ネガティビティ・バイアスとは?悪い情報を重く受け止める心理

判断・認知バイアス
Psychology Laws 編集部

会議で企画案を評価するとき、良い点がいくつも挙がっていても、一つの悪い情報が出た途端に全体の印象が下がることがあります。こうした場面に関係するのが、ネガティビティ・バイアス(negativity bias)です。

ネガティビティ・バイアスとは、同程度の良い情報と悪い情報があるとき、悪い情報の方が注意や評価に強く影響しやすい傾向を指します。

ただし、「悪い情報はいつでも良い情報より重要」という意味ではありません。仕事では、否定的な情報を無視するのではなく、それが本当に重要なリスクなのか、単に全体評価を強く引っぱっているのかを、評価項目ごとに分けて確認することが大切です。

ネガティビティ・バイアスとは 意味と仕組み

RozinとRoyzman(2001)は、ネガティビティに関する研究を整理し、悪い出来事や特徴が同程度の良いものより強く働くnegative potency(否定的な情報の強さ)など、複数の形で現れると説明しました。

たとえば、ある企画について「市場の反応が良い」「利益率も高い」と評価していたところへ、「一部の利用者から重大な苦情が出た」という情報が加わると、最後の悪い情報が評価全体を大きく動かすことがあります。

一方で、どんな悪い情報でも同じように重く受け止められるわけではありません。情報がどれほど珍しいか、何を判断する材料なのか、重大な損失につながるのかなどによって影響は変わります。

研究で分かっていること

研究では、否定的な情報が、同程度の肯定的な情報より注意や評価を強く動かす場面が確認されています。ただし、その強さは判断対象や情報の意味によって変わり、肯定的な情報の方が重く扱われる場面もあります。したがって、「悪い情報は常に強い」という単純な法則として扱うのは適切ではありません。

専門家の企画評価では、低い点数の方が評価を大きく動かした

Laneら(2021年オンライン公開、2022年刊行)は、大学の研究助成の審査を使った2つの実地実験を行いました。

7大学から集まった369人の評価者が、97件の研究企画を評価し、合計761件の「評価者×企画」の組み合わせが分析されました。評価者はまず自分で企画に点数を付け、その後、他の評価者が自分より高い点数を付けた場合と、低い点数を付けた場合の情報を見て、点数を変更できるようにしました。

両方の実験をまとめた分析では、他の評価者の点数が低い場合、自分の評価は平均0.726点下がりました。一方、他の評価者の点数が高い場合の上昇は平均0.461点でした。同程度の方向差を見せても、低い評価を見たときの方が、自分の点数を大きく動かしていました。

さらに、評価変更の理由を分析すると、低い点数を見た評価者は、企画の弱点や問題点を追加で探す傾向を示しました。高い点数や中立的な情報を見た場合は、自分の判断への自信など、評価項目そのもの以外への言及が比較的多くなりました。

この研究は、悪い情報が単に「印象に残る」だけでなく、専門家が企画を見直す行動や、追加で何を探すかにも影響した例です。

肯定・否定の強さをそろえても、否定的な刺激への反応が大きかった

Itoら(1998)は、肯定的、否定的、中立的な画像を見ているときの脳波を測定しました。

研究では、肯定的な画像と否定的な画像について、出現する確率、評価の極端さ、感情を刺激する強さをできるだけそろえました。それでも、評価するときに現れる事象関連電位(ERP)という脳波反応は、肯定的な画像より否定的な画像に対して大きくなりました。

ERPとは、画像や音などの刺激に反応して脳波に現れる時間的な変化です。この結果は、否定的な情報への偏りが、最終的な回答だけでなく、情報を評価する段階でも現れる可能性を示しています。

「悪い情報が必ず強い」わけではない

人の印象を評価する研究では、情報が何を判断する材料かによって逆の結果も確認されています。

Martijnら(1992)は、人の行動から特徴を推測する実験で、道徳性については否定的な行動の方が強い判断材料になった一方、能力については肯定的な行動の方が強い判断材料になる結果を報告しました。

たとえば、不正を一度したという情報は「不誠実な人かどうか」を判断するうえで重要に見えやすい一方、難しい仕事を一度成功させたという情報は「その能力があるかどうか」を判断する強い材料になり得ます。

したがって、ネガティビティ・バイアスを「悪い材料は何でも2倍重くする」といった固定ルールとして使うことはできません。

仕事での具体例

以下は説明用の仮の例です。

ある会社が、新しい業務システムの導入案を3案から選んでいるとします。候補Aについて、担当者は次のような材料を集めました。

評価項目 肯定的な材料 否定的な材料
費用 3年間の総費用は予算内 初期費用は3案で最も高い
使いやすさ 試用した10人中8人が現行より使いやすいと回答 2人が画面構成を分かりにくいと回答
導入 標準機能なら3か月で導入可能 既存システムとの連携に追加作業が必要
安全性 必要な認証を取得済み。既知の重大な問題は確認されていない 自社環境での権限設定テストが未完了

会議で「初期費用が一番高い」という情報が強く印象に残り、他の材料を十分比較しないまま候補Aを外そうとしたとします。

このとき、「高い」という否定的な印象を打ち消すために長所を増やすだけでは不十分です。まず、初期費用が選定基準の中でどれほど重要なのか、3年間の総費用や使いやすさなど他の項目と同じ基準で比較する必要があります。

仕事で活かす方法

否定的な情報に全体評価が引っぱられていないか確認するときは、次の順番で整理します。

  1. 評価基準を情報を見る前に決める
    価格、品質、安全性、納期など、何で判断するかを先に決めます。可能なら各項目の重要度や、最低限満たす条件も決めます。
  2. 長所と短所を同じ評価項目の中に置く
    「良い点10個、悪い点2個」のように数だけを比べず、費用なら費用、品質なら品質という同じ軸で材料を並べます。
  3. 否定的な材料が「致命的条件」か確認する
    法令違反、安全性の重大な欠陥、予算上限超過など、1件だけでも不採用にすべき条件なら、重く扱うのが適切です。単なるマイナス材料と区別します。
  4. 情報の強さを具体化する
    「評判が悪い」ではなく、「回答100件中6件で同じ不具合が報告された」のように、件数、影響範囲、再現性などを確認します。肯定的な材料も同じ基準で具体化します。
  5. 各項目を評価してから全体判断を出す
    最初から「良い・悪い」の総合印象で決めず、各項目を確認した後に全体を比較します。
  6. 他人の評価を見る前の点数を残す
    複数人で審査する場合は、まず各自で評価を記録してから意見を共有します。誰のどの情報で点数が動いたかを後から確認できます。

この手順の目的は、悪い情報を軽く扱うことではありません。重要だから重く扱う情報と、否定的だから強く感じている情報を分けることです。

参考文献・出典