信念の固定とは?根拠が崩れても考えが残るのはなぜか

意思決定理論・行動経済学
Psychology Laws 編集部

企画会議で「この顧客層は価格を最優先する」という前提が共有されていたとします。ところが、その判断のきっかけになった調査に集計ミスが見つかり、根拠として使えないと分かりました。それでも、会議では以前と同じ前提のまま話が進むことがあります。

このように、最初の判断を支えていた根拠が崩れた後も、その判断や見立てが残ることを、心理学では belief perseverance(信念の固定・信念の持続)として研究してきました。

ただし、人はいつでも反証を無視するわけではありません。明確な反対証拠を受けて考えを更新する研究結果もあります。この記事では、信念の固定が何を指すのか、なぜ起こり得るのか、仕事で前提を見直すときに何を確認すればよいかを説明します。

信念の固定とは?根拠が否定されても見立てが残る現象

信念の固定とは、ある判断や見立てを作った元の証拠が無効だと分かった後も、その信念が十分には元に戻らず残る現象です。英語では belief perseverance と呼ばれます。

ポイントは、単に「考えを変えたくない」という性格の話ではないことです。研究では、実験者が与えた情報が架空だったと参加者に知らせても、その情報から作られた自己評価や因果関係の見立てが残るかどうかが調べられてきました。

確証バイアスとの違い

確証バイアスは、自分の見立てに合う情報を集めたり、合う情報を重く評価したりする偏りを中心に扱います。一方、信念の固定で焦点になるのは、その見立ての出発点だった根拠が否定された後にも、考えが残るかという点です。

実際の仕事では両方が続けて起こることもありますが、対策を考えるときは分けた方が分かりやすくなります。根拠が無効になったのなら、まず「その根拠を外した状態でも同じ結論になるか」を確認する必要があります。

研究で分かっていること

信念の固定については、元の情報を打ち消しただけでは判断が残る実験結果がある一方、訂正の仕方や証拠の明確さによっては信念が更新されることも分かっています。

1975年の研究では、偽の評価を否定した後も自己評価が残った

Ross、Lepper、Hubbardは1975年、参加者に「本物の遺書と偽物の遺書を見分ける課題」を行わせ、実際の成績とは関係なく、成功したように見えるフィードバックまたは失敗したように見えるフィードバックを与えました。

その後、フィードバックはあらかじめ決められたもので、参加者の本当の能力を示していないと説明しました。それでも、成功したと伝えられた人と失敗したと伝えられた人では、その後の自分の能力評価に差が残りました(Rossら, 1975)。

つまり、「最初の情報は根拠にならない」と理解することと、その情報から作った評価を完全に取り消すことは、同じではない場合があります。

1980年の研究では、自分で作った説明が残りやすさに関わった

Anderson、Lepper、Rossは1980年、消防士の危険を好む傾向と仕事の成功に関係があるように見える、架空の2つの事例を参加者に示しました。ある人には「危険を好む人ほど成功する」ように、別の人には逆の関係があるように見せています。

参加者の一部には、その関係がなぜ成り立つのかを説明してもらいました。その後、最初の事例は架空であり、本当の関係についての証拠にはならないと知らせました。それでも最初に示された方向の信念が残り、とくに因果関係について説明を作ったことが、信念の持続に関わる結果が得られました(Andersonら, 1980)。

最初の証拠が消えても、「なぜそうなるのか」という説明だけが頭の中に残れば、その説明から同じ結論をもう一度導けてしまう、と考えられます。

反対側の説明を作ると、固定が弱まった研究もある

Andersonの1982年の実験では、危険を好むことと消防士としての成功の関係について、最初に示された方向だけでなく、反対の関係も成り立つ理由を考えた参加者では、信念の固定が小さくなりました(Anderson, 1982)。

これは、反対意見を無理に採用するという意味ではありません。今の結論を支える説明だけでなく、別の結論を説明できる筋道も一度作ることで、最初の説明だけが唯一の見方になることを防ぐ方法として参考になります。

信念の固定は、いつでも起きるわけではない

後の研究では、訂正の内容をより具体的にすると信念の固定が消える場合も示されています。McFarlandらの2007年の研究では、偽のフィードバックだけでなく、能力を測っているとされた課題自体にも根拠がないと明確に伝える条件で、固定効果が解消されました(McFarlandら, 2007)。

また、Anglinが2019年に行った4つの研究では、宗教、政治、銃規制、死刑などのテーマでも、参加者は明確な研究結果を示されると、もともとの立場と反対方向の証拠であっても平均的には信念を更新しました。著者は、信念の固定を常に起こる標準的な反応として扱うことに注意を促しています(Anglin, 2019)。

したがって、「人は一度決めたら証拠を見ても考えを変えない」と決めつけるのは適切ではありません。元の判断がどう作られ、どこまで訂正され、反対側を考える機会があるかによって変わります。

仕事での具体例と活かし方

以下は研究で確認された企業事例ではなく、信念の固定を仕事で考えるための仮の場面です。

新商品の企画チームが、初期調査をもとに「30代の顧客は機能より価格を重視する」と判断したとします。この前提から、価格を下げる企画を作り、「この層は比較に敏感だから安さが効く」と理由も説明できるようになりました。

その後、初期調査に集計ミスがあり、年代別の結果を根拠として使えないと判明しました。それでも「価格重視という方向自体は合っているはず」と考え続けるなら、最初のデータから作った説明が独立して残っている可能性を点検できます。

この場面では、次の順番で判断を作り直します。

  1. 無効になった根拠を明確に外す。
    「調査には問題があった」と覚えておくだけでなく、その調査から得た数値や結論を、次の判断の根拠として使わないと決めます。
  2. 独立して残っている根拠だけを書き出す。
    別の調査、実際の購買データ、顧客への追加インタビューなど、問題になった情報とは別に確認できる材料があるかを分けます。
  3. 逆の結論が成り立つ説明も一度作る。
    「価格より機能を重視する」と仮定した場合、どんな理由や観察結果なら説明できるかを考えます。どちらの説明が、現在残っている証拠に合うかを比較します。
  4. 次に何が分かれば判断を変えるかを先に決める。
    たとえば「年代別の購入理由を再調査し、価格を最優先する割合が一定水準を下回れば企画を見直す」など、確認する情報と判断条件を先に置きます。

大切なのは、反対意見を採用することではありません。元の根拠が消えたなら、その根拠から作った結論もいったん検討対象に戻すことです。残っている証拠だけで同じ結論になるなら維持できますし、ならないなら修正できます。

参考文献・出典