楽観バイアスとは?「自分はうまくいく」という予測を点検する

判断・認知バイアス
Psychology Laws 編集部

事業計画では、「このサービスなら伸びる」「今回は予定どおり進む」と前向きに見通すことがあります。前向きな予測そのものが問題なのではありません。問題になるのは、過去の実績や比較できるデータよりも、自分たちに有利な結果を見込み続けるときです。

楽観バイアスを仕事で点検するときのポイントは、「期待している結果」と「同じ条件の過去データから見込める結果」を分けて比べることです。この記事では、研究でいう楽観的な予測の意味と限界を確認したうえで、事業計画の見通しをどう点検するかを説明します。

楽観バイアスとは 意味と研究上の注意

楽観バイアス(optimism bias)や非現実的楽観(unrealistic optimism)は、自分の将来について、実際の根拠より好ましい結果を見込む傾向を説明するときに使われる言葉です。ただし、研究ではこの2つの言葉が完全に同じ意味で使われているわけではありません。

Shepperdらは2013年のレビューで、非現実的楽観を、客観的な結果とのずれを見る絶対的な楽観と、他人より自分の方が良い結果になると考える比較的な楽観などに分けて整理しています。どの方法で測ったかによって、意味する内容が変わります。

Shepperdら(2013)

説明用の例:新規サービスの初年度契約数を予測するとき、「今回は競合より商品がよいから1,000件はいける」と考えたとします。この数字が楽観的かどうかは、前向きな数字であることだけでは決まりません。過去の類似サービスの実績、現在の顧客数、販売チャネル、価格などと照らし合わせて、1,000件という見通しを支える根拠があるかを見る必要があります。

研究で分かっていること

研究からは、自分の将来を他人より好意的に見積もる傾向は多く報告されている一方、その測り方には重要な注意点があることが分かっています。特に、「自分は平均的な人より良い結果になる」と答えたことだけでは、その人の具体的な予測が客観的に外れているとは限りません。

そのため、事業計画では「自信が強いから楽観バイアス」と判断するより、予測値と比較可能な実績データを照らし合わせる方が実用的です。

中心となる研究:自分は他人より良い未来になりやすいと見積もった

Neil Weinsteinは1980年、258人の大学生を対象に、42種類の将来の出来事について、自分が経験する可能性が同級生と比べて高いか低いかを判断してもらいました。

全体として参加者は、好ましい出来事は自分の方が平均より起こりやすく、好ましくない出来事は自分の方が平均より起こりにくいと判断しました。研究では、出来事の望ましさだけでなく、本人がどの程度コントロールできると感じるか、過去に経験があるかなどでも楽観的な判断の程度が変わりました。

Weinstein(1980)

ただし、この研究が直接示したのは、将来の出来事について自分と他人を比較した判断です。「売上を20%高く見積もる」「納期を10日短く見積もる」といった事業計画の予測誤差を直接測った研究ではありません。

比較的な楽観には、測定上の注意もある

HarrisとHahnは2011年、平均的な人との比較で測る楽観性について、回答尺度や出来事の発生率によって、偏りがなくても楽観的に見える集計結果が生じる場合があると指摘しました。

Harris & Hahn(2011)

その後、Shepperdらは2013年のレビューで、こうした批判は特に集団レベルの比較的楽観を測る方法に関係すると整理し、非現実的楽観には複数の測定方法があることを強調しています。

Shepperdら(2013)

つまり、「人は必ず自分を楽観的に見る」と単純化するのではなく、何を基準に、どの予測を、どの結果と比較した研究なのかを見る必要があります。

事業計画では、似た過去案件の実績を使う方法が提案されている

プロジェクト計画の研究では、現在の案件だけを詳しく見て予測するのではなく、過去の類似案件の実績を基準にする参照クラス予測(reference class forecasting:似た過去案件の実績分布から現在の案件を予測する方法)が提案されています。

Flyvbjergは2008年、交通インフラ計画を中心に、類似する過去プロジェクトの実績を基準に予測する方法を紹介しています。この論文では、予測誤差の原因として心理的な楽観バイアスだけでなく、意図的に有利な数字を示す戦略的な過大・過小表示も区別されています。

Flyvbjerg(2008)

これは大規模インフラ計画での方法を中心に扱った研究であり、一般の新規サービスや小規模事業で同じ手順の効果がそのまま確認されているわけではありません。以下では、この考え方を事業計画の点検へ応用した例を示します。

事業計画で楽観的な見通しを点検する方法

以下は、上の研究と参照クラス予測の考え方を、新規サービスの計画へ置き換えた説明用の実務例です。この5手順そのものが、すべての事業計画で予測精度を改善すると実証されたものではありません。

場面:新規サービスについて、「初年度の有料契約数は1,000件になる」と計画しているとします。点検する対象は、この初年度有料契約数の予測です。

  1. 予測する指標と期間を固定する
    「初年度の有料契約数」と決めます。売上、無料登録者、問い合わせ数など別の指標を途中で混ぜません。結果を確認するときも同じ指標・同じ期間を使います。
  2. 現在の予測値と、その根拠を分けて書く
    予測値は「1,000件」、根拠は「現在の見込み顧客数」「営業人数」「広告予算」「想定成約率」などに分けます。「商品に自信がある」「今回はいけそう」といった期待は、確認できるデータとは別に記録します。
  3. 結果を見る前に、比較する過去案件の条件を決める
    自社の過去サービスから、顧客層、価格帯、販売チャネル、販売体制などが近い案件を比較対象にすると決めます。現在の計画に都合のよい成功案件だけを後から選びません。自社に十分な比較案件がない場合は、利用できる外部データがあるか確認し、なければ比較できる実績が不足していること自体を記録します。
  4. 過去案件の「計画値」ではなく「実績」を並べる
    比較対象にした案件について、初年度の有料契約数の実績を同じ条件で集めます。現在の1,000件という予測が、過去の実績の範囲のどこに位置するかを確認します。過去案件より高い予測を置く場合は、「今回は何が違うため、その差を見込めるのか」を具体的なデータで説明します。
  5. 四半期の確認基準と、年間予測を見直す条件を先に決める
    年間1,000件という予測を、販売時期の偏りも考えて「第1四半期末180件、第2四半期末420件、第3四半期末700件、第4四半期末1,000件」のような累計の確認基準に分けます。四半期の実績と年間1,000件を直接比べず、同じ時点の累計基準と比較します。さらに、たとえば「累計実績が確認基準を15%以上下回る状態が2四半期続く」「想定成約率や営業人数など主要な前提が事前に決めた範囲から外れる」といった見直し条件を開始前に決めます。条件に当てはまったら、実績と最新の前提から年間予測を計算し直します。ここで示した数値は説明用の例であり、実際の基準は通常の変動幅や事業上の許容範囲に合わせて決めます。

この方法の目的は、計画を悲観的にすることではありません。前向きな予測を置く場合にも、過去の比較対象から見てどこが違うのかを説明できるようにし、「期待」と「根拠のある予測」を分けることです。

参考文献・出典