サンクコスト効果とは?継続・撤退を考えるときの判断ポイント

意思決定理論・行動経済学
Psychology Laws 編集部

「ここまで半年かけたのだから、もう少し続けたい」「すでに500万円使っているので、今やめるのはもったいない」。難航している企画やシステム開発では、こうした理由が継続判断に入り込むことがあります。

サンクコスト効果とは、すでに投資して取り戻せないお金・時間・労力が、将来の選択肢の価値を変えないにもかかわらず、現在の選択に影響する現象です。その影響によって、将来の見込みでは不利な案を続けてしまう場合は、サンクコストの誤謬と呼ばれることがあります。判断するときに重要なのは、過去にいくら使ったかではなく、これから追加で必要な費用と、今後得られる利益・成果・代替案を比べることです。

この記事では、サンクコスト効果の意味、研究でどこまで確認されているか、コミットメントのエスカレーションとの違い、仕事で継続・撤退を考えるときの確認方法を説明します。

サンクコスト効果とは?意味と「取り戻せない費用」

サンクコスト(sunk cost)は、日本語では「埋没費用」とも呼ばれます。すでに支払ったため、今後どの選択をしても回収できない費用のことです。

たとえば、あるシステム開発に500万円を使い、その500万円が返ってこないとします。この500万円はサンクコストです。今後さらに200万円かけて完成させるか、ここで中止するかを決める場面では、比較すべきなのはこれから追加でかかる200万円と、完成後に期待できる価値です。

それにもかかわらず、「500万円も使ったから続ける」という理由が継続を後押しすると、過去の支出が現在の判断に影響しています。ArkesとBlumer(1985)は、これを「お金・労力・時間を投資したあと、その活動を続ける傾向が強くなること」として研究しました(Arkes & Blumer, 1985)。

ただし、過去の情報をすべて無視すればよいわけではありません。過去の投資から「技術的に完成できそうだ」「顧客需要が予想より弱い」といった将来を予測する新しい情報が得られているなら、それは今後の判断材料です。無視したいのは、将来の結果を変えない「取り戻せない金額そのもの」です。

研究で分かっていること

支払った金額が大きいと、使い続ける行動が増えた

ArkesとBlumer(1985)は、劇場のシーズンチケット購入者を対象にしたフィールド研究を行いました。購入者は、通常価格、小幅の割引、大幅の割引という3つの価格条件に無作為に割り当てられ、その後の観劇回数が記録されました。

その結果、最初の6か月は、通常価格で購入したグループが、2つの割引グループより多く観劇しました。すでに支払った料金は観劇時には取り戻せませんが、その過去の支出が利用行動と関係していたと解釈されています(Arkes & Blumer, 1985)。

同論文の質問紙実験でも、過去に投資した条件では、その後も計画を続ける選択が増える傾向が確認されました。ただし、すべての場面で同じ強さの効果が出るわけではありません。

多数の研究をまとめても、サンクコスト効果は確認されている

Roth、Robbert、Straus(2015)は、1976〜2013年の研究を対象に、複数の研究結果を統合して全体の傾向を見るメタ分析を行いました。分析では約100の効果量(研究ごとの影響の大きさを比較できる形で表した数値)をまとめ、全体として、サンクコストがある条件では継続や利用を選ぶ傾向が強まる方向の効果を確認しています(Roth et al., 2015)。

同時に、研究結果にはかなりのばらつきがありました。著者らは、サンクコスト効果を少なくとも二つの判断に分けています。

  • 利用の判断:すでに支払った商品・サービスを使うかどうか
  • 進行の判断:計画を完成させるため、追加資源を投入するかどうか

この二つでは、時間の経過などの条件が効果に与える影響も同じではありません。研究間の効果にも大きなばらつきがあり、経済学への馴染みが高いだけで一貫して効果が小さくなるとは確認されませんでした。したがって、「一度お金を払うと誰でも必ず続ける」という単純な法則として扱うのは適切ではありません。

実際に労力を使った実験でも、過去の投資は選択に影響した

Ronayne、Sgroi、Tuckwell(2021)は、参加者に実際の作業を行ってくじを獲得してもらい、その後、より有利なくじへ切り替えられる状況を用意しました。

作業によって最初のくじを獲得した参加者268人のうち23%は、より条件のよいくじへ切り替えず、劣る元のくじを選び続けました。著者らは、保有効果(自分が所有しているものを、所有していない場合より高く評価しやすくなる傾向)など別の要因も分析し、それだけでは結果全体を説明できなかったと報告しています(Ronayne et al., 2021)。

この結果は、仮想的な質問だけでなく、実際の労力を伴う状況でもサンクコストと整合する行動が見られることを示しています。

「無駄にしたくない」は一つの説明だが、唯一の原因とは言えない

ArkesとBlumerは、サンクコスト効果の背景として「投資を無駄にしたくない」という心理を重視しました。しかし、効果の原因については複数の説明が提案されており、一つに確定しているわけではありません。

ZhuとFeldman(2025)は、「無駄を避けたい」という判断を扱ったArkes(1996)の研究3件を、研究方法や分析計画を事前に登録してから行う登録済み研究として再現しました。2件では元研究と同方向の結果が確認されましたが、1件では支持されませんでした。著者らは全体を混合した再現結果と結論づけています(Zhu & Feldman, 2025)。

そのため、仕事でサンクコスト効果を説明するときも、「人は無駄を嫌うから必ず続ける」と原因を一つに決めつけないほうが安全です。

サンクコスト効果とコミットメントのエスカレーションの違い

二つは近い概念ですが、この記事では焦点を分けます。

サンクコスト効果は、すでに取り戻せない投資が現在の判断に影響することを中心にします。一方、コミットメントのエスカレーションは、悪い情報が出ている計画に対して追加の資金・時間・人員を投入し続ける過程を中心に扱います。

Rothら(2015)も、サンクコストを「利用の判断」と「進行の判断」に分け、後者では追加投資が必要になる点を整理しています。実際のプロジェクトでは両者が重なることがありますが、「過去の費用が判断に効いているのか」「追加投入を続ける組織的な過程が問題なのか」を分けると状況を整理しやすくなります。

仕事での具体例

ここからは研究そのものではなく、継続・撤退判断を考えるための説明用の例です。

ある会社が新しい社内システムの開発に800万円を投じました。しかし、途中で要件が変わり、完成にはさらに400万円必要だと分かったとします。別の既製サービスなら、今から250万円で導入できます。

ここで「800万円も使ったから自社開発を完成させる」と考えるだけでは、サンクコストが判断に入っています。800万円は、どちらを選んでも戻りません。

比較したいのは、たとえば次の内容です。

  • 自社開発を続ける場合に、今後必要な400万円と完成までの時間
  • 完成後に得られる機能・利益・運用負担
  • 既製サービスへ切り替える場合の250万円と移行負担
  • それぞれの失敗リスクと、他の案件へ使える人員・予算

過去の800万円を「取り返す」ことはできません。だからこそ、今の時点から見た将来の選択肢を比べます。

仕事で活かす方法

1. 「すでに使ったもの」と「これから使うもの」を分ける

継続を検討するときは、まず費用を二つに分けます。

  • サンクコスト:どの案を選んでも戻らない費用・時間・労力
  • これからの費用:今後の選択によって増減する費用・時間・人員

判断表では、この二つを同じ合計欄に入れず、別々に書くと比較しやすくなります。

2. 「今日初めてこの案件を見たらどう判断するか」を考える

これは研究で効果が保証された除去法ではなく、実務上の点検方法です。

過去の投資額をいったん横に置き、「今日この状態の案件を引き継ぎ、今後400万円必要だと知ったら、それでも続けるか」と問い直します。現在の状態から見た将来価値に目を向けるための補助になります。

3. 継続条件と撤退条件を、追加投資の前に決める

たとえば「3か月後までにテスト成功率が90%に達しなければ代替案へ移る」「追加予算が300万円を超える場合は再審査する」のように、次の判断基準を先に決めます。

これはサンクコスト効果を完全に防ぐと研究で確認された方法ではありませんが、継続のたびに「ここまで使ったから」と基準を動かすのを避けるための実務的な仕組みになります。

4. 撤退を「過去の投資の否定」と捉えない

撤退すると、過去の判断が間違っていたように感じることがあります。しかし、開始時点では合理的だった判断でも、新しい情報によって将来の見込みは変わります。

重要なのは「最初の判断が正しかったか」だけではなく、現在の情報で、これから何をするのが最もよいかです。過去の投資から得た技術・顧客情報・失敗原因など、今後に使える学びは別に整理できます。

活用するときの注意点

解約金、乗り換え費用、撤退に伴ってこれから発生する損失や作業負担はサンクコストではありません。これらは今後の選択によって変わるため、将来の費用として比較に含めます。

参考文献・出典