ホット/クールシステム理論とは?誘惑に反応する心と待つことを支える心の働き

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

勉強を始めようとしたとき、机の上のお菓子が目に入り、「一つだけ食べたい」と感じることがあります。先に勉強を終わらせたいと思っていても、目の前の誘惑が気になるのはなぜでしょうか。

ホット/クールシステム理論は、目の前の魅力や感情にすばやく反応する働きと、状況を考え、先の目標に沿って行動を調整する働きの関係から、誘惑を我慢して待てる場合と待てない場合を説明する理論です。同じお菓子でも、何に注意を向け、どう捉えるかによって、待ちやすさが変わると考えます。

ホット/クールシステム理論とは?心の二つの働き

心理学者のメトカーフとミシェルは1999年、それまでの「目の前の小さなご褒美を受け取るか、待って大きなご褒美を受け取るか」という研究を整理し、二つの働きが関わり合うモデルを提案しました(Metcalfe・Mischel, 1999)。

  • ホットシステム:お菓子を見て「おいしそう、今すぐ食べたい」と感じるように、気持ちを動かすものにすばやく反応し、その場で行動したくなる働きです。食べ物への欲求だけでなく、怖さや怒りなどの強い感情への反応も含みます。
  • クールシステム:「今食べると一つだけだが、待てば二つもらえる」など、目の前のものを少し離れた視点から捉え、選択肢や先の結果を考える働きです。待つために注意をそらすなど、行動を調整する工夫にも関わります。

ここでの「ホット」と「クール」は、実際の体温のことではありません。気持ちが動いて行動を急ぎやすい状態と、いったん考えて行動を選ぶ状態を説明する名前です。ホットシステムが常に悪いという意味ではなく、危険にすぐ反応することが役立つ場面もあります。二つの働きは互いに影響し合うと考えられています。また、脳のどこかにこの名前の二つの装置が見つかったという主張でもありません。

なぜ、同じお菓子でも待ちやすさが変わるのか

たとえば、目の前のマシュマロを「甘くて、ふわふわして、おいしそう」と考えると、食べたい気持ちが強くなるかもしれません。これは、報酬の魅力に注目する見方です。

一方、同じマシュマロを「白くて丸い形」「雲に似た形」と捉えたり、別の楽しいことを考えたりすると、味や食べたい気持ちから注意を離せます。研究者らは、こうした見方の違いによって、目の前のものが引き起こす反応が変わり、待ち続ける行動を支えられると考えました(Mischelほか, 1989)。

クールシステムは誘惑をなくす力ではなく、誘惑への向き合い方を変える働きとして理解できます。何を考えるかを変えることも、目の前のお菓子を見ないようにすることも、待つための手がかりになり得ます。

メトカーフとミシェル(1999)は、年齢とともに考えて調整する働きが発達することや、強いストレスを受けたときに感情的な反応が優勢になりやすいことも理論に含めました。ただし、これは二つの働きの関係を説明するモデルであり、一人ひとりの行動を必ず当てられる決まりではありません。

研究で分かっていること

1972年:何を考えながら待つかで時間が変わった

ミシェルら(1972)は、3〜5歳ほどの子どもを対象に三つの実験を行いました。子どもは、すぐにもらえる食べ物を選ぶか、より欲しい食べ物をもらうために研究者の帰りを待つかを選べました。研究者らは、待っている間に何を見たり考えたりするかを変えて、待つ時間を調べました。

その結果、別の楽しいことを考えるよう促された子どもは、目の前の食べ物や悲しいことを考えるよう促された子どもより長く待つ傾向がありました。食べ物を視界から隠しても、その食べ物について考えるように言われると、待つ時間は短くなりました(Mischelほか, 1972)。

ここで調べたのは、子どもが実際に待ち続けた時間です。心の二つの働きを直接測った実験ではありませんが、注意の向け先によって待つ行動が変わることは、この理論を考える重要な根拠になりました。

1989年:お菓子を見せるか、別のものとして捉えるか

ミシェルら(1989)は、それまでに行われた幼児の「待つ」実験を整理しました。ある実験では、食べ物が目の前に見えていないときは平均11分を超えて待ったのに対し、待っている間に食べ物の一部または全部が見えているときは平均6分未満でした。別の実験では、本物のお菓子を「写真のようなもの」と頭の中で捉えると、目の前にお菓子があっても長く待てるようになりました(Mischelほか, 1989)。

ただし、これらの数値は、1989年に一つの新しい実験で全条件を同時に比べた結果ではありません。先行する複数の実験をまとめた報告です。食べ物が目に入ることだけでなく、頭の中でどう考えるかも待ち時間に関係していました。

2013年:約束が守られると思えるかも、待ち時間に関わった

キッドら(2013)は、平均年齢4歳6か月の子ども28人を対象に、まず工作で使う新しい画材やシールを後から持ってくると約束する二つの場面を設けました。両方の約束が守られるグループと、両方とも守られないグループをつくった後、目の前のマシュマロを一つ食べるか、待って二つもらうかという課題を行いました。

その結果、待ち時間の平均は、約束が守られたグループで12分2秒、守られなかったグループで3分2秒でした。待てる時間には15分の上限があり、各グループは14人でした(Kiddほか, 2013)。

この研究は、待つかどうかがその人の自制の働きだけで決まるのではなく、待てば約束どおり報酬を受け取れると考えられるかにも関わることを示しています。早く食べた子どもを、ただ我慢が苦手な子どもだと判断することはできません。

2018年:幼児期の待ち時間だけで将来は決まるのか

ワッツら(2018)は、4歳頃の「待つ」課題と、15歳頃の学業成績や行動との関係を改めて調べました。母親が大学を卒業していない子どもでは、幼児期の待ち時間と後の学業成績に関連が見られました。ただし、成績との関連の多くは、少なくとも20秒待てたかどうかの違いによるものでした。また、家庭環境や幼い頃の能力などを考慮すると、待ち時間と成績の関連の大きさは約3分の1に縮まりました。行動面の結果との関連はさらに小さく、統計的に明確でない場合がほとんどでした(Wattsほか, 2018)。

これは、幼児期の待ち時間が将来の成績を直接決めるという研究結果ではありません。待つ行動には、その場の状況や育ってきた環境なども関わるため、実験で一度待てなかったことから、その人の将来の成績や行動を決めつけることはできません。

身近な場面で考える:勉強中のお菓子が気になるとき

たとえば、試験前の学生が「問題集を10ページ終えたらお菓子を食べよう」と決めたとします。机の上のお菓子を見ながら「どんな味だったかな」と考え続けると、食べることに気持ちが向きやすくなります。

そこで、お菓子をいったん棚にしまい、目の前の問題に注意を向けるとします。これは、誘惑を見えにくくし、考える対象を変えるという理論に沿った工夫です。お菓子を置いたままにする場合でも、味ではなく包装の色や形に目を向ければ、感じ方が変わるかもしれません。

ただし、これらは研究結果を日常に当てはめて考えた仮の例です。幼児のお菓子を使った実験と、大人や学生の勉強では状況が違い、同じ工夫で必ず集中できると確かめたわけではありません。

ホット/クールシステム理論が示すのは、目先の誘惑に負けるかどうかを「意思が強いか弱いか」だけで考えず、目の前のものをどう捉え、何に注意を向けているかから理解する視点です。同時に、待つことに意味がある環境かどうかも大切になります。

参考文献・出典