デコイ効果とは?比較対象の追加で選び方はどう変わるか

意思決定理論・行動経済学
Psychology Laws 編集部

料金プランや商品を二つ並べたときは迷っていたのに、三つ目の選択肢が加わると、急に一方が「こちらの方が得だ」と見えることがあります。追加された選択肢そのものを選ばなくても、比較の基準が変わるからです。

このように、ある選択肢より明らかに劣る比較対象を加えることで、その選択肢が選ばれやすくなる現象は、デコイ効果(おとり効果)として知られています。研究では、特に「attraction effect(魅力効果)」として調べられてきました。

ただし、劣った選択肢を置けば必ず狙った案が選ばれるわけではありません。実験条件によって効果が出ない研究もあり、実際の購買データで確認された効果は小さい場合もあります。この記事では、デコイ効果の仕組みと研究上の限界、仕事で比較を設計するときの注意点を説明します。

デコイ効果とは?劣った比較対象が別の選択肢を魅力的に見せる

デコイ効果を理解するには、まず二つの選択肢を考えると分かりやすくなります。

たとえば、サービスAは「安いが機能が少ない」、サービスBは「高いが機能が多い」とします。どちらにも長所があり、一方が完全に優れているわけではありません。

ここにサービスCを追加します。CはBとほぼ同じ価格なのに機能が少なく、Bと比べれば明らかに不利です。一方、Aとは価格と機能の両方で単純に優劣を決められません。このようなCは、Bに対して「非対称的に劣る選択肢(asymmetrically dominated alternative)」と呼ばれます。

このCが加わることでBの選択率が上がる現象が、研究でいう attraction effect です。日常的にはデコイ効果、おとり効果などと呼ばれています。

妥協効果との違い

デコイ効果と似ているのが妥協効果です。妥協効果では、三つの選択肢の中で極端ではない「中間案」が選ばれやすくなることを扱います。

一方、デコイ効果では、狙われる選択肢が追加された案を明確に上回っていることが中心です。中間だから選ばれるのではなく、「この案よりこちらの方が明らかに良い」という比較が生まれることで選択が動きます。

研究で分かっていること

デコイ効果は古くから確認されてきた一方、どの場面でも強く起こるわけではありません。初期研究、再検討、実際の購買データを分けて見ると、効果の位置づけが分かりやすくなります。

1982年の研究では、劣った選択肢の追加で選択率が変わった

Huber、Payne、Putoは1982年、複数の属性を持つ商品選択で、二つの主要な選択肢に第三の選択肢を追加したときの変化を調べました。

追加された選択肢が一方の主要案には明らかに劣るものの、もう一方には同じ意味で劣っていない場合、その劣った案を上回る主要案の選択率が高くなることが確認されました(Huberら, 1982)。

重要なのは、追加された第三案自体が人気になることではありません。本来はAとBの比較に関係しないはずのCを加えただけで、AとBの相対的な選ばれ方が変わった点です。

「選びやすい理由」ができることも関係する

Simonsonは1989年、attraction effect と妥協効果を「選択を正当化できる理由」という観点から検討しました。研究では、他人に自分の選択理由を説明すると予想している参加者ほど、attraction effect と妥協効果が強くなる傾向が示されました(Simonson, 1989)。

デコイがあると、「この二つなら、同じような条件なのにこちらの方が明らかに良い」と説明しやすくなります。比較そのものが、選択の理由を作る材料になると考えられます。

効果の再現性には注意が必要

一方、YangとLynnは2014年、23種類の商品カテゴリーを使った11実験で、計91件の attraction effect の検証を行いました。用いたのは、おとりを含む73種類の選択肢の組合せです。91件のうち、統計的に信頼できる効果が確認されたのは11件でした(Yang & Lynn, 2014)。

特に、選択肢を数字だけでなく意味のある言葉や画像で区別すると、効果が小さくなる結果が示されています。現実の商品はブランド、見た目、経験、口コミなど多くの情報を持つため、単純な二属性の実験と同じ効果が出るとは限りません。

2025年の実購買データでは、効果は見られたが平均では小さかった

Devineらは2025年、英国の食料品店で記録された約360万件のワイン購入を分析し、価格と品質が異なる選択肢の中で、劣った比較対象の存在が購入にどう関わるかを調べました。

分析では、あるワインに劣るデコイが存在すると、そのワインが選ばれる割合が高くなるパターンが確認されました。ただし、平均的な選好の変化はおよそ1%と小さく、消費者の過去の経験によっても効果の強さが異なりました(Devineら, 2025)。

この結果は、デコイ効果が実際の購買でも起こり得ることを示す一方、「第三案を置けば大きく売上が変わる」と一般化できないことも示しています。

仕事での具体例と活かし方

以下は研究で検証された企業事例ではなく、比較の仕組みを理解するための仮の場面です。

会社で新しいクラウドサービスを選ぶとします。候補は次の三つです。

候補月額主な機能
A6万円基本機能
B9万円基本機能+分析機能+自動化
C9万円基本機能+分析機能

BとCだけを比べれば、同じ価格で機能が多いBが明らかに有利です。そのためCが加わると、AとBだけで比較したときよりBが魅力的に見える可能性があります。

この場面で大切なのは、デコイ効果を「相手を動かすテクニック」として使うことではなく、比較対象によって自分たちの評価が動いていないかを点検することです。

  1. 選択肢を見る前に判断基準を決める。
    必要機能、予算、運用負担などを先に決め、後から追加された候補によって基準まで変えないようにします。
  2. 明らかに劣る候補は一度外して比較する。
    Cを除いたAとBだけでもBを選ぶのかを確認します。CがあるときだけBが魅力的なら、比較の影響を受けている可能性があります。
  3. 各案を基準に対して個別評価する。
    「CよりBが良い」ではなく、「Bは自社に必要な機能を持ち、追加3万円の価値があるか」を判断します。
  4. 提案側は、選ばせるためだけの劣った案を作らない。
    料金プランを複数用意するなら、それぞれに異なる利用者にとって意味のある用途を持たせます。変更できる条件や含まれる機能も分かるように示します。

デコイ効果が教えてくれるのは、選択肢の価値を私たちがいつも独立して判断しているとは限らない、という点です。追加された候補が選ばれなくても、その存在だけで別の候補の見え方が変わることがあります。重要な意思決定では、比較対象を減らした状態でも同じ結論になるかを確かめると、判断を点検しやすくなります。

参考文献・出典