区別バイアスとは?比較中に気になる差を実際の満足度でも大きいと思う心理
旅行先の宿を探していて、部屋の広さが25平方メートルと28平方メートルの二つの候補を見比べているとします。数字を並べると、広い方を選べばずっと快適に過ごせそうだと感じるかもしれません。しかし、実際にはどちらか一方に泊まるため、比べていたときほど広さの差を意識しないことも考えられます。区別バイアスとは、選択肢を比べる場面で目立つ違いが、実際に経験したときの満足度にも大きな差を生むと見積もりすぎることがある現象です。
区別バイアスとは?
区別バイアスは、心理学者のクリストファー・シーとジャオ・ジャンが2004年に提案した、将来の気持ちの予測や選択に関する考え方です。複数の候補を並べて評価するときには、それぞれの数字や特徴の違いが分かりやすくなります。一方、選んだ後には一つの候補だけを体験することが多く、比較した差が日々の満足に及ぼす影響は、予想より小さい場合があります(Hsee & Zhang, 2004)。
大切なのは、候補どうしの差が存在することと、その差が体験中の満足にどれだけ関わるかは別だという点です。比較中に「こちらの方が広い」「こちらは量が多い」とはっきり分かっても、その違いが生活や体験の中でいつも同じ強さで感じられるとは限りません。
比較すると、なぜ違いが大きく感じられるのか
たとえば、同じ商品が一つだけ示された場合には、その性能が自分にとって十分かどうかを考えます。しかし、性能の数字が少し異なる商品を隣に並べられると、「どちらが上か」という比較がしやすくなります。数字の優劣は明確でも、実際に使うとき、その差に気づいたり、差を喜んだりする頻度までは分かりません。
2004年の研究者らは、こうしたずれがとくに、どちらも良い結果で、量や程度だけが異なる場合に起こりやすいと考えました。反対に、何も得られない場合と得られる場合、楽しい経験とつらい経験のように、体験そのものの性質が大きく違う場合には、その差を一つずつ経験しても感じやすく、同じずれは生じにくいと予想しました(Hsee & Zhang, 2004)。
そのため、区別バイアスは「比べると必ず間違う」という意味ではありません。何が違うのか、その違いが一つの体験だけでも重要かどうかによって、予想の確かさは変わります。
研究では何が確かめられたのか
2004年:詩集の売れた冊数を想像する実験
シーとジャン(2004)は、米国の大学生249人に、自分で作った詩集が売れた場面を想像してもらいました。ある参加者は「0人、80人、160人、240人に売れた」という四つの状況を並べて見て、それぞれどれほどうれしいと思うかを答えました。別の参加者には、このうち一つの状況だけを見せて、同じ質問をしました。
四つを比べた人たちは、80人より160人、160人より240人に売れた方が、かなりうれしくなると予想しました。一方、一つの状況だけを見た人たちでは、80人・160人・240人の間に、うれしさの評価の明確な差は確認されませんでした。ただし、まったく売れない場合と80人に売れる場合の差は、一つだけを見た人たちにもはっきり表れました(Hsee & Zhang, 2004)。
この実験は、実際に詩集を売ったときの喜びを測ったものではありません。複数の状況を比べて想像する場合と、一つだけを示されて想像する場合とで、気持ちの評価がどう変わるかを調べた結果です。
2004年:実際に言葉を読むと、予想した差は生じるのか
別の実験には米国の大学生360人が参加しました。課題は、良い意味の言葉または嫌な意味の言葉を、10個か25個読むという四種類です。参加者は、四種類を並べて見て、それぞれを終えた後の気分を予想する人、一種類だけを実際に読んで気分を答える人、一種類だけを見て読んだ後の気分を予想する人に分かれました。
四種類を比較した人たちは、嫌な言葉を25個読む方が10個より不快で、良い言葉を25個読む方が10個より気分が良くなると予想しました。しかし、実際に一種類を読んだ人たちでは、同じ種類の言葉を10個読む場合と25個読む場合で、気分の評価に明確な差は見られませんでした。一方、良い言葉か嫌な言葉かという違いは、実際に読んだ後の気分にも表れました。
一種類だけを見て予想した人たちの回答は、実際に一種類を読んだ人たちの回答に近く、四種類を比較して予想した人たちの回答とは異なっていました。これは、気分を予想するか実際に体験するかだけでなく、複数の課題を並べて比べるかどうかも、気分の評価に関係することを示しています(Hsee & Zhang, 2004)。
2004年:報酬の量と体験の内容を組み合わせた実験
同じ論文には、中国の大学生243人を対象にした実験もあります。参加者は「過去の失敗を思い出して書きながら15グラムのチョコレートを食べる」か、「過去の成功を思い出して書きながら5グラムのチョコレートを食べる」という二つの組み合わせを扱いました。選ぶ人の予想や選択と、実際にその組み合わせを経験した人の気持ちが調べられました。
自分で選ぶ条件では、チョコレートの量が多い方を選ぶ人が過半数でした。しかし、体験後の気分は、少ないチョコレートでも成功を思い出す組み合わせの方が良い結果でした。この実験では、報酬の量の違いを重く見て選ぶことと、その組み合わせを経験したときの満足が一致しない場合が示されました(Hsee & Zhang, 2004)。
後の研究では、同じ結果が出ているのか
アンヴァリら(2021)は、オンラインで参加した824人を対象に、2004年の最初の二つの実験を調べ直しました。詩集が0人・80人・160人・240人に売れる状況を使った実験では、複数を比較した場合に冊数の差を大きく見積もるという元の結果が再現されました。一方、良い言葉・嫌な言葉を10個または25個扱う実験では、元の結果を一貫して再現できませんでした(Anvariほか, 2021)。
後者の再検証は、元の研究と同一の環境ではなく、オンラインで言葉をコピーして貼り付ける作業も含む方法でした。結果が異なった理由は確定していません。したがって、区別バイアスは研究で報告されている現象ですが、どの種類の比較でも同じ強さで起こるとは言えません。
関連する別の研究では、モアウェッジら(2010)が、チョコレートやイワシを食べた後にポテトチップスを食べると、どれほど楽しめるかを調べました。食べる前に想像した人たちは、直前に何を食べるかによってチップスの楽しさが大きく変わると予想しましたが、実際に食べた人たちでは、チップスの楽しさに明確な差は見られませんでした(Morewedgeほか, 2010)。この研究は区別バイアスを直接再検証したものではありませんが、比較から予想した気持ちの差が、実際の体験では小さい場合があることを別の課題で示しています。
身近な場面で考える
たとえば、旅行先で一泊する宿を選ぶ人が、広さ25平方メートルの部屋と28平方メートルの部屋を比べているとします。数値を並べると3平方メートルの差が気になり、広い方なら満足度もかなり高いと予想するかもしれません。しかし、実際に泊まるときには景色や静かさ、寝具の使い心地などにも注意が向き、部屋の広さの差を予想ほど気にしないことも考えられます。
この宿の例は、区別バイアスの仕組みを理解するための仮の場面です。紹介した研究では、実際の宿泊先を比較して満足度を測ったわけではありません。また、広さによって荷物を置けるか、同行者全員が快適に過ごせるかが変わる場合には、その差は重要です。
候補を選ぶときは、数字で比べた優劣に加え、一つだけを実際に使うとき、その違いをどのような場面で感じるかを具体的に考えることが役立つかもしれません。これは研究から考えられる判断の工夫であり、必ず満足度の高い選択ができると確かめられた方法ではありません。区別バイアスは、比較の中で目立つ差と、経験の中で大切な差を分けて考える手がかりになります。
参考文献・出典
- Hsee, C. K., & Zhang, J. (2004). Distinction Bias: Misprediction and Mischoice Due to Joint Evaluation. Journal of Personality and Social Psychology, 86(5), 680–695. 比較して予測するときと、一つを想像・経験するときの違いを、詩集・言葉・課題とチョコレートを用いて調べた原著論文。
- Anvari, F., Olsen, J., Hung, W. Y., & Feldman, G. (2021). Misprediction of affective outcomes due to different evaluation modes: Replication and extension of two distinction bias experiments by Hsee and Zhang (2004). Journal of Experimental Social Psychology, 92, 104052. 原著の二つの実験をオンラインで再検証し、再現された結果と再現されなかった結果を報告した研究。
- Morewedge, C. K., Gilbert, D. T., Myrseth, K. O. R., Kassam, K. S., & Wilson, T. D. (2010). Consuming experience: Why affective forecasters overestimate comparative value. Journal of Experimental Social Psychology, 46(6), 986–992. 食べる前の楽しさの予想と、実際に食べたときの評価を比較した関連研究。