行為コントロール理論とは?実行に向かえるときと考え込んでしまうときの違い

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

「書類を片づけよう」と決めたのに、以前の失敗が気になって手が止まることがあります。一方、同じように不安があっても、必要な書類を一枚ずつ確認し始める人もいるでしょう。やる気があっても、行動に移れるときと、考え込んでしまうときがあるのはなぜでしょうか。

行為コントロール理論は、やろうと決めたことを実行するには、目標に向けた行動を保ち、迷いや過去の失敗など別の考えに注意を奪われたときに切り替える働きが必要だと考える理論です。人が行動を始めたり、いったん中断したことを再開したりする場面を理解する手がかりになります。

行為コントロール理論とは?「やりたい」と「実際にする」の間を考える

心理学者のユリウス・クールは、1984年の論考で、行動する意欲が十分にあっても、その行動に必要な考えや作業を実行できないことがあると説明しました。たとえば難しい問題に取り組もうとしても、以前の失敗から「またできないかもしれない」と考え始めると、目の前の問題を解くための注意がそちらに向かなくなることがあります(Kuhl, 1984)。

この考え方が注目するのは、目標を持つことだけでなく、いくつもの考えや行動の候補がある中で、決めたことをどう実行に移すかという部分です。したいことが二つあったり、気になることが頭から離れなかったりする状況では、目標に向けて注意や気持ちを整える必要があると考えます。

ここでいう「コントロール」は、自分の感情を完全に消したり、いつでも意思の力だけで動けたりするという意味ではありません。気がかりなことがありながらも、取り組む行動へ意識を向け直すことなどを含んでいます。

行為志向と状態志向はどう違うのか

この理論に関わる重要な区別が、行為志向と状態志向です。どちらも、やりたいことがある場面や、思いどおりにいかない場面で、何に注意を向けやすいかという傾向を表します。

行為志向:次の行動に注意を向け直しやすい

行為志向とは、決めたことを始めたり、困ったことが起きても次にできることへ気持ちを切り替えたりしやすい傾向です。たとえば書類に不備が見つかったとき、「まず足りないものを調べよう」と次の作業へ意識を向けるような場合が当てはまります。

状態志向:迷いや失敗について考え続けやすい

状態志向とは、何をするか決められずに迷ったり、失敗したことや今の気持ちについて考え続けたりして、行動の開始や切り替えが難しくなりやすい傾向です。先ほどの例なら、「なぜ前も同じ間違いをしたのだろう」と考え続け、次の確認作業に取りかかるまで時間がかかる場面が考えられます。

行為志向と状態志向は、人を二種類に決めつけるための名前ではありません。研究では、失敗の後に気持ちを切り替えられるかと、負担のある場面で決めたことに着手しやすいかなど、場面に応じた傾向を分けて調べています(Society for Judgment and Decision Making:行為・状態志向の測定項目)。考えること自体が悪いのではなく、考え続けることで必要な行動に移れなくなる場合が、この理論の関心です。

研究では何が確かめられているのか

行動の手がかりや負担によって、着手の速さが変わる

カゼン、カシェル、クール(2008)は、二つの実験で、行動を始めるまでの時間を調べました。最初の実験では、画面に動作を表す単語が出たらキーを押す課題を使い、事前にその単語と関係する言葉を見せる条件と、関係のない言葉を見せる条件を比べました。二つ目の実験では、画面上の二つの目標地点のどちらかへキー操作で印を動かす課題を使いました。片方の目標地点が近くて選ぶ手がかりになる条件と、二つが同じ距離にあって自分で選ぶ条件を比べ、さらに別の課題が終わっているか、途中のままかによっても違いを調べました。

その結果、最初の実験では、気力がわきにくい状態のときに、状態志向の強い人は事前の言葉が動作と関係しない条件でキーを押すまでに時間がかかる傾向がありました。二つ目の実験では、別の課題を終えていない状態で、二つの目標地点を自分で選ぶ必要があるときに、状態志向の強い人の判断が遅れました。行為志向の強い人には、これらの条件で同じような遅れが見られませんでした(Kazén, Kaschel, & Kuhl, 2008)。

これらは、実験室で単語や画面の目標地点に反応するまでの時間を調べた結果です。日常の大きな決断でも必ず同じ違いが生じるとまではいえません。ただ、本人の傾向だけでなく、行動を選ぶ手がかりや、そのときの負担が関わることを示しています。

中断した作業に戻るときにも違いが見られた

バークら(2020)は、参加者がコンピューターゲームをしている途中に、通信が切れたことを知らせる画面が出る実験を3回行いました。画面には、時間が過ぎるのを待つ方法と、ボタンを押してすぐに再開する方法がありました。通知が出るのは、ゲームの途中で中断された場合と、一区切りついた後の場合です。

その結果、ゲームの途中で中断されたときには、負担のある場面で行動を始めやすいという行為志向が強い人ほど、自分からボタンを押して再開する傾向が見られました。ゲームが一区切りついた後の反応や、ゲームの得意さ・楽しさなどを考慮しても、この関係は残りました。一方、失敗後の気持ちの切り替えやすさを測る方の行為志向には、同じ関係は見られませんでした。通知を繰り返し経験すると対応が変わることも確認されました(Birk, Mandryk, & Baumann, 2020)。

この研究が直接調べたのは、ゲームの中断後に再開するためのボタンを押したかどうかです。行為志向が強い人なら、勉強や仕事などあらゆる場面ですぐ動けると証明したわけではありません。繰り返し経験することで反応が変わった点も、行動の始めやすさを固定的に捉えないための手がかりになります。

嫌な気分の調整にも、状況による違いがある

クーレとヨストマン(2004)は、三つの研究で、負担がかかる場面とそうでない場面を比べ、参加者の気分の報告や反応を調べました。負担がかかる場面では、行為志向が強い人に、嫌な気分を弱める方向の変化が見られました。負担の小さい場面や状態志向の人には、同じ変化は確認されませんでした(Koole & Jostmann, 2004)。

こうした結果は、失敗や迷いに注意を奪われたときの気持ちの整え方が、行動に向かう過程に関わる可能性を示します。ただし、この研究で直接測ったのは気分や課題中の反応であり、長期間の行動の継続まで確かめたものではありません。

身近な場面で考える:書類の提出準備が進まないとき

たとえば、ある人が週末までに申請書類をそろえるつもりだとします。以前に記入漏れで書類を返された経験があり、今回も「また失敗するかもしれない」と気になって、机の前に座っても準備を始められません。

この場面では、提出したいという目標がないわけではありません。前の失敗への考えが続き、次に何をするかへ注意を向けにくくなっていると捉えることができます。そこで「まず申請に必要な書類を一枚確認する」と、次の作業を具体的にすることは、行動に注意を戻すための一つの方法として考えられます。

これは理論の理解を助ける仮の例であり、この方法によって必ず着手できると確認した研究結果ではありません。場合によっては提出方法が分からない、必要な書類が手元にないなど、実際の条件が障害になっていることもあります。

行為コントロール理論が教えてくれるのは、行動できない理由をやる気の有無だけで判断せず、今どんな考えに注意が向き、どのような条件なら次の行動へ移りやすいのかを考えるという視点です。

参考文献・出典