(Patt & Zeckhauser, 2000)。
医師の調査では、不確実な場面で「調べる・治療する」が多く選ばれた
Kidermanらは2013年、イスラエルのプライマリケア医130人に調査を依頼し、100人が回答しました。回答者には、明確な診断がなく緊急性もない患者について5つの仮想事例を示しました。
回答では、検査、専門医への相談、救急部への紹介、薬の処方など何らかの行動を選ぶ回答が87%で、経過観察だけを選ぶ回答は13%でした。研究者は、この傾向をアクション・バイアスと整合するものと説明しています(Kidermanら, 2013)。
ただし、この研究は医師への質問紙調査です。実際にどの選択が患者にとって最善だったかを比較したものではないため、「行動を選んだ医師が誤っていた」とまでは言えません。ここでも、行動の多さとバイアスは区別する必要があります。
有名なPK研究では「跳ぶ方が不利」と報告された
Bar-Eliらは2007年、世界のトップリーグや大会から286本のサッカーのPKを分析しました。研究では、キック方向の分布を踏まえるとゴールキーパーは中央に残る方がセーブ率を高められるのに、実際にはほとんど左右へ跳んでいたと報告しました。
さらに32人のトップレベルのゴールキーパーへの調査から、左右へ跳ぶことが通常の行動だと捉えられていることを示し、「中央で何もしないまま失点する」方が悪く感じられるために行動が選ばれる可能性を説明しました(Bar-Eliら, 2007)。
2026年の再検証では、PKのアクション・バイアスは確認されなかった
この有名な結果について、SinghとMukherjeeは2026年、1982〜2022年の男子ワールドカップから、枠内に飛んだ292本のPKを使って再検証しました。
ゴールキーパーは中央に残るより左右へ跳ぶことが多かったものの、跳んだ場合と中央に残った場合のセーブ率には統計的に明確な差がありませんでした。また、キッカーも中央より左右へ蹴ることが多く、研究者は「跳ぶ頻度が高いこと自体を、最適でない行動の証拠とは扱えない」と結論づけています(Singh & Mukherjee, 2026)。
この再検証は、アクション・バイアスという考え方そのものを否定するものではありません。ただし、行動が多いだけでは、その行動が非合理かどうかは分からないという重要な注意点を示しています。
「何かする」と「待つ」をどう比べればよいか
仕事では、行動にも不行動にもコストがあります。そこで、「動くべきか」を考えるときは、行動量ではなく次の点を比べます。
| 確認すること | 行動する場合 | 待つ場合 |
|---|---|---|
| 期待される利益 | 問題を早く止められるか | 追加情報で判断精度が上がるか |
| 損失・副作用 | 別の問題を増やさないか | 放置で損失が広がらないか |
| 元に戻せるか | 変更を簡単に取り消せるか | 後から行動しても間に合うか |
| 情報の価値 | 小さく試すことで原因を特定できるか | 観察を続けることで必要な情報が得られるか |
「今すぐ何かする」か「何もしない」かの二択にする必要もありません。影響範囲を限定したテストや、一部だけ変更する可逆的な行動なら、情報を集めながら動くことができます。
仕事での具体例と活かし方
以下は研究で確認された企業事例ではなく、アクション・バイアスを仕事で点検するための仮の場面です。
Webサービスで、午後から申込数が急に30%減ったとします。原因はまだ分かりません。担当者は「何もしないわけにはいかない」と考え、広告配信、料金表示、申込フォームを同時に変更しようとしています。
この場面で複数箇所を一度に変更すると、申込数が戻っても何が原因だったのか分からなくなります。逆に、本当に障害が続いているなら、ただ待つだけでも損失が増えます。
そこで、次の順番で判断します。
- 先に「何を守るか」を決める。
申込数、顧客への影響、データの取得など、今回の判断で優先する目的を明確にします。 - 行動と待機を同じ表で比べる。
設定変更の副作用と、変更せずに待つことで広がる損失を両方書き出します。「動いた方が安心」という感覚だけを理由にしません。 - 緊急の停止条件を決める。
エラー率や申込失敗率が一定値を超えたら即時対応するなど、行動が必要になる条件を先に決めます。 - 動くなら、小さく元に戻せる形で動く。
一度に複数の変更をせず、原因候補を一つずつ切り分けます。必要なら一部ユーザーだけで変更を試します。 - 「何もしなかった」ではなく「観察を選んだ」と記録する。
次の確認時刻、見る指標、行動に切り替える条件を書いておけば、待機も明確な意思決定になります。
アクション・バイアスを避ける目的は、行動を減らすことではありません。行動と不行動のどちらが目的に合うかを比べ、必要なら情報を増やすための小さな行動を選ぶことです。「何かした」という事実ではなく、結果と根拠で判断することが重要です。
参考文献・出典
- Patt, A., & Zeckhauser, R. (2000). Action Bias and Environmental Decisions. — アクション・バイアスを理論的に整理し、仮想的な環境判断で行動への選好を検討した研究。
- Bar-Eli, M., Azar, O. H., Ritov, I., Keidar-Levin, Y., & Schein, G. (2007). Action bias among elite soccer goalkeepers: The case of penalty kicks. — PKでゴールキーパーが中央に残るより左右へ跳ぶ行動を多く選ぶことを、アクション・バイアスとして説明した研究。
- Singh, R., & Mukherjee, S. (2026). Replication: No action ‘Bias’ among elite soccer goalkeepers during penalty kicks. — 男子ワールドカップの別データで2007年研究を再検証し、跳ぶことが不利だという結果を確認できなかった研究。
- Kiderman, A., Ilan, U., Gur, I., Bdolah-Abram, T., & Brezis, M. (2013). Unexplained complaints in primary care: evidence of action bias. — 診断が不明確な仮想症例に対する医師の対応を調べ、経過観察より検査や紹介などの行動が多く選ばれた調査。
- Feldman, G., & Albarracín, D. (2017). Norm theory and the action-effect: The role of social norms in regret following action and inaction. — 行動・不行動のどちらが社会的な標準かによって、悪い結果に対する後悔の強さが変わることを示した4実験。