利用可能性ヒューリスティックとは?思い出しやすい例が判断に与える影響

判断・認知バイアス
Psychology Laws 編集部

仕事では、最近起きた大きなトラブルや、強い印象を残した顧客の声が頭に残り、「こういう問題が多い」と感じることがあります。しかし、思い出しやすい出来事と、実際によく起きている出来事は同じとは限りません。

利用可能性ヒューリスティックを意識するときのポイントは、思い出しやすさを頻度や起こりやすさの代わりに使っていないか確認することです。この記事では、研究で分かっている範囲を確認したうえで、印象に残った出来事と実際の発生頻度を仕事でどう分けて考えるかを説明します。

利用可能性ヒューリスティックとは 意味と仕組み

利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic)とは、出来事の頻度や起こる可能性を判断するときに、関連する例がどれくらい簡単に思い出せるかを手がかりにする考え方です。ここでいうヒューリスティックとは、複雑な判断を素早く行うための「判断の近道」のようなものです。

TverskyとKahnemanは1973年、利用可能性は現実の頻度と結びついていることも多い一方、目立ちやすさなど別の要因にも左右されるため、思い出しやすさだけで頻度を判断すると偏りが生じる場合があると説明しました。

Tversky & Kahneman(1973)

説明用の例:サポート会議で、数日前に大きなシステム障害が起きたとします。影響が大きく、社内でも何度も話題になったため、「最近はシステム障害の問い合わせが多い」と感じるかもしれません。しかし、問い合わせ記録を数えると、実際には請求やログインに関する問い合わせの方が多い可能性があります。

この場合、大きな障害が重要でないという意味ではありません。「思い出しやすい」「影響が大きい」「発生頻度が高い」を別の判断軸として扱う必要があります。

研究で分かっていること

研究からは、人は頻度や可能性を判断するとき、思い出しやすさを手がかりにすることがあると分かっています。ただし、思い出しやすさは実際の頻度だけで決まるわけではありません。有名さ、目立ちやすさ、記憶から取り出す難しさなども影響します。

そのため、「すぐ例が浮かんだ」という感覚には情報価値がある場合もありますが、それだけで「実際に多い」と結論づけるのは適切ではありません。

中心となる研究:有名人の名前は少なくても多く感じられた

TverskyとKahnemanの1973年の研究では、参加者に39人分の名前を聞かせる課題が行われました。一方のリストは、有名な女性19人と、それほど有名ではない男性20人から構成され、別のリストでは性別が逆になっていました。つまり、どちらのリストでも、有名人の側は実際には1人少ない構成でした。

一部の参加者は、聞いた名前をできるだけ多く思い出すよう求められました。別の参加者は、男性と女性のどちらの名前が多かったかを判断しました。結果では、有名人の名前の方が思い出されやすく、人数を判断する参加者も、有名人が属する性別の方が多かったと誤って判断する傾向を示しました。

Tversky & Kahneman(1973) / Schwarzら(1991)

この実験は、実際の数ではなく「記憶から取り出しやすい例」が頻度判断に影響することを理解する材料になります。ただし、名前のリストを使った実験であり、仕事上のあらゆる頻度判断に同じ大きさの影響が出るとは限りません。

思い出した件数だけでなく、「思い出しやすかった感覚」も判断に関わる

Schwarzらは1991年、自分が積極的に行動した例を思い出す課題で、6個の例を挙げる条件と12個の例を挙げる条件を比べました。12個挙げる方が難しく、参加者は多くの積極的な行動を思い出しているにもかかわらず、6個だけ思い出した参加者より自分を積極的ではないと評価しました。

この結果は、判断に影響するのが「頭に浮かんだ例の数」だけではなく、思い出すのが簡単だったか、難しかったかという主観的な感覚でもあることを示しています。

Schwarzら(1991)

この結果については、Gronckiらが2021年に追試を行い、Study 3(661人)では1991年の自己評価に関する効果を再現できませんでした。そのため、この「6個/12個を思い出す」自己評価実験は、再現性に注意して読む必要があります。これは、利用可能性ヒューリスティック全体が否定されたという意味ではありません。

Gronckiら(2021)

ただし、この研究で直接測られたのは自己評価です。「思い出しにくければ必ず頻度を低く見積もる」と、すべての判断へそのまま広げることはできません。

仕事で印象と実際の発生頻度を分ける方法

以下は、研究で確認された特徴をサポート業務の判断へ置き換えた説明用の実務例です。この手順そのものが、一般のサポート会議を対象とした研究で効果を確認されたわけではありません。

場面:月次のサポート会議で、最近大きなシステム障害があり、「障害に関する問い合わせが一番多いのではないか」という意見が出たとします。

  1. まず「頻度」と「深刻さ」を別の問いにする
    「最も件数が多い問い合わせは何か」と「最も事業への影響が大きい問題は何か」を分けます。大きな障害は少数でも重要なので、頻度が低ければ無視してよいという意味ではありません。
  2. 頻度を比べる期間と母数を決める
    たとえば「直近3か月に受け付けた全問い合わせ」を母数にすると決めます。障害が起きた日だけ、特定の担当者が覚えている案件だけ、といった一部の記憶から件数を推測しません。
  3. 同じ分類基準で全件を数える
    既存の問い合わせ分類を使い、障害、請求、ログイン、操作方法などの件数を同じ3か月について集計します。分類が統一されていない場合は、先に分類ルールを決めてから集計します。
  4. 頻度と深刻さを別々に比較する
    頻度は「全問い合わせに占める件数や割合」で比べます。深刻さを見る場合は、影響した顧客数、停止時間、返金額など、その会社で確認できる別の指標を使います。障害が少数でも影響が大きければ、「頻繁」ではなく「低頻度だが高影響」と整理できます。
  5. 目的に応じて次の行動を決める
    問い合わせ総数を減らすことが目的なら、件数の多い問題を優先します。重大事故のリスクを下げることが目的なら、頻度が低くても影響の大きい問題を優先する場合があります。どちらの判断も、「思い出しやすいから」ではなく、決めた指標に基づいて行います。

記録がなく実際の件数を確認できない場合は、「最近はこの問題が多い」と断定せず、今後同じ分類で記録を残してから比較します。思い出せる事例の数を、存在しない集計データの代わりにはしません。

活用するときの注意点

  • 思い出しやすいこと自体を無価値とは考えない。 よく起きる出来事は思い出しやすいこともあります。問題は、目立ちやすさや最近の出来事など、実際の頻度以外の要因でも思い出しやすさが変わることです。
  • 頻度と重要度を混同しない。 まれでも大きな損害につながる問題は、頻度とは別の理由で優先する必要があります。
  • 記録の条件をそろえる。 期間、母数、分類方法が違えば、件数をそのまま比較できません。
  • 研究結果をそのまま職場へ一般化しない。 名前の記憶や自己評価を扱った実験と、実際の問い合わせ管理では条件が異なります。

参考文献・出典