思いやりの減衰とは?助けを必要とする人数が増えると感情はどう変わるか
助けを必要としている子どもが一人いると聞くと、その子のことを心配する人がいます。それでは、同じように困っている子どもが二人、八人と増えれば、心配する気持ちや支援したい金額も増えるのでしょうか。研究では、必ずしもそうならず、人数が増えたときに気持ちや寄付が減る場合も報告されています。
思いやりの減衰とは、助けを必要とする人の数が増えても、思いやりや援助がそれに応じて増えず、条件によっては弱まる現象です。相手の人数が増えると必ず冷たくなる、という意味ではありません。
思いやりの減衰とは?人数が増えても気持ちは比例しない
たとえば、一人の子どもに寄付する場合と、二人の子どもに寄付する場合を比べます。二人の方が支援を必要とする人数は多いものの、寄付を考える人の気持ちが一人のときの二倍になるとは限りません。ある実験では、二人に寄付する場合の方が、一人に寄付する場合より金額が少なくなりました。
研究でいう「思いやりの減衰」は、人数が増えるにつれて、支援することへの前向きな気持ちや寄付が小さくなることを扱います(Västfjällほか, 2014)。人数が増えても寄付額があまり変わらないという結果も関連しますが、増えないことと、実際に減ることは別の結果です。
ここでは、写真や名前で支援対象を特定できるかどうかより、同じように紹介された人が一人なのか、複数人なのかという違いに注目します。紹介される人数と、名前や顔が分かるかどうかを区別すると、この現象を理解しやすくなります。
なぜ人数が増えると、気持ちが弱くなる場合があるのか
一人の相手なら、その人の暮らしや困りごとを具体的に思い描きやすくなります。複数人を一度に紹介されると、一人ひとりに同じように注意を向けるのが難しくなることがあります。
また、寄付することで相手を助けられそうだと感じることや、支援をすることへの前向きな気持ちも判断に関係します。2014年の研究では、子どもの人数が多い条件で、支援することへの前向きな気持ちと寄付額がともに小さくなりました(Västfjällほか, 2014)。
別の説明も考えられています。大勢の人が困っていると知ると、強い感情に圧倒されることを避けようとして、あらかじめ気持ちを抑える場合があるというものです。キャメロンとペインは、後で寄付したい金額を尋ねられると知らされたかどうかや、感情を抑えるよう指示されたかどうかによって、一人と八人に向けた気持ちの差が変わることを報告しました(Cameron・Payne, 2011)。
このように、人数に対して気持ちが追いつかないことと、負担を避けようとして気持ちを抑えることの両方が説明として検討されています。どちらが関わるかは、示された状況によって異なる可能性があります。
研究で分かっていること
2014年:一人より二人への寄付が少なくなった
ヴェストフィヤルら(2014)は、スウェーデンの大学生208人に、生活に困っている子ども一人か、二人への支援を求める案内を示しました。どの条件でも、子どもの名前、写真、事情を伝えました。参加者は、寄付するとしたらいくら出したいか、支援することをどう感じるかを答えました。
寄付したい金額の平均は、一人を示された条件で37.7スウェーデン・クローナ、二人を示された条件で26.3クローナでした。支援することへの前向きな気持ちの評価も、一人の条件の方が高くなりました。この実験で尋ねたのは寄付したい金額であり、実際に払った額ではありません(Västfjällほか, 2014)。
研究者らは別の大学生168人にも、子ども一人または二人について説明しました。参加者は調査で受け取った70クローナから実際に寄付でき、平均寄付額は一人の条件で24.5クローナ、二人の条件で21.5クローナでした。ここでは、実際に寄付した金額にも同じ方向の差が見られました(Västfjällほか, 2014)。
2014年:同じ八人でも「一つの家族」と示すと違いが出た
同じ論文の別の実験では、大学生131人に、子ども一人、互いに関係のない二人・八人、家族として紹介された二人・八人のいずれかを示しました。参加者は、寄付したい金額と支援に対する気持ちを答えました。
互いに関係のない子ども八人を紹介された場合、寄付したい金額の平均は20.0クローナでした。一方、同じ人数の子どもを一枚の写真と「一つの家族」という説明で紹介した場合は、32.1クローナでした。二人の場合にも、別々の子どもとして紹介する場合より、家族として紹介する場合の方が金額は高くなりました。
この実験では、複数人を一つのまとまりとして捉えやすい示し方にすると寄付意向が変わりました。ただし、写真の見せ方と家族という説明を合わせて変えているため、どちらか一方だけの影響とは言えません。寄付額は実際に支払ったものではなく、参加者が答えた希望額です(Västfjällほか, 2014)。
2011年:寄付についての予告や気持ちの抑え方でも変わった
キャメロンとペイン(2011)は、大学生120人に、困っている子ども一人または八人を紹介しました。後で寄付したい金額も尋ねると伝えられた人と、気持ちだけを尋ねると伝えられた人とで、思いやりの評価を比較しました。分析では2人の回答が除かれています。
寄付希望額も尋ねると予告された人たちは、一人より八人に対して思いやりの評価が低い方向でしたが、この条件内の人数による差は、統計的には明確ではありませんでした。一方、気持ちだけを尋ねると伝えられた人たちは、一人より八人への思いやりが強く、二つの案内方法によって人数と気持ちの関係が異なりました(Cameron・Payne, 2011)。
別の実験では、一人または八人の子どもについて、感情を抑えながら見るように指示された人と、自然に気持ちを感じるように指示された人を比べました。感情を抑えるよう指示された人には、八人への感情が一人より弱くなる結果が見られましたが、自然に感じるよう指示された人には同じ結果が見られませんでした。人数と気持ちの関係は、寄付の予告や感情との向き合い方によっても変わり得るということです(Cameron・Payne, 2011)。
後の研究でも、人数が増えるほど援助は減るのか
2024年にモシェらは、人数の示し方と寄付意向を調べた研究を報告しました。このうち一つの実験では、オンライン参加者を対象に、支援を必要とする子どもが20人いる場合と200人いる場合を比較しました。分析には、事前の確認条件などを満たし、極端に大きい金額の回答を除いた1,979人の回答を使いました。
通常の質問では、200人に対する寄付希望額が20人より明確に高いとは言えませんでした。ただし、200人の方への寄付額が明確に低くなるという結果でもありません。一方、最初に一人または五人への寄付希望額を尋ねてから、20人または200人全体への金額を尋ねると、200人の方へ高い金額を示す回答が見られました(Mocheほか, 2024)。
この実験は、実際の寄付ではなく、仮の場面で寄付したい金額を尋ねたものです。研究者らも、この条件では思いやりの減衰を明確に確認できなかったと述べています。
2025年刊行のマイヤーの研究では、米国・英国・カナダ・オーストラリアの寄付募集サイトに掲載された28,646件の募集を分析しました。募集ページの写真に写る人が多いほど寄付総額が減る、という傾向は確認されず、写真に写る人数が12人以下の募集では、人数が多い方が寄付総額も多い傾向が見られました。ただし、写真に写る人数は実際に支援される人数とは限りません。また、実際の募集を比較した研究であり、人数の示し方が寄付を増やしたと断定できるわけではありません(Meier, 2025)。
このように、人数が増えるといつも援助が減るわけではありません。人数をどう示すか、複数の募集を比較できるか、何を先に尋ねるかによって結果が変わり得ると考える必要があります。
身近な場面で考える
たとえば、地域の子どもたちを支援する団体の案内を読んでいるとします。一人の子どもの事情を読むと、その子が必要としている食事や学用品を思い浮かべて、助けたいと感じるかもしれません。その後、同じように支援を必要とする子どもが何十人もいると知っても、気持ちが人数に比例して強くなるとは限りません。
これは研究参加者の実話ではなく、思いやりの減衰を理解するための仮の例です。気持ちの強さが増えなくても、支援する人数が多いことの重要性が小さくなるわけではありません。
寄付を考えるときには、紹介文から受けた印象に加え、支援を必要とする人数、寄付金で何が届けられるか、どれくらいの支えになるかを確かめることが考えられます。これは研究を踏まえた判断の工夫であり、こうすれば必ず寄付が増えたり、最善の判断ができたりすると確認された方法ではありません。
思いやりの減衰が示すのは、人の困りごとの大きさと、それを知ったときに自然に湧く気持ちは、いつも同じようには増えないという点です。その違いを知ることは、人数の多い支援課題を考える手がかりになります。
参考文献・出典
- Västfjäll, D., Slovic, P., Mayorga, M., & Peters, E. (2014). Compassion Fade: Affect and Charity Are Greatest for a Single Child in Need. PLOS ONE, 9(6), e100115. 一人・二人・八人への寄付、気持ちの評価と、家族として示した場合の違いを調べた実験。
- Cameron, C. D., & Payne, B. K. (2011). Escaping Affect: How Motivated Emotion Regulation Creates Insensitivity to Mass Suffering. Journal of Personality and Social Psychology, 100(1), 1–15. 寄付を求められる予想と、感情を抑える指示が複数人への思いやりに及ぼす影響を調べた研究。
- Moche, H., Karlsson, H., & Västfjäll, D. (2024). Victim Identifiability, Number of Victims, and Unit Asking in Charitable Giving. PLOS ONE, 19(3), e0300863. 20人と200人への寄付意向の違いや、先に少人数への寄付額を尋ねる方法を調べた研究。
- Meier, D. S. (2025). Compassion for All: Real-World Online Donations Contradict Compassion Fade. Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 54(2), 267–301. 寄付募集サイトの実際の募集データを使い、写真に写る人数と寄付総額の関係を調べた研究。