確証バイアスとは?企画の判断で思い込みを減らす方法
企画を検討するとき、「原因はこれだ」「この案がよさそうだ」と最初の見立てを置くことがあります。見立てを持つこと自体は問題ではありません。ただ、その後に見立てと一致する情報ばかりを集めたり、反対する情報だけ厳しく評価したりすると、別の可能性を比べにくくなります。
確証バイアスを仕事で意識するときのポイントは、単に「反対意見も見る」ことではありません。情報を集める前に、どんな結果なら見立てを変えるかと、何と何を比べるかを決めておくことです。この記事では、研究で分かっている範囲を確認したうえで、企画判断での確認方法を実務への応用例として説明します。
確証バイアスとは 意味と仕組み
Raymond S. Nickersonは1998年のレビューで、確証バイアス(confirmation bias)を、すでに持っている信念・期待・仮説に偏る形で証拠を探したり、解釈したりすることとして整理しています。つまり、偏りは「どの情報を見るか」だけでなく、「見つけた情報をどう評価するか」にも関係します。
説明用の例:既存サービスで解約が増え、「主因は価格だ」と考えたとします。価格への不満が書かれた回答ばかり詳しく読み、操作のしにくさや利用機会の減少を示す回答を十分に比べなければ、最初の見立てが実際以上に有力に見える可能性があります。
ここで確認したいのは、価格について調べたこと自体ではありません。「価格が主因」という説明と、同じ解約を説明できる別の可能性を比べられる情報まで見ているかです。
研究で分かっていること
研究からは、人は自分の仮説や既存の考えに合う情報を探したり選んだりすることがある一方、その傾向はいつも同じ強さで現れるわけではないことが分かります。また、自分の仮説に合いそうな事例を試すこと自体が、常に不合理なわけでもありません。
そのため、確証バイアスを「賛成材料を探したら確証バイアス」「反対材料を探せば解決」と単純化するのは適切ではありません。どの仮説を比べ、どの情報なら見分けられるのかまで考える必要があります。
中心となる研究:Wasonの「2・4・6」課題
Peter C. Wasonは1960年、若い成人29人を対象に、数字の規則を推測する課題を行いました。参加者には最初に「2・4・6」が規則に合う例として示されます。参加者は自分で3つの数字を作り、そのたびに「規則に合う/合わない」というフィードバックを受けながら規則を推測しました。実際の規則は「3つの数字が大きくなる順に並ぶ」ことでした。
誤った規則を一度も答えずに正解したのは29人中6人でした。Wasonは、誤答を繰り返した参加者について、自分の仮説を十分にテストできていなかったと論じています。この課題は、最初に思いついた狭い規則に合う例だけを試すと、より広い規則との違いを確かめにくくなることを理解する材料になります。
ただし、これは特定の規則発見課題です。この結果から、仕事でも同じ割合で判断を誤る、人は必ず反対情報を避ける、とまでは言えません。
支持する事例を試すこと自体は、いつも誤りではない
Joshua KlaymanとYoung-Won Haは1987年、確証バイアスとして扱われてきた現象の多くを、肯定的検証方略(positive test strategy:自分の仮説で当てはまりそうな事例を選んで試す方法)として捉え直しました。
2人は、この方略が現実的な条件では仮説の真偽を判断するのに有効な場合がある一方、条件によっては系統的な誤りや非効率にもつながると論じています。つまり、支持する情報を探したかどうかだけでなく、その調べ方で必要な違いを確かめられるかが重要です。
情報選択と集団判断でも、既存の考えに合う情報が選ばれることがある
William Hartらは2009年、91研究をまとめたメタ分析(複数の研究結果を統合して全体の傾向を見る方法)を行いました。平均すると、参加者には既存の態度・信念・行動に合う情報を選ぶ傾向が見られました。ただし、反対方向の情報が現在の目標達成に役立つ条件では、既存の考えに反する情報を選ぶ傾向も確認されています。
また、Stefan Schulz-Hardtらは2000年の3つの実験で、個人だけでなく集団でも、最初に選んだ案を支持する情報を好む傾向を確認しました。話し合い前に同じ選択肢を選んでいるメンバーが多い集団ほど、その傾向は強くなり、第2実験では管理職でも同様の結果が得られました。
これらは、会議で意見がそろっていることと、必要な比較材料まで検討できていることは同じではないと考える材料になります。ただし、実験課題と各社の企画会議では条件が異なるため、職場で同じ大きさの偏りが起こるとは限りません。
仕事で活かす方法
以下は、研究で確認された情報探索の特徴を企画判断へ置き換えた説明用の実務例です。この手順そのものが、一般の企画会議を対象とした研究で効果を確認されたわけではありません。
場面:既存サービスで解約が増え、「主因は価格である」という見立てを検討するとします。比較するのは、同じ期間に解約した利用者と契約を継続した利用者です。
- 現在の見立てと、別の可能性を書く
「価格が主因」と書いたうえで、「操作が分かりにくい」「必要な機能が足りない」「利用する機会が減った」など、同じ解約を説明できる別の可能性も並べます。この段階では、まだ情報収集を始めません。 - どんな結果なら見立てを変えるかを先に決める
たとえば、同じ質問に対する回答を比べて「価格への不満が解約した利用者に多く、操作や機能への不満は両者で大きく変わらないなら、価格仮説を優先する」「価格への不満が両者で大きく変わらず、操作への不満が解約した利用者に多いなら、価格仮説の優先度を下げる」と決めます。これは説明用の判断例です。実際の判断基準は、自社で使えるデータ量や調査方法、判断目的に合わせて事前に決めます。 - 両者を比べられる情報を決める
解約した利用者と継続した利用者の両方に、価格、操作のしやすさ、必要な機能があるか、利用頻度などについて同じ質問・同じ回答尺度で確認します。既存の問い合わせ記録などを使う場合も、両者で比較できる項目がそろっているかを先に確認します。比較できなければ、その記録だけで「差がある」とは判断しません。 - 決めた条件で情報を集める
同じ期間の解約者と継続者を対象に、手順3で決めた項目を集めます。途中で最初の見立てに都合のよい質問だけを追加せず、両者に同じ条件を適用します。 - 同じ基準で比べ、次の行動を決める
手順2で決めた条件に照らして、価格仮説を維持するか、別の説明を優先するか、追加調査が必要かを決めます。価格仮説が残れば価格施策の検討へ進み、操作性の問題が強ければ改善案の検討へ進む、と次の行動までつなげます。
この進め方の目的は、最初の見立てを否定することではありません。比較対象と判断条件を先に決めたうえで「価格が主因」という見立てが残るなら、企画判断の根拠を説明しやすくなります。
活用するときの注意点
- 「確証バイアス」という言葉で相手を決めつけない。 相手の心理状態を断定するより、どの情報を集め、何と比較したかを確認する方が実務では扱いやすくなります。
- 支持情報を探すこと自体を禁止しない。 肯定的検証方略が役立つ場合もあります。調べ方が課題に合っているかを見る必要があります。
- 比較できないデータを無理に並べない。 解約者と継続者で質問や期間が違えば、回答の差をそのまま原因の差として扱えません。
- 研究結果をそのまま職場へ一般化しない。 Wasonの規則発見課題や集団意思決定の実験と、実際の企画会議では条件が異なります。
参考文献・出典
- Nickerson, R. S.(1998)「Confirmation Bias: A Ubiquitous Phenomenon in Many Guises」Review of General Psychology, 2(2), 175–220。確証バイアスの定義と研究領域の整理。
- Wason, P. C.(1960)「On the Failure to Eliminate Hypotheses in a Conceptual Task」Quarterly Journal of Experimental Psychology, 12(3), 129–140。「2・4・6」課題の方法と結果。
- Klayman, J., & Ha, Y.-W.(1987)「Confirmation, Disconfirmation, and Information in Hypothesis Testing」Psychological Review, 94(2), 211–228。肯定的検証方略と確証バイアスの関係。
- Hart, W., Albarracín, D., Eagly, A. H., Brechan, I., Lindberg, M. J., & Merrill, L.(2009)「Feeling Validated Versus Being Correct: A Meta-Analysis of Selective Exposure to Information」Psychological Bulletin, 135(4), 555–588。既存の考えに合う情報を選ぶ傾向と、その条件差。
- Schulz-Hardt, S., Frey, D., Lüthgens, C., & Moscovici, S.(2000)「Biased Information Search in Group Decision Making」Journal of Personality and Social Psychology, 78(4), 655–669。個人と集団の情報探索を扱った3つの実験。