評価可能性仮説とは?単独で評価しやすい特徴が選択を左右する仕組み
商品を一つだけ見せられると、傷がないか、色が好きかといった特徴はすぐ判断できます。一方、性能を表す数字は、それだけでは良い水準なのか分からないことがあります。ところが二つの商品を並べると、その数字の差も判断材料になりやすくなります。
評価可能性仮説とは、ある特徴の良し悪しを単独で判断できるかどうかによって、同じ候補への値付けや評価が変わる場合がある、という考え方です。
評価可能性仮説とは?特徴の「良さを判断できるか」が大切
評価可能性仮説は、心理学者クリストファー・シーが1996年に提案した仮説です。ここでいう「評価可能性」とは、ある特徴について示された数値や状態が、どのくらい良いものなのかを判断できることを指します。
たとえば、中古の辞書の表紙が破れていれば、ほかの辞書を見なくても好ましくない状態だと分かります。しかし「収録項目数は1万」と書かれていても、それが十分に多いのか、少ないのかは、比較する目安がなければ判断しにくいでしょう。
一つの候補だけを評価するときには、こうした判断しにくい特徴よりも、傷の有無のように良し悪しが分かる特徴が重く扱われやすいと考えられます。複数の候補を並べると、それまで判断しにくかった数字にも比較の目安ができ、評価に反映されやすくなります(Hsee, 1996)。
とくに、一方の候補は単独で判断しにくい特徴で優れ、もう一方は判断しやすい特徴で優れている場合、評価の順位が逆転することがあります。後の研究のまとめでも、このような個別評価と同時評価の違いが検討されています(Hseeほか, 1999)。
研究で分かっていること
中古の辞書は、一冊だけ見るか、二冊並べるかで評価が変わった
シーの1996年の研究では、大学生116人が、中古の音楽辞書を買う場面を想像し、いくらまで払ってよいと思うかを答えました。辞書には次の二つの候補がありました。
- 辞書A:収録項目数は1万で、傷のない、ほぼ新品の状態。
- 辞書B:収録項目数は2万で、表紙が破れているが、それ以外はほぼ新品の状態。
二冊を同時に見た人は、平均すると辞書Aに19ドル、辞書Bに27ドルを付けました。一方、どちらか一冊だけを見た人たちの回答を比べると、辞書Aが24ドル、辞書Bが20ドルでした。
個別に見た二つのグループの金額差だけでは、はっきりした違いとまでは言えません。ただし、二冊を並べる場合と一冊ずつ見る場合で、AとBの評価の差が変わることは統計的に確認されました。収録項目数の価値は単独では分かりにくいものの、比較するとその差が評価に反映されたと解釈されています(Hsee, 1996)。
数値の目安を教えると、単独でも評価が変わった
同じ論文の別の実験では、大学生202人に、複数のCDを入れられる機器を評価してもらいました。一方は5枚入れられて音質を表す数値が良く、もう一方は20枚入れられるものの音質を表す数値が劣っていました。音のひずみが小さいほど音質が良いと説明されましたが、その数値だけでは、どれほど良いのかが分かりにくい状態でした。
数値の一般的な範囲を示さなかった条件では、一台だけを見た人たちは、入れられるCDの枚数が多い方に高い金額を付けました。しかし、音質を表す数値が一般的な製品の中でどの程度に位置するかを説明すると、一台ずつ見た人たちも音質の良い方に高い金額を付けました。二台を並べて見た場合には、どちらの説明条件でも音質の良い方への値付けが高くなりました。
この実験は、商品の特徴を変えなくても、数値を判断するための基準があるかどうかで評価が変わることを示しています(Hsee, 1996)。
アイスクリームの研究と、その後の再検証
シーは1998年に、量が7オンスで小さな容器から盛り上がって見えるアイスクリームと、量が8オンスで大きな容器に余裕があるアイスクリームを使った研究も報告しました。オンスは量を表す単位で、8オンスの方が実際の量は多くなります。一つだけ示された場合は、量の少ない方に高い値段が付きましたが、二つを並べた場合は、量の多い方に高い値段が付きました(Hsee, 1998)。
2023年には、ヴォナシュらが米国のオンライン参加者400人を対象に、このアイスクリームや食器セットなどの実験を調べ直しました。アイスクリームでは、極端に高い金額の回答を除いた集計で元の結果に沿う逆転が見られましたが、その回答を含めると、一つずつ示した場合の価格差は明確ではなくなりました。
食器セットでは、一つずつ評価すると、割れた食器を含まない少数のセットの方が高く評価される結果が再現されました。しかし、二つを並べた場合に、使える食器が多いセットの方へ高い値段が付くという差は明確に確認されませんでした(Vonaschほか, 2023)。
そのため、評価可能性仮説は、比較の仕方によって重視する特徴が変わり得ることを説明するものですが、どんな商品でも必ず評価が逆転すると結論づけることはできません。紹介した研究の多くは、実際の購入ではなく、示された場面を想像して値段を答える実験です。
身近な場面で考える
たとえば、通勤用の水筒を選んでいる人がいるとします。持ちやすそうな水筒Aには「保温時間6時間」と書かれています。この商品だけを見ると、その時間が長いのか短いのか分からず、形の持ちやすさを中心に評価するかもしれません。
その後、同じ測定条件で「保温時間12時間」と示された水筒Bを並べると、保温時間には2倍の違いがあると分かります。長く温かい飲み物を持ち歩きたい人なら、これまで分かりにくかった保温時間を重視してBを選ぶことも考えられます。これは仕組みを説明するための仮の例で、水筒について同じ結果が研究で確認されたわけではありません。
ただし、昼まで温かさが保てれば十分な人には、6時間でも必要な条件を満たすかもしれません。数字の差を見つけるだけでなく、その数字が自分の使い方にとってどんな意味を持つかが大切です。
商品やサービスを一つずつ判断するとき、意味の分かりにくい数値があれば、同じ条件で測られた別の候補や一般的な目安を確かめると、判断材料を増やせます。これは評価可能性仮説から考えられる工夫であり、必ず良い選択ができると保証された方法ではありません。
参考文献・出典
- Hsee, C. K. (1996). The Evaluability Hypothesis: An Explanation for Preference Reversals between Joint and Separate Evaluations of Alternatives. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 67(3), 247–257. 評価可能性仮説の説明と、中古辞書・CD機器を使った実験の根拠。
- Hsee, C. K. (1998). Less Is Better: When Low-Value Options Are Valued More Highly Than High-Value Options. Journal of Behavioral Decision Making, 11(2), 107–121. アイスクリームなどを個別・同時に評価した研究の根拠。
- Hsee, C. K., Loewenstein, G. F., Blount, S., & Bazerman, M. H. (1999). Preference Reversals between Joint and Separate Evaluations of Options: A Review and Theoretical Analysis. Psychological Bulletin, 125(5), 576–590. 個別評価と同時評価による違いを検討した研究のまとめ。
- Vonasch, A. J., Hung, W. Y., Leung, W. Y., Nguyen, A. T. B., Chan, S., Cheng, B. L., & Feldman, G. (2023). “Less Is Better” in Separate Evaluations Versus “More Is Better” in Joint Evaluations: Mostly Successful Close Replication and Extension of Hsee (1998). Collabra: Psychology, 9(1), 77859. アイスクリーム・食器セットなどの再検証と、元の結果と異なる部分の根拠。