認知的完結欲求の理論とは?曖昧な状態を終わらせて結論を求める心理

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

初めて会った人の態度を見て、「この人は厳しそうだ」と早く判断したくなることがあります。まだ相手のことをよく知らなくても、曖昧なままにしておくより、はっきりした見方を持ちたくなるのはなぜでしょうか。

認知的完結欲求の理論は、はっきりしない状態を終わらせ、何らかの確かな答えや判断を得たいという気持ちが、情報の集め方や受け止め方に関わると考えます。早く結論を出そうとするだけでなく、いったん出した結論を保とうとすることにも注目した理論です。

認知的完結欲求の理論とは?はっきりした答えを求める気持ち

「認知的完結欲求」とは、ある問題について「まだ分からない」「どちらとも言えない」という状態から抜け出して、はっきりした答えを持ちたいという気持ちのことです。心理学者のクルーグランスキーとウェブスターは、1996年にこの考え方を整理しました。本人によって強さが異なるだけでなく、置かれた状況によっても変わり得るとしています(Kruglanski & Webster, 1996)。

ここで「完結」と呼ぶのは、問題の答えが客観的に正しいと証明された状態とは限りません。本人が「これが答えだ」と思い、判断が定まった状態も含みます。この理論は、次の二つの動きから、判断の過程を説明します。

早く結論を得ようとする

答えが分からない状態を長引かせたくないとき、人はその時点で得られる情報を手がかりに、できるだけ早く判断しようとすることがあります。たとえば初対面の相手が不愛想に見えると、「冷たい人なのだろう」と考えがまとまりやすくなるかもしれません。

いったん得た結論を保とうとする

結論を持った後は、それを変えると再び迷うことになります。そのため、後から別の情報が入ってきても、すでに持っている見方を維持しようとする場合があります。最初に「冷たい人」と思った相手が親切な行動をしても、それを例外として受け止め、印象を見直しにくくなるという考え方です。

この二つは「早く決めること」と「決めた考えを変えたくないこと」という別の動きです。どちらも認知的完結欲求が判断に影響する仕組みとして提案されています(Kruglanski & Webster, 1996)。

人による違いと、そのときの状況の違い

ウェブスターとクルーグランスキー(1994)は、認知的完結欲求の強さを質問への回答から調べる方法を作りました。予定や物事の順序がはっきりしていることを好むか、先の見通しを求めるか、曖昧な状態が苦手かなど、いくつかの側面を調べています。研究では、このような回答から、人による傾向の違いを捉えようとしました(Webster & Kruglanski, 1994)。

一方、同じ人でも、時間が限られているときと、落ち着いて考えられるときでは、答えを急ぐ気持ちが違う場合があります。認知的完結欲求を、変わらない性格だけで説明しないことが大切です。

また、すぐに決断できる能力があることと、早く答えを確定させたいと思うことは別です。ローツとファン・ヒール(2007)は、従来の質問項目の一部が、早く結論を得たい「気持ち」よりも、素早く決められる「能力」を捉えている可能性を検討しました。質問を作り直した研究では、早く答えを得たい気持ちを尋ねる項目のほうが、目の前の情報から結論をつかむ傾向を捉えやすい結果が得られました(Roets & Van Hiel, 2007)。

研究で分かっていること

時間に追われると、最初の情報の影響が強まった

ヒートンとクルーグランスキー(1991)は、58人を対象に、就職希望者が仕事で成功するかどうかを予測する課題を行いました。参加者には時間に追われる条件と、時間の圧迫が小さい条件で判断してもらい、先に示された情報が予測にどのくらい影響するかを比べました。

その結果、時間に追われる条件では、先に示された情報に頼る傾向が全体として強まりました。また、内向的な参加者が外向的な参加者より先の情報を重視するという差は、時間の圧迫が強い条件で見られ、圧迫が小さい条件では見られませんでした(Heaton & Kruglanski, 1991)。

ただし、これは限られた時間で人物について予測してもらう実験です。急いでいる人は必ず最初の情報だけで判断する、という結果ではありません。

いつも最初の情報が重視されるわけではない

リヒターとクルーグランスキー(1998)は、これとは異なる順序で情報を示す実験を行いました。参加者は、まず内容を理解するつもりである人物についての情報を読み、その後になって、その人物の印象を判断するよう求められました。時間制限を設ける条件と、判断の正確さを重視するよう求める条件を比べています。

その結果、このような場面では、時間に追われることで、後のほうに示された情報が印象に強く影響するという結果が見られました。これは、判断するときにすぐ思い浮かぶ情報が、早い結論を作る手がかりになるという説明に合っています(Richter & Kruglanski, 1998)。

つまり、認知的完結欲求によって重視される情報が、必ず「最初に見た情報」になるわけではありません。判断を求められたタイミングや、そのとき利用しやすい情報によって変わると考えられます。

なお、時間制限そのものも、注意を向けたり課題を進めたりする余裕を減らす可能性があります。ローツら(2008)は、時間の圧迫などを利用して完結欲求を変えようとする実験では、課題に使える力への影響も生じ得ることを指摘しました。時間に追われたときの変化を、完結欲求だけが原因だと決めつけることはできません(Roets et al., 2008)。

身近な場面で考える:初めて会った先生の印象

たとえば、ある保護者が、子どもの習い事の体験レッスンで初めて先生と話すとします。最初に先生が厳しい口調で注意しているのを見て、「怖い先生かもしれない」と感じました。その日のうちに入会を決めたいと思っているため、できるだけ早く先生の人柄を判断したくなっています。

その後、先生が子どもの質問に丁寧に答えている場面を見ても、最初の印象を強く持ち続けるかもしれません。この仮の例では、早く結論を得たい気持ちと、いったん作った印象を維持する動きが、判断に関わる可能性を示しています。

もちろん、実際に先生が厳しい人かどうかは、この場面だけでは分かりません。最初の印象が強く残る理由も、完結欲求だけとは限りません。時間が取れるなら、異なる場面での様子も確認してから判断するという方法が考えられます。これは研究で特定の人への効果が保証された方法ではなく、理論を踏まえた日常での考え方です。

認知的完結欲求の理論は、結論を出したい気持ちそのものを悪いものとみなすのではなく、「早く答えを得たい今の状況」が、どの情報を重視し、その後の判断をどれくらい見直すかに関係すると考える手がかりになります。

参考文献・出典