特定可能な被害者効果とは?具体的な一人の話が援助の気持ちに与える影響

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

困っている人を支援する呼びかけを見たとき、支援が必要な人の人数だけを示す説明より、一人の名前や写真、置かれている状況を知った方が、助けたい気持ちが強まることがあります。

特定可能な被害者効果とは、援助を必要とする相手が「この人」と分かる形で示されると、相手が特定されていない場合より援助したい気持ちや寄付が増えることがある現象です。ただし、後の研究では同じ差が確認されない場合もあり、いつでも起こる効果ではありません。

特定可能な被害者効果とは?

ここでいう「特定可能」とは、助ける相手を一人の具体的な人として捉えられることです。名前、写真、年齢や事情が示される場合があります。これに対して、援助を必要とする人々が人数や割合だけで表されると、一人ひとりの暮らしを想像しにくいことがあります。

研究では、写真などの詳しい情報がなくても、援助を受ける人がすでに決まっているか、これから選ばれるかという違いだけで寄付額が変わるかも調べられています。つまり、この効果は単に写真が目立つという話だけではありません(Small・Loewenstein, 2003)。

ただし、特定された一人と、名前が分からない大勢を比べたときには、相手が特定されているかだけでなく、支援する人数の違いも含まれます。両者を区別することが、研究結果を理解するうえで大切です。

なぜ、一人の話が援助の気持ちに関わるのか

特定の人について知ると、どんな生活をしていて、何に困っているのかを想像しやすくなります。その人を助けられたときの様子も思い浮かぶため、心配や思いやりが強まる可能性があります。

コグートとリトフの研究では、援助対象が一人のとき、名前や写真などを示された人は、それらが示されなかった人より寄付したいと答える金額が高く、心配や動揺も強く報告しました。これは実際の寄付額ではなく、寄付したいと考える金額を尋ねた実験の結果です(Kogut・Ritov, 2005)。

ただし、相手を心配する気持ちが強くなっても、寄付したい金額が必ず増えるわけではありません。2024年の研究では、相手を特定できる情報によって感情の反応が変わっても、仮の場面で寄付したいと回答する金額には同じ違いが見られませんでした(Mocheほか, 2024)。

研究で分かっていること

2003年:援助先が決まっているだけで寄付が増えた

スモールとローウェンスタインは、住宅の建築を支援する慈善団体への寄付を調べました。寄付の案内には、候補となる四つの家族の家族構成や暮らしの事情が書かれていました。そのうえで、援助を受ける家族が「候補の中からすでに選ばれている」か「これから選ばれる」かを伝えました。どちらの案内でも家族の名前や写真は示されず、実際にどの家族が援助を受けるかは知らされませんでした。

参加者は、調査に協力して受け取った5ドルの中から、希望する金額を実際に寄付できました。援助先がまだ決まっていない116人の平均寄付額は2.33ドル、すでに決まっている118人では2.93ドルでした。寄付をした人の割合も、前者が56.9%、後者が69.5%でした。

候補の家族について同じ説明を読んでも、援助先がすでに決まっていると知らされた人の方が、平均寄付額も寄付する人の割合も高かったという実験結果です(Small・Loewenstein, 2003)。

2005年:一人と八人で、人物情報の影響が異なった

コグートとリトフは、大学生112人に、重い病気の子ども一人、または八人を助ける場面を想像してもらいました。子どもの名前や写真などが示される場合と示されない場合を設け、寄付したい金額と、話を読んだときの気持ちを尋ねました。

対象が一人の場合は、名前や写真などが示された子どもの方に、示されなかった子どもより高い金額を寄付したいと回答し、心配や動揺も強く報告しました。一方、八人の場合は、一人ひとりを特定できる情報を示しても、寄付したい金額に同じような増加は見られませんでした。

同じ論文の別の実験では、大学生78人に実際に寄付する機会を設け、特定された一人の子どもを支援する場合と、特定された八人を支援する場合を比べました。この実験でも一人への寄付額が多くなりました。ただし、ここでは「特定されない一人」との比較は行っていません(Kogut・Ritov, 2005)。

この結果は、「名前や顔を知れば人数にかかわらず寄付が増える」という単純な説明には当てはまらないことを示しています。

2007年:一人を紹介する場合と、人数で説明する場合

スモールらは121人を対象とした実験で、貧困に苦しむ一人の少女について紹介する寄付の案内と、食料不足に苦しむ人々について数字で説明する案内を比べました。参加者は調査の謝礼として5ドルを受け取り、その中から実際に寄付できました。

事前にこの心理効果について説明されなかった人たちでは、一人の少女を紹介された場合の平均寄付額は2.83ドル、人数などで説明された場合は1.17ドルでした。一方、寄付する前にこの偏りについて説明を受けた人たちでは、少女への平均寄付額は1.36ドル、人数などで説明された場合は1.26ドルでした。

この実験では、偏りを意識させた結果、大勢の人への寄付が増えたのではなく、特定された一人への寄付が減ったことが報告されました(Smallほか, 2007)。

その後の研究では、どこまで確かめられているのか

リーとフィーリーは2016年に、関連する41の研究結果をまとめました。全体では、被害者を特定できることによる援助の増加が統計的に示されましたが、その差は小さいものでした。とくに一人を対象にした場合など、条件による違いも報告されています(Lee・Feeley, 2016)。

その後、マジュムダーら(2024)は、2005年の「一人か八人か、相手を特定できるか」という実験を調べ直しました。米国のオンライン参加者2,003人が調査を終え、そのうち事前に定めた条件を満たす1,835人の回答を分析しました。しかし、元の研究で見られた、特定された一人への寄付意向が高まるという結果は確認できませんでした。この再検証では、実際にお金を寄付した額ではなく、寄付したい金額を尋ねています(Majumderほか, 2024)。

また、モシェら(2024)は、合わせて7,996人を対象とした五つの研究を行いました。相手を特定できるかどうかで心配などの気持ちには違いが見られましたが、仮の場面で「いくら寄付したいか」と回答する金額には、対応する違いが確認されませんでした。この研究で調べたのは実際に寄付した金額ではありません(Mocheほか, 2024)。

このように、初期の実験では効果が見られた一方、後の研究では確認されない場合もあります。特定された一人の話が援助の判断に関わる可能性はありますが、その効果がどの程度安定して現れるかには議論が残っています。

身近な場面で考える

たとえば、ある支援団体の活動紹介を読む場面を考えます。一方の紹介文には、助けを必要とする子ども一人の名前と暮らしの事情が書かれています。もう一方には、同じ地域で支援を必要とする子どもの人数と、団体全体の活動内容が書かれています。

読む人は、一人の子どもの様子を想像し、そちらに寄付したいと感じるかもしれません。ただし、これは仕組みを考えるための仮の例です。また、二つの紹介文では相手を特定できるかだけでなく、取り上げる人数や内容も異なるため、気持ちの違いを一つの原因だけに結び付けることはできません。

寄付先を選ぶときは、目の前の人への思いやりを大切にしながら、支援を必要とする人数、実際に何が届けられるのか、寄付金がどう使われるのかにも目を向けると、紹介文から受けた印象と、支援の内容を分けて考えられます。これは研究結果を踏まえた判断の工夫であり、必ず最適な寄付先が選べると確かめられた方法ではありません。

特定可能な被害者効果は、人を助けたいという気持ちが、必要性の数字だけでなく、相手をどれほど具体的に思い描けるかにも関わり得ることを考える手がかりになります。

参考文献・出典