ベースレート無視とは?個別の情報と全体の割合を合わせて判断する

判断・認知バイアス
Psychology Laws 編集部

営業担当者が「この顧客は提案書を欲しがっているから、かなり受注しそうだ」と感じることがあります。しかし、似た顧客全体の受注率が低ければ、その個別情報だけで高い成功確率と判断するのは危険です。

こうしたときに関係するのが、ベースレート無視(base-rate neglect)です。ベースレートとは、個別の情報を見る前に分かっている全体の割合や発生頻度です。

仕事で重要なのは、個別情報を無視することでも、全体割合だけで決めることでもありません。「似たケース全体ではどれくらい起きているか」を土台にして、そのうえで今回の個別情報がどれだけ判断を変える材料なのかを確認することです。

ベースレート無視とは 意味と仕組み

ベースレート無視とは、全体の中である結果がどのくらい起きているかという情報より、目の前の人物や案件についての具体的な情報を重く扱いすぎる傾向です。

たとえば、過去の同種案件100件のうち受注は20件だったなら、受注率20%が判断の出発点になります。そのうえで「決裁者が参加した」「提案書を求められた」などの個別情報を加えて、20%からどの程度見込みを上げ下げするかを考えます。

ここでいうベースレートは、何でもよい全体平均ではありません。今回の案件と比較するのに適した集団の割合を使う必要があります。新規顧客の大型案件を判断するときに、小規模な既存顧客を含む全案件の受注率を使えば、土台そのものが不適切になります。

研究で分かっていること

研究では、具体的な個別情報が与えられると、全体割合の影響が必要以上に小さくなる場合が確認されています。ただし、人が常にベースレートを完全に無視するわけではありません。ベースレートの使われ方は、情報の示し方や、その情報がどれほど判断に関係すると感じられるかによって変わります。

人物説明が入ると、30%と70%という違いがほとんど反映されなかった

KahnemanとTversky(1973)は、技術者と弁護士の割合を使った実験を行いました。

一方のグループ85人には「100人のうち技術者30人、弁護士70人」、もう一方の86人には「技術者70人、弁護士30人」と伝えました。そのうえで、同じ5人分の人物説明を見せ、それぞれが技術者である確率を答えてもらいました。

人物説明がない場合、参加者は技術者の確率をそれぞれ30%と70%と答え、全体割合をそのまま使いました。

ところが人物説明が加わると、5つのケースを平均した技術者確率は、技術者が30%の条件で50%、70%の条件でも55%でした。30%対70%という大きな違いに比べると、ベースレートが判断へ与えた影響は小さくなっています。

さらに、職業を判断する材料にならないよう作られた中立的な人物説明でも、両方の条件で中央値は50%でした。具体的な説明があるだけで、判断に役立たない内容でも全体割合が使われにくくなる例です。

ただし、「人はベースレートをいつも無視する」とは言えない

Koehler(1996)は、それまでのベースレート研究をレビューし、「人は日常的にベースレートを無視する」という一般化は強すぎると論じました。

レビューでは、研究全体を見るとベースレートはほとんどの場合に少なくともある程度利用され、その影響の大きさは課題の構造や情報の表現によって変わると整理されています。

この点は、先ほどの技術者と弁護士の研究とも一致します。人物説明がある条件でも、30%条件の平均50%と70%条件の55%には小さいながら差があり、完全に無視されたわけではありません。

「100人中何人」の形にすると、全体割合と個別情報を組み合わせやすくなる

GigerenzerとHoffrage(1995)は、ベースレートと新しい情報を組み合わせるベイズ推論について、情報の示し方を変える研究を行いました。ベイズ推論とは、最初の確率を、新しく得られた証拠に応じて更新する考え方です。

15種類の推論問題を使い、確率を「病気の人は1%」「検査の感度は80%」のように示す形式と、「1,000人中10人が病気で、そのうち8人が陽性」のように人数で示す形式を比較しました。ここで検査の感度80%とは、実際に病気の人のうち80%が検査で陽性になるという意味です。

思考過程と答えの両方を厳しく判定した結果、人数で示す形式では46〜50%の回答でベイズ的な推論が使われたのに対し、確率表示では16〜28%でした。

この研究からは、ベースレートを使う能力だけでなく、情報を比較しやすい形で示すことも判断の質に関わると考えられます。

仕事での具体例

以下は説明用の仮の例です。

営業チームが、新規案件の受注見込みを判断しているとします。過去の似た条件の案件100件を調べると、次の結果でした。

過去の案件 受注 失注 合計
全案件 20件 80件 100件

まず、似た案件全体の受注率は20%です。

そこへ、「今回の顧客は提案書を正式に依頼してきた」という個別情報が加わりました。過去の100件を調べ直すと、受注20件のうち15件、失注80件のうち20件でも、提案書の正式依頼がありました。

提案書の正式依頼 受注 失注 合計
あり 15件 20件 35件
なし 5件 60件 65件

「受注案件20件のうち15件が提案書を依頼していた」だけを見ると、75%という数字が強く見えます。しかし、提案書を依頼した案件全体で見ると35件中15件が受注なので、実績は約43%です。

提案書の依頼は、受注率を20%から約43%へ引き上げる重要な材料ではあります。しかし、それだけで「75%受注できる」と考えるのは適切ではありません。全体割合と個別情報の両方を同じ表に入れると、個別情報を過大評価しにくくなります。

仕事で活かす方法

個別情報と全体割合を合わせて判断するときは、次の順番で整理します。

  1. 比較する集団を決める
    今回と条件が近い過去案件を決めます。商品、顧客規模、獲得経路、地域、期間など、結果に大きく関係しそうな条件をそろえます。
  2. 最初にベースレートを書く
    「過去100件中20件が受注=20%」のように、個別情報を見る前の割合を明示します。
  3. 今回注目している特徴を決める
    「提案書を正式依頼した」「決裁者が参加した」など、今回の判断を変えそうな個別情報を一つずつ確認します。
  4. その特徴が成功例と失敗例の両方で何件あったか数える
    成功例だけを見ず、「受注20件中15件」と「失注80件中20件」の両方を確認します。
  5. 特徴を持つ案件全体の中で結果を数える
    この例なら、提案書依頼あり35件のうち受注15件なので約43%です。「100人中」「100件中」の人数・件数にすると比較しやすくなります。
  6. 最後に、データにない個別事情を加える
    予算確定、競合状況、契約条件など、過去データだけでは表せない事情を別に検討します。個別事情を先に見てから都合のよいベースレートを探さないようにします。

この手順なら、ベースレートを出発点にしながら、今回特有の情報で予測を更新することができます。

活用するときの注意点

  • 使うベースレート自体が現在の対象に合っているか確認します。市場や商品、営業方法が変わっているなら、古い全体平均は現在の案件を表さない可能性があります。
  • 割合だけでなく元の件数も確認します。3件中2件と300件中200件は同じ約67%でも、根拠の安定性は異なります。

参考文献・出典