デフォルト効果とは?初期設定が選択に与える影響

意思決定理論・行動経済学
Psychology Laws 編集部

申込フォームや社内システムで、最初から一つの選択肢にチェックが入っていると、そのまま進める人は少なくありません。選択肢の内容が同じでも、どれを「何もしなかったときの設定」にするかで結果が変わることがあります。

このように、あらかじめ設定された選択肢が選ばれやすくなる現象をデフォルト効果と呼びます。初期設定は手間を減らす便利な仕組みですが、選ぶ人の判断を動かす力もあるため、設定する側は「何を初期値にするか」だけでなく、「初期値を置くこと自体が適切か」まで考える必要があります。

デフォルト効果とは?初期設定がそのまま選ばれやすくなる現象

デフォルトとは、利用者が特に変更しなかった場合に適用される選択肢や設定です。たとえば、通知が最初からオンになっている、申込時にあるプランが選択済みになっている、といった状態が該当します。

デフォルト効果とは、選択肢の一つをデフォルトにすると、その選択肢が選ばれる割合が高くなる傾向を指します。本人は変更できるにもかかわらず、初期設定が最終的な選択に影響します。

「現状維持」とは同じ意味ではない

デフォルト効果と近い言葉に、今の状態を変えずに選びやすい「現状維持バイアス」があります。ただし、デフォルトは選択肢の設計上の初期値を指し、現状維持バイアスはより広く、現在の状態を維持する傾向を扱います。

仕事で考えるときは、「人は変化を嫌うから」と一つの理由だけで説明せず、変更の手間、初期設定を推奨と受け取ること、すでに自分の状態だと感じることなど、複数の可能性を考える方が適切です。

研究で分かっていること

研究では、デフォルトはさまざまな選択に影響することが確認されています。ただし、効果の大きさは場面によってかなり異なります。

同じ選択でも、初期設定を変えると回答が変わった

JohnsonとGoldsteinは2003年、161人の米国参加者を対象に、臓器提供についての仮想的なオンライン実験を行いました。参加者には「別の州へ引っ越した」と想定してもらい、臓器提供者ではない状態から変更するオプトイン条件、臓器提供者である状態から変更するオプトアウト条件、最初からどちらも選ばれていない条件を比較しました。

臓器提供に同意した割合は、オプトイン条件では42%、オプトアウト条件では82%、初期設定のない条件では79%でした。変更に必要な操作はマウスクリックで、単純な操作量だけではこの差を説明しにくい設計でした(Johnson & Goldstein, 2003)。

ただし、この実験は仮想的な臓器提供の選択を扱ったものです。実際の臓器提供制度や移植件数には、家族の判断や医療体制など他の要因も関わるため、この割合をそのまま現実の政策効果とみなすことはできません。

職場の退職貯蓄でも、自動加入で参加率が大きく変わった

MadrianとSheaは2001年、米国企業の401(k)退職貯蓄制度で、従業員が自分で加入手続きをする方式から、何もしなければ自動加入される方式へ変わった前後を分析しました。

勤続3〜15か月の従業員を比べると、制度変更前の参加率は37%だったのに対し、自動加入の対象では86%でした。また、自動加入された人の多くが、会社が設定した拠出率や投資先もそのまま維持していました(Madrian & Shea, 2001)。

ここから分かるのは、デフォルトは「参加するかどうか」だけでなく、初期設定された具体的な内容にも影響し得るということです。便利な初期値であっても、それが本人に最適な値とは限りません。

58研究のメタ分析では平均的な効果は大きいが、ばらつきも大きい

Jachimowiczらは2019年、条件を満たした58研究、合計73,675人のデータをまとめて分析しました。全体では、デフォルトを置くことでその選択肢が選ばれやすくなる大きな平均効果が確認されました。二択の結果を扱った研究では、デフォルト側の選択が平均で約27ポイント増えていました(Jachimowiczら, 2019)。

一方で、効果の大きさには大きなばらつきがあり、初期設定による差が統計的に確認されなかった研究や、逆方向の結果になった研究も含まれていました。メタ分析では、初期設定を「設定者からの推奨」と受け取ることや、すでに自分の状態になったものとして捉えることが、効果の違いを部分的に説明していました。

初期設定を置かず、必ず選んでもらう方法もある

デフォルトを設けることがいつも最善とは限りません。Carrollらは2009年、401(k)について、加入しない状態をデフォルトにする方式だけでなく、期限までに「加入する・しない」を必ず本人に選んでもらうアクティブ・ディシジョンを検討しました。

この方式では、通常のオプトイン方式に比べ、新入社員の当初の加入率が28ポイント高くなりました。研究者らは、好みが人によって大きく異なる場合には、特定の選択をデフォルトにするより、本人に明示的に選んでもらう方式が適する条件もあると論じています(Carrollら, 2009)。

なぜ初期設定が選択に影響するのか

デフォルト効果を「面倒だから変更しない」だけで説明するのは不十分です。研究からは、少なくとも次のような経路が考えられます。

  • 変更する手間を避ける:比較や手続きに時間がかかるほど、今の設定を維持しやすくなります。
  • 推奨だと受け取る:「会社やサービス提供者がこれを選んでいるなら、適切な設定なのだろう」と判断材料にすることがあります。
  • すでに自分の状態だと捉える:最初から設定されているものを基準にすると、そこから変更することが一つの決断になります。

どの理由が強く働くかは場面によって異なります。そのため、デフォルトを導入して結果が変わったとしても、「利用者がその内容を心から好んだ」とは限りません。

仕事での具体例と活かし方

以下は研究で確認された企業事例ではなく、デフォルト効果を仕事で使うときの考え方を示す仮の場面です。

社内のプロジェクト管理ツールを導入し、「期限の前日に担当者へ通知する」設定を用意するとします。管理者は利用を増やすため、通知を最初からオンにしようと考えています。

この場合、単に「オンにすれば利用率が上がる」と考えるのではなく、次の順番で設計します。

  1. 多くの人に妥当な初期値かを確認する。
    期限通知が大半の利用者に役立ち、不利益が小さいなら、デフォルトにする理由があります。部署や仕事内容で適切な設定が大きく違うなら、一律の初期値は向きません。
  2. 初期設定であることを見えるようにする。
    「期限前日通知:オン」と明示し、利用者が自分の選択だと誤認しないようにします。
  3. 変更を簡単にする。
    通知を止めるために管理者への申請が必要、といった高い切り替えコストを加えないようにします。デフォルト効果と変更しにくさを意図的に重ねると、本人の選択を尊重しにくくなります。
  4. 好みが分かれるなら、初期値を置かない方法も検討する。
    通知頻度が人によって大きく違うなら、初回利用時に「前日・当日・通知なし」から必ず選んでもらう方法もあります。
  5. 採用率だけでなく、変更率や不満も確認する。
    初期設定が多く残っていても、それだけで良い設定だったとは判断できません。後から変更した人の割合や問い合わせ、業務への影響も見ます。

デフォルトは、選択肢を奪わずに行動を支えられる便利な設計です。その一方で、何もしない人の選択を設定者が事実上決める側面があります。利用者にとって妥当な初期値か、簡単に変更できるか、そもそも本人に選んでもらう方がよい場面ではないかを合わせて考えることが重要です。

参考文献・出典