曖昧性回避とは?確率が分からない選択肢を避ける心理
新しい取引先と、実績の多い取引先のどちらに仕事を任せるか。新しい施策と、過去の成功率が分かっている施策のどちらを選ぶか。仕事では、「うまくいく確率が分かる選択肢」と「確率そのものがよく分からない選択肢」を比べる場面があります。
このとき、結果の良し悪しだけでなく、確率が分からないこと自体を嫌って、曖昧な選択肢を避ける傾向を曖昧性回避と呼びます。
ただし、未知の選択肢を避けることがいつも間違いというわけではありません。情報が少ないこと自体が重要なリスクになる場面もあります。曖昧性回避を理解するときは、「確率が分かるリスク」と「確率そのものが分からない曖昧さ」を分けて考えることが大切です。
曖昧性回避とは?確率が分からない選択肢を避ける傾向
意思決定の研究では、不確実さを大きく二つに分けることがあります。
- リスク:結果は不確実でも、起こる確率が分かっている、またはある程度推定できる状態。
- 曖昧性:どの結果がどのくらいの確率で起こるのか、その確率自体が十分に分からない状態。
たとえば「成功確率60%の施策」と「成功確率は分からない施策」を比べ、期待できる成果や費用が同程度でも前者を選びたくなるなら、曖昧性回避が関係している可能性があります。
一方で、確率が分からない理由が「実績が少ない」「相手だけが情報を持っている」「条件が毎回変わる」といったものなら、慎重になることには合理的な理由もあります。曖昧性回避は、未知を避けたという結果だけで判断せず、未知であることをどの程度まで不利に評価したかを見る必要があります。
研究で分かっていること
曖昧性回避の代表的な出発点は、Daniel Ellsbergが1961年に示した選択問題です。その後の研究では、曖昧性回避は多くの人に見られる一方、場面や比較方法によって弱まったり、逆に曖昧な方を選んだりすることも分かっています。
エルズバーグの問題では「確率が分かる方」が好まれた
Ellsbergが示した有名な例では、箱の中に90個の球があり、30個は赤、残り60個は黒か黄だとします。ただし、黒と黄がそれぞれ何個ずつあるかは分かりません。
「赤が出たら賞金」と「黒が出たら賞金」を比べると、赤の確率は3分の1と分かっていますが、黒の確率は不明です。この種の選択では、確率の分かる赤を選ぶ人が多いとされます。
次に、「赤か黄が出たら賞金」と「黒か黄が出たら賞金」を比べます。「黒か黄」は合わせて60個なので、当たる確率が2/3と分かっています。一方、「赤か黄」は黄の個数が分からないため、当たる確率も分かりません。典型的には、今度は確率が2/3と分かる「黒か黄」が好まれます。最初の「赤」と「黒」の比較では赤を好んだのに、両方の賭けに同じ「黄」を加えると選好が逆転するため、単一の主観的な確率だけでは説明しにくい選択になります。Ellsbergはこの問題を通じて、確率の不明確さそのものが選択に影響することを示しました(Ellsberg, 1961)。
曖昧さは、分かりやすい選択肢と比べたときに強く意識される
FoxとTverskyは1995年、曖昧性回避を「比較によって自分の無知が目立つこと」から説明する比較無知仮説を提案しました。
一連の研究では、確率が明確な選択肢と曖昧な選択肢を同時に比べる状況では曖昧性回避が見られた一方、曖昧な選択肢だけを単独で評価すると、その傾向が弱まる、または見られなくなる結果が示されました(Fox & Tversky, 1995)。
つまり、「どのくらい分からないか」だけでなく、隣にどのくらい分かりやすい選択肢があるかも判断に影響します。
曖昧性回避は全員に起きるわけではない
OechsslerとRoometsは2015年、エルズバーグ型の実験40研究を調べました。そのまとめでは、平均すると曖昧性回避に分類された参加者は半数を少し超える程度でした。また、実験者自身も確率を知らない機械的な仕組みを使った実験では、曖昧性回避の割合は従来研究の中でも低い側に位置しました(Oechssler & Roomets, 2015)。
この結果からも、「人は確率が分からなければ必ず避ける」とは言えません。曖昧さの作られ方や、誰が情報を持っているように見えるかも関係します。
利益・損失や確率の水準によっては、曖昧な方が選ばれる
Kocher、Lahno、Trautmannは2018年、利益・損失、起こる可能性の高低を変えながら曖昧性への態度を調べました。
その結果、古典的なエルズバーグ問題に近い「中程度の確率で利益を得る」条件では曖昧性回避が再現されました。一方、損失を含む条件や、起こる可能性が低い条件では、曖昧さに中立的な選択や、むしろ曖昧な選択肢を好む傾向も確認されました(Kocherら, 2018)。
したがって、曖昧性回避は「未知は常に嫌われる」という普遍的な法則ではなく、結果の種類や確率の範囲、比較の仕方によって変わる傾向として理解する方が適切です。
確率が分からないことと、悪い結果を同じものにしない
仕事では、情報が少ない選択肢を「危険」と一言で片づけると、判断を誤りやすくなります。分けて確認したいのは次の三点です。
| 確認すること | 問い |
|---|---|
| 結果の大きさ | 成功したとき・失敗したときに、どの程度の利益や損失があるか |
| 確率 | 成功率や失敗率について、どこまで分かっているか |
| 情報の不足 | なぜ確率が分からないのか。追加調査や小さな試行で減らせる不確実さか |
「確率が分からない」ことは、成功確率が低いことと同じではありません。反対に、データがないからといって「五分五分」と置くのも適切ではありません。分からない部分は、分からないまま区別して扱う必要があります。
仕事での具体例と活かし方
以下は研究で確認された企業事例ではなく、曖昧性回避を仕事の判断に当てはめるための仮の場面です。
新しい業務システムの導入方法として、A社とB社を比較しているとします。A社は過去100件の導入実績があり、予定どおり稼働した割合は70%です。B社は新しい方式を使っており、費用は安く機能も魅力的ですが、類似案件の実績が少なく、成功率を信頼できるほどのデータがありません。
このとき「成功率が分からないからB社は除外」とすぐ決めると、曖昧さそのものを必要以上に不利に評価する可能性があります。一方で、重要な基幹システムなら、情報不足そのものを慎重に扱う合理的な理由もあります。
次の順番で整理すると、未知を避けるだけの判断から離れやすくなります。
- 分かっていることと分からないことを分ける。
A社は実績数と成功率、B社は費用や機能、確認できている実績数を書き出します。「B社は危険」と一つの評価にまとめません。 - 成功確率を無理に一つの数字にしない。
十分なデータがなければ、「40〜70%程度ならどう判断するか」など複数の範囲で結果を比較します。 - 追加情報の価値を考える。
小規模な試験導入、類似顧客への聞き取り、技術検証などによって曖昧さを減らせるなら、本契約の前に情報を買う選択があります。 - 失敗時の損失に応じて慎重さを変える。
失敗しても簡単に戻せる施策なら小さく試せます。失敗時の損失が大きく元に戻せない場合は、曖昧さを重く見る合理的な理由があります。 - 既知の選択肢だけを基準にしすぎていないか確認する。
「A社は成功率70%と分かるから安心」だけでなく、30%の失敗が何を意味するのかも同じように評価します。
曖昧性回避への対策は、未知の選択肢を積極的に選ぶことではありません。確率が分からないという事実と、結果が悪いという予測を分け、必要なら追加情報を集めてから比較することです。既知の選択肢にも失敗の可能性はあり、未知の選択肢にも学習によって不確実さを減らせる余地があります。
参考文献・出典
- Ellsberg, D. (1961). Risk, Ambiguity, and the Savage Axioms. — 確率が既知の選択肢と不明確な選択肢で判断が変わるエルズバーグ問題を示した古典的研究。
- Fox, C. R., & Tversky, A. (1995). Ambiguity Aversion and Comparative Ignorance. — 曖昧性回避が、より明確な選択肢との比較によって強まるという比較無知仮説を検討した研究。
- Oechssler, J., & Roomets, A. (2015). A test of mechanical ambiguity. — 機械的に作られた曖昧さを用いた実験と、40件のエルズバーグ型実験研究をまとめた研究。
- Kocher, M. G., Lahno, A. M., & Trautmann, S. T. (2018). Ambiguity aversion is not universal. — 利益・損失や可能性の高低を変えて、曖昧性回避が普遍的ではないことを示した実験研究。