達成目標理論とは?上達を目指す場合と評価を目指す場合で学び方はどう変わるか
同じ英会話の授業でも、「前より話せるようになりたい」と考える人もいれば、「周りより上手だと認められたい」と考える人もいます。どちらも一生懸命練習しようとしていますが、学び方には違いがあるのでしょうか。
達成目標理論は、人が学習や課題に取り組むとき、何を「できた」と考えるかが、努力の向け方や学び方に関わるという心理学の理論です。上達や理解を目指す場合は内容を深く学ぶ傾向が見られます。一方、他人との比較や評価を意識する目標にも、努力や成績との関係があります。どちらか一方だけが必ず良い結果を生むという話ではありません。
達成目標理論とは?「何を達成したいか」に注目する考え方
この理論でいう「目標」は、「毎日30分勉強する」といった時間の目安だけではありません。自分の力を何によって確かめたいのか、何を成功と感じるのかという、取り組む目的に注目します。
熟達目標:理解したい、前よりできるようになりたい
熟達目標とは、課題を理解したり、自分の知識や技術を伸ばしたりすることを目指す目標です。たとえば英会話で「昨日は言えなかった表現を今日は使えるようになりたい」と考える場合、上達の基準は学習内容や以前の自分にあります。どれほど他人に褒められるかとは別に、できることが増えたかを大切にしています。
遂行目標:他人よりできることを示したい、評価されたい
遂行目標とは、他の人よりうまくできることや、自分の能力が高いと認められることを重視する目標です。同じ英会話でも「ほかの受講者より高い評価を得たい」「上手に話せる人だと思われたい」という場合が当てはまります。何を達成したかを、周囲の人との比較や、他人にどう見えるかで確かめようとしています。
この二つの区別は達成目標理論の基本となる考え方です。一人の人が上達と評価の両方を目指すこともあり、学ぶ場面によって何を重視するかが変わることもあります(Elliot & McGregor, 2001)。
「成功したい」と「失敗を避けたい」でも目標は変わる
研究ではさらに、目標に向かって成功を得ようとする場合と、望ましくない結果を避けようとする場合を区別します。ElliotとMcGregor(2001)は、上達か評価かという違いに、この違いを組み合わせた四つの目標を示し、大学生らを対象とする三つの研究でそれぞれの特徴を調べました。
- 熟達接近目標:「新しい表現を使えるようになりたい」。理解や上達という望ましい状態を目指します。
- 熟達回避目標:「前に覚えた表現を忘れたくない」。身につけた力が失われたり、自分の基準を満たせなかったりすることを避けようとします。
- 遂行接近目標:「クラスのほかの人より上手に話したい」。他人との比較で良い結果を得ることを目指します。
- 遂行回避目標:「下手だと思われたくない」。他人と比べて劣っていると判断されることを避けようとします。
たとえば同じ発音練習をしていても、新しい音を身につけたいのか、間違えて恥をかきたくないのかでは、練習に向ける意識が異なります。この四つは人の性格を固定的に分類するためのものではなく、取り組む目的を理解するための分け方です(Elliot & McGregor, 2001)。
研究で分かっていること:学び方と成績はどう関係するか
大学生の学習方法を調べた研究
Elliot、McGregor、Gable(1999)は、ほかの学生との比較によっても成績が評価される大学の授業を対象に、二つの研究を行いました。学生がどのような目標を持つか、普段どのように勉強しているかを尋ね、試験成績との関係も調べています。
その結果、理解や上達を目指す目標が強い学生ほど、内容の意味やつながりを考えて勉強し、粘り強く取り組んだり努力したりする傾向がありました。一方、他人より良い結果を得たいという目標は、覚えることを中心にした学習方法だけでなく、努力や試験成績とも正の関係がありました。反対に、他人よりできないと思われることを避けたいという目標は、学習の進め方がまとまりにくいことや、低い試験成績と関係していました(Elliot, McGregor, & Gable, 1999)。
この研究が示したのは、目標と学習方法・成績との関連です。上達を目指すように考え直すだけで、その人の勉強法や点数が必ず変わると証明したものではありません。
目標の向きを変えた実験をまとめた研究
Noordzij、Giel、van Mierlo(2021)は、研究参加者に異なる目標を示して課題に取り組んでもらうなどした、90件の実験をまとめました。参加者は合計11,247人です。
全体として、課題を理解し上達することを目指すよう促された人たちは、他人より良い成績を目指すよう促された人たちや、特に目標を示されなかった人たちなどと比べ、課題の成績が良い傾向にありました。ただし、意欲については、上達を目指す目標がほかの目標より一貫して高い結果になったわけではありません。研究では、本人が答えた意欲に加えて、自由に取り組めるときに課題を続けたかどうかも調べています。
また、上達を目指す目標と、他人より良い成績を目指す目標を比べた分析では、実験室での課題に成績の差が見られた一方、学校・スポーツ・仕事の場面では明確な差が確認されませんでした。目標の示し方によっても結果が異なるため、研究全体で見られた傾向を、どの場面にもそのまま当てはめることはできません(Noordzij, Giel, & van Mierlo, 2021)。
「評価されたい」目標は一種類ではない
Hullemanら(2010)は、目標を質問紙で調べた243件の研究をまとめました。その中で、「他人より良い成績を取りたい」と「能力が高い人に見られたい」では、成績との関係が異なりました。前者を中心に尋ねた研究では成績との間に小さな正の関係があり、後者を中心に尋ねた研究では小さな負の関係がありました。同じ「評価を目指す」ように見える目標でも、何を重視しているかを確かめることが大切です(Hulleman et al., 2010)。
さらに、Bardachら(2020)は、学校の学習環境について生徒がどう感じているかと、生徒自身の目標との関係を68件の研究で調べました。自分の周囲が上達や比較のどちらを重視する環境だと感じるかは、それに対応する本人の目標と特に強く関係していました。ただし、これは関係を調べた研究であり、環境を変えるだけで目標が変わると確かめたものではありません(Bardach et al., 2020)。
身近な場面で考える:英会話の練習で指摘されたとき
たとえば、英会話教室で先生から発音の間違いを指摘されたとします。上達を目指している人なら「どの音が違ったのか、もう一度聞いて練習しよう」と考えるかもしれません。ほかの受講者に下手だと思われたくない気持ちが強い人なら、「次に間違えたら恥ずかしいから、発言を控えよう」と考えることもあるでしょう。
これは理論を理解するための仮の例で、誰もが必ずそのように反応するという意味ではありません。他人より上手になりたいという気持ちが練習の励みになる人もいます。実際の行動には、先生の伝え方、本人の経験、課題の難しさなども関わります。
自分の学習を振り返るときは、「他人からどう見えるか」に加えて、「この練習で何ができるようになりたいか」を考えると、何を目指して取り組んでいるのかが明確になります。達成目標理論は、同じ勉強や練習でも、人によって成功の基準が違い、その違いが学び方と関わることを理解する手がかりになります。
参考文献・出典
- Elliot, A. J., & McGregor, H. A. (2001). A 2 × 2 Achievement Goal Framework. Journal of Personality and Social Psychology, 80(3), 501–519. — 熟達・遂行と、成功を目指す・失敗を避ける違いによる四つの目標。
- Elliot, A. J., McGregor, H. A., & Gable, S. (1999). Achievement Goals, Study Strategies, and Exam Performance: A Mediational Analysis. Journal of Educational Psychology, 91(3), 549–563. — 大学生の目標、自己申告による学習方法、試験成績との関連。
- Noordzij, G., Giel, L., & van Mierlo, H. (2021). A meta-analysis of induced achievement goals: the moderating effects of goal standard and goal framing. Social Psychology of Education, 24, 195–245. — 目標を提示した90件の実験と、課題成績・意欲の比較。場面による結果の違い。
- Hulleman, C. S., Schrager, S. M., Bodmann, S. M., & Harackiewicz, J. M. (2010). A meta-analytic review of achievement goal measures: different labels for the same constructs or different constructs with similar labels? Psychological Bulletin, 136(3), 422–449. — 目標の尋ね方によって成績との関連が異なること。
- Bardach, L., Oczlon, S., Pietschnig, J., & Lüftenegger, M. (2020). Has Achievement Goal Theory Been Right? A Meta-Analysis of the Relation between Goal Structures and Personal Achievement Goals. Journal of Educational Psychology, 112(6), 1197–1220. — 生徒が認識する学習環境と、自身の達成目標との関連。