行為者―観察者バイアスとは?自分と他人で原因の見方は変わるのか

判断・認知バイアス
Psychology Laws 編集部

仕事で問題が起きたとき、本人は「状況が悪かった」と考え、周囲は「本人の能力や性格に原因がある」と考えることがあります。こうした違いは、古くから「行為者―観察者バイアス」として説明されてきました。

ただし、現在の研究では、「人は自分の行動を状況で説明し、他人の行動を性格で説明する」という単純な非対称性が、いつでも一般的に起こるとは支持されていません。仕事では、この名前を使って相手を分類するより、本人と周囲がどの情報を見て原因を説明しているのかを具体的に確かめる方が実用的です。

行為者―観察者バイアスとは 意味と研究上の注意

行為者―観察者バイアス、または行為者―観察者の非対称性(actor–observer asymmetry)は、古典的には、自分の行動は状況の影響で説明しやすく、他人の行動はその人自身の特徴で説明しやすいという仮説です。

ここでいう行為者は、自分自身の行動を説明する人、観察者は、他人の行動を説明する人です。Malleの2006年のメタ分析(複数の研究結果を統合して全体の傾向を見る方法)では、この古典的な仮説をJonesとNisbettが提案したものとして整理しています。

Malle(2006)

説明用の例:報告書の提出が3日遅れたとします。担当者本人は「途中で追加依頼が入ったから」と説明し、上司は「本人の段取りが悪いから」と説明するかもしれません。これだけを見ると古典的な行為者―観察者の違いに見えますが、実際にどちらの説明が妥当かは、追加依頼の記録、仕事量、過去の同様案件などを確認しなければ分かりません。

研究で分かっていること

研究からは、古典的な行為者―観察者の非対称性は、全体として見ると一般的な法則としては支持されていないことが分かっています。一方で、出来事が否定的か肯定的か、説明する場面や測定方法など、条件によって自己と他者の原因説明に違いが出る場合はあります。

そのため、「本人は必ず状況のせいにする」「観察者は必ず性格のせいにする」と考えるのは適切ではありません。どの条件で違いが出た研究なのかを見る必要があります。

中心となる研究:173研究をまとめると、古典的な非対称性はほぼ見られなかった

Malleは2006年、1971年から2004年までに発表された行為者―観察者研究173件をまとめたメタ分析を行いました。

分析した複数の指標で、平均的な効果はほぼゼロに近く、古典的な「自分は状況、他人は人物」という非対称性は、研究全体では確認されませんでした。

一方、条件を分けて見ると、否定的な出来事では古典的な方向の違いが見られましたが、肯定的な出来事では逆方向の違いが見られました。Malleは、この結果は単純な行為者―観察者効果というより、成功や失敗を自分に有利に説明する傾向が関係している可能性を示すと論じています。

また、仮想的な出来事を説明する場合、行為者と観察者が親しい場合、自由記述の説明を分類した場合など、一部の条件では古典的な非対称性が見られました。

Malle(2006)

このメタ分析を踏まえると、行為者―観察者バイアスを「人間なら誰にでも起こる強い一般則」と扱うのは適切ではありません。

初期研究では、見る立場を変えると原因説明も変わった

Stormsは1973年、男性大学生120人を対象に、2人が会話し、別の2人がその様子を観察する実験を行いました。その後、参加者は会話中の行動について、本人の特徴と状況のどちらがどの程度原因だったかを評価しました。

通常の視点では、行為者は観察者より状況要因を重く評価しました。一方、会話を撮影した映像を使って見る視点を変えると、その違いは逆転しました。

Storms(1973)

この研究は、本人か観察者かという立場だけでなく、何が目に入りやすいかという視点も原因説明に関わる可能性を示しました。ただし、後のメタ分析では、この古典的なパターンが研究全体で安定しているわけではないことが確認されています。

基本的帰属の誤りとは違う

行為者―観察者バイアスは、自分の行動の説明と、他人の行動の説明を比較する仮説です。

一方、基本的帰属の誤りや対応バイアスは、主に他人の行動から、その人の性格や態度をどの程度推測するかを扱います。自分と他人を直接比較しなくても成立する研究テーマです。

Malleも、この2つはしばしば同じように扱われてきたものの、行為者―観察者の非対称性は「行動の原因説明」、対応バイアスは「行動から人物特性を推測すること」を中心とするため、区別が必要だと指摘しています。

Malle(2006)

職場で原因の見方が違うときに確認する方法

以下は、帰属研究の知見をプロジェクトの振り返りへ置き換えた説明用の実務例です。この手順そのものが、一般の職場で行為者―観察者の違いを解消すると実証されたものではありません。

場面:担当者Aの報告書が予定より3日遅れました。Aは「途中で追加依頼が入ったから」と説明し、上司は「Aの段取りに問題があった」と考えています。

  1. まず、起きた事実を原因説明と分ける
    「提出予定日は9月30日、実際の提出日は10月3日で、3日遅れた」のように、まず結果だけを記録します。「段取りが悪かった」「追加依頼のせいだった」といった原因説明は別欄にします。
  2. 本人と観察者の説明を、そのまま書き出す
    Aの説明と上司の説明を、正しい・間違いと判断する前に記録します。Aは「9月25日に追加作業が入った」、上司は「当初の見積もりに余裕がなかった」など、できるだけ具体的な形にします。
  3. 両方の説明を確かめられる記録を集める
    依頼変更の日時と内容、当初の作業見積もり、追加された業務量、同時期の担当案件数、進捗記録、過去の類似案件の納期などを確認します。本人の記憶だけ、上司の印象だけで原因を確定しません。
  4. 同じ基準で「状況」と「本人側の行動」を見る
    追加作業が本当に発生し、その影響が大きかったかを確認します。同時に、追加作業がない類似案件でもAが繰り返し遅れているか、同じ条件の他の担当者ではどうだったかも確認します。どちらか一つの証拠だけで原因を断定せず、複数要因が重なっている可能性も残します。
  5. 確認できた原因に対応する次の行動を決める
    要件変更が主な要因なら、変更時に納期を再設定する仕組みを見直します。見積もりや進捗管理に継続的な課題が見られるなら、見積もり方法や中間確認を改善します。両方が関係していれば、両方に対応します。

この確認の目的は、「本人と上司のどちらが正しいか」を最初に決めることではありません。それぞれが見ている情報が違う可能性を前提に、同じ記録を使って原因を確かめることです。

活用するときの注意点

  • 「本人は状況のせいにするものだ」と決めつけない。 古典的な行為者―観察者の非対称性は、研究全体では一般則として支持されていません。
  • 性格と状況を二者択一にしない。 実際の仕事では、本人の技能、業務量、依頼変更、チームの仕組みなど複数の要因が同時に関わることがあります。
  • 否定的な出来事ほど、自己に有利な説明が混ざる可能性も考える。 ただし、個人の動機を決めつけず、記録と条件を確認します。
  • 原因の説明と責任の判断を分ける。 状況要因があったことは、自動的に責任がないことを意味しません。逆に、担当者に改善点があっても、状況要因を無視してよいわけではありません。

参考文献・出典