獲得的欲求理論とは?達成・親和・権力への欲求から動機づけを考える

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

同じ地域の催しを準備していても、「難しい仕事をやり遂げたい」という人もいれば、「みんなと仲良く取り組みたい」「全体をまとめて企画を進めたい」という人もいます。どうして同じ活動に、違うやりがいを感じるのでしょうか。

獲得的欲求理論は、人の行動を後押しするものとして、達成・親和・権力という三つの欲求に注目する考え方です。どの欲求をどれほど強く持つかは人によって異なり、経験や周囲の環境の影響を受けると考えます。三つは人を分ける性格診断の種類ではなく、同じ人の中にも共存する動機です。

獲得的欲求理論とは?経験を通じて形づくられる三つの欲求

獲得的欲求理論は、心理学者デイヴィッド・マクレランドが発展させた、人が何を求めて行動するかを考える理論です。マクレランドは1961年の著書『The Achieving Society』などで、人の意欲に関わる欲求を研究しました。ハーバード大学の紹介でも、達成・親和・権力という三つの欲求と、その重視され方の個人差が主要な研究成果として挙げられています(Harvard University, 発表年未記載)。

「獲得的」とは、こうした欲求が、幼い頃からの経験や人との関わりなどを通じて形成されると考えることです。生まれた時から三つの強さが決まっているという考え方ではありません。ただし、経験によって誰の欲求も同じように変えられると証明されたわけでもありません(Black & Bright, 2019)。

ここでいう「欲求」は、空腹のように身体を維持するための必要性とは違います。難しいことを達成すると満足する、人と親しくなることを喜ぶ、周囲に影響を与えることにやりがいを感じる、といった行動の目的に関わるものです。

達成・親和・権力の三つの欲求

達成欲求:難しいことをやり遂げ、自分の力を確かめたい

達成欲求は、難しい課題に挑戦し、一定の水準に達したり、成果を出したりすることに喜びを感じる欲求です。たとえば、初めて挑戦する料理で「前回よりきれいに仕上げたい」と試行錯誤することが考えられます。

この欲求を重視する人は、取り組んだ結果を確かめられることにも関心を持ちやすいと説明されています。ただし、達成欲求が強ければどんな課題でも成功するわけではなく、必要な技術や実行できる条件も関わります(Black & Bright, 2019)。

親和欲求:人と親しい関係をつくり、保ちたい

親和欲求は、他人と打ち解けたり、温かい関係を築いて保ったりすることを求める欲求です。たとえば、料理教室で新しい献立を覚えること以上に、参加者と会話したり、一緒に作ったりする時間を楽しむ人がいるでしょう。

親和欲求が高いことは、いつでも大勢の人と過ごしたいという意味ではありません。また、一人で過ごすのが好きな人に親和欲求がまったくないともいえません。誰と、どのような関係を築きたいのかという場面も関わります(Black & Bright, 2019)。

権力欲求:周囲に影響を与え、物事を動かしたい

権力欲求は、他人の考えや行動、集団の進む方向に影響を与えることを求める欲求です。たとえば、町内の行事について、自分から案を出し、参加者に働きかけて実現に近づけたいという気持ちが考えられます。

影響を与えたいという気持ちは、相手を自分の思いどおりに動かす方向にも、集団の目標を実現するために人をまとめる方向にも表れます。したがって、権力欲求があることだけで、人を支配したがる人だとは判断できません(Black & Bright, 2019)。

研究で分かっていること

欲求だけでなく、能力や状況も行動に関わる

マクレランド(1985)は、課題の成績や人と親しく関わる行動についての研究を整理し、欲求の強さだけでは行動を十分に説明できないと論じました。あることをどれほどしたいかに加えて、達成できそうか、どんな魅力があるか、行動する機会があるかも関わるという説明です(McClelland, 1985)。

たとえば難しい料理に挑戦したい気持ちが強くても、道具がない、材料がそろわないといった条件では作れません。実際の行動から欲求の強さを考える際には、本人が置かれた状況も確かめる必要があります。

自分で答える欲求と、物語から読み取る欲求は一致するのか

マクレランド、ケストナー、ワインバーガー(1989)は、本人が質問に答えて示す欲求と、人物の絵を見て考えた物語から研究者が読み取る欲求を区別しました。前者は本人が自覚している「こうしたい」という気持ちに近く、後者は本人がはっきり意識していなくても、魅力を感じる活動に表れる欲求を捉えようとします。二つの測り方は、異なる行動との関係を示す場合があると論じられています(McClelland, Koestner, & Weinberger, 1989)。

その後、ケルナーとシュルトハイス(2014)は、達成・親和・権力の欲求を、この二つの方法で測った研究をまとめました。分析の対象は49の文献に含まれる56の独立した集団、計6,151人です。二つの測定結果には、全体として弱い正の関係が見られました。ただし、欲求ごとに見ると、達成欲求と親和欲求では弱い正の関係が見られた一方、権力欲求では明確な関係は確認されませんでした。分析に含まれた集団の多くは学生でした(Köllner & Schultheiss, 2014)。

つまり、「自分は人と関わるのが好きだ」と答えることと、ほかの方法で測られる親和欲求の強さは、必ずしも同じではありません。この結果は、三つの欲求が存在しないという意味ではなく、欲求をどのように調べるかによって捉えられる側面が違うことを示しています。

経験によって欲求は変わるのか

デンツィンガーとブランドシュテッター(2018)は、本人が自覚しにくい欲求が時間とともに変わるかについて、過去の研究を整理しました。研究には、学習を促す取り組みや、年齢の異なる人の比較、同じ人を時間を置いて調べる方法が含まれていました。

その結果、生活環境や経験に応じて変化し得ることは示唆されましたが、どの方向に、どの程度変化するのかについて結論は一致していません。獲得的欲求理論の「経験から形づくられる」という考え方は、経験すれば誰でも思いどおりに欲求が変わるという約束ではありません(Denzinger & Brandstätter, 2018)。

身近な場面で考える:地域の催しを準備するとき

たとえば、三人が地域の催しの準備に参加しているとします。ある人は「初めての企画をうまく完成させたい」と考え、別の人は「参加者と仲良くなりたい」と感じています。もう一人は「みんなの意見をまとめて、企画を前に進めたい」と考えているかもしれません。

最初の人の気持ちは達成欲求、二人目は親和欲求、三人目は権力欲求の例として考えられます。ただし、これは仕組みを理解するための仮の例です。同じ人が三つの気持ちを持つこともあり、一度の行動や発言だけで、その人の欲求を決めることはできません。

この理論を知ると、同じ活動に参加している人でも、何に満足を感じ、何を大切にして取り組んでいるかが異なることを考えられます。人の行動を理解するときは、本人が何を求めているかだけでなく、実際に置かれた状況や、できることにも目を向けるのが大切です。

参考文献・出典