比率バイアスとは?割合よりも分子の大きさに引かれる確率判断
二つの箱から一つを選んで、くじを1枚だけ引けるとします。箱Aには10枚中1枚、箱Bには100枚中7枚の当たりがあります。「7枚も当たりがあるなら、箱Bの方が当たりそう」と感じるかもしれません。しかし、当たる確率は箱Aが10%、箱Bが7%で、実際には箱Aの方が高くなります。
比率バイアスとは、こうした確率を判断するとき、全体の数に対する当たりの割合よりも、当たりの個数の大きさに引かれてしまうことがある心理的な偏りです。
比率バイアスとは?当たりの個数と割合の違い
確率を「当たりの数/全体の数」で表すと、上側の当たりの数を分子、下側の全体の数を分母と呼びます。比率バイアスでは、分母の違いを十分に考えず、分子の大きさが判断に強く影響する場合があります。
たとえば「1枚/10枚」と「10枚/100枚」は、どちらも当たる確率が10%です。後者の方が当たり券は多くても、外れ券を含めた総数も増えているため、1枚だけ無作為に引いたときの当たりやすさは同じです。
この偏りを説明する一つの考え方は、「当たりがたくさんある」という見た目の印象と、割合を計算した結果が食い違うというものです。計算上は不利だと理解していても、当たりの数が多い箱の方を選びたくなる人がいます(Denes-Raj・Epstein, 1994)。
ただし、比率バイアスは、数字の大きい方を誰もが必ず選ぶという規則ではありません。どのような確率を示すか、何を質問するかによって、回答の傾向が変わります。
研究で分かっていること
1994年:当たる割合が低い大きな容器を選ぶ人がいた
デネス=ラージとエプスタインは、赤いゼリービーンズを引くと1ドルを得られる課題で、参加者がどちらの容器を選ぶかを調べました。小さな容器には10個中1個の赤い豆が入っており、これと、赤い豆がより多く入った100個入りの容器を比較しました。
小さな容器で赤い豆を引く確率は10%です。一方、大きな容器では赤い豆が9個なら9%、7個なら7%と、赤い豆の数が多くても確率は低くなります。
この1994年の研究について、後の論文がまとめた結果では、「1個/10個」と「9個/100個」の比較で61%、「1個/10個」と「7個/100個」の比較で40%が、大きな容器を選びました。参加者の中には、確率は小さな容器の方が高いと知りながら、大きな容器の方が当たりそうに感じたと答える人もいました(Denes-Raj・Epstein, 1994;Daleほか, 2007)。
この結果は、確率の大小を知っていることと、実際にどちらを選ぶかが一致しない場合を示しています。
1995年:確率が同じでも数字の表し方で印象が変わった
デネス=ラージらは、確率が「1回/20回」と示された場合と、「10回/200回」と示された場合などを用いて、出来事がどのくらい起こりそうに感じられるかを調べました。どちらも確率は5%です。
この論文で報告された三つの実験では、割合が同じでも、大きな数で表された出来事の方が起こりやすく感じられる傾向が確認されました(Denes-Rajほか, 1995)。これは、一方の当選確率が本当に低い場合だけでなく、等しい確率を異なる数字で書いた場合にも判断が変わり得ることを示す研究です。
2007年:逆方向の間違いと比べても差が見られた
デールら(2007)は、大学生などの参加者に、画面上の10個入りの容器と100個入りの容器から一つを選び、赤い玉を1個引く課題を繰り返してもらいました。参加者は各回に容器を選び、全部で300回の選択に取り組みました。
この研究では、小さな容器の方が当たりやすい場合と、大きな容器の方が当たりやすい場合の両方が設けられました。正しく有利な容器を選んだ割合は、小さな容器が有利な場合は平均59.0%、大きな容器が有利な場合は75.5%でした。
つまり、当たりの個数が多い大きな容器を選ぶ方向の間違いが、その逆の間違いより起こりやすかったのです。単なる選び間違いだけでは説明しにくい偏りが、この条件で見られました(Daleほか, 2007)。
その後の研究:質問の仕方や確率の水準も関係する
パッセリーニら(2012)は、比率バイアスを調べる問題の文章や回答方法を検討しました。たとえば、10個中1個と100個中10個のように、当たる確率が同じ二つの容器を示した場合、どちらか一方を選ぶように求めるだけでなく、「どちらも同じ」と答えられるようにすると、大きな容器に偏る回答が大きく減る実験がありました。問題の聞き方も、結果に関わることが分かります(Passeriniほか, 2012)。
さらに、ブルダンら(2022)は、低い確率だけでなく、中程度や高い確率のくじも含めて検討しました。その結果、大きな数で示された選択肢がいつも過大評価されるわけではなく、確率の水準によって偏りの方向も変わることが報告されています(Bourdinほか, 2022)。
初期の研究で見られた現象は重要ですが、その起こり方を「分子が大きいほど必ず選ばれる」と一般化することはできません。
身近な場面で考える
たとえば、商店街で二種類の抽選箱が用意され、どちらかを一つ選んで券を1枚引けるとします。これは比率バイアスを理解するための仮の例です。
- 抽選箱A:20枚中2枚が当たり。確率は10%。
- 抽選箱B:100枚中9枚が当たり。確率は9%。
「Bには当たり券が9枚もある」と考えると、Aの2枚より魅力的に見えるかもしれません。しかし、同じ賞品を狙って1枚だけ引くなら、当たる確率が高いのはAです。判断に必要なのは当たり券の枚数だけではなく、外れ券も含めた総数との割合です。
このような抽選では、全体を同じ100枚にそろえて比較すると違いが分かりやすくなります。Aは100枚中10枚が当たる計算、Bは100枚中9枚が当たる計算です。こうして比べれば、分子の数字の印象から離れて確率を確認できます。
ただし、賞品の内容や参加費が異なる場合は、当たる確率だけで得か損かを決めることはできません。また、抽選の例を見て割合に直すという工夫自体が、すべての場面で判断ミスを防ぐと実証されたわけではありません。
比率バイアスが教えてくれるのは、確率を考えるときには「当たりが何個あるか」と「全体のうち何割が当たりか」を分けて見る必要があるということです。
参考文献・出典
- Denes-Raj, V., & Epstein, S. (1994). Conflict between intuitive and rational processing: When people behave against their better judgment. Journal of Personality and Social Psychology, 66(5), 819–829. 赤いゼリービーンズを使った選択実験と、確率の理解と直感的な選択が一致しない場合の根拠。
- Denes-Raj, V., Epstein, S., & Cole, J. (1995). The Generality of the Ratio-Bias Phenomenon. Personality and Social Psychology Bulletin, 21(10), 1083–1092. 同じ確率を異なる大きさの数字で示したときの判断を調べた三つの実験の根拠。
- Dale, D., Rudski, J., Schwarz, A., & Smith, E. (2007). Innumeracy and incentives: A ratio bias experiment. Judgment and Decision Making, 2(4), 243–250. 1994年の研究結果の数値の確認、および小さな容器と大きな容器がそれぞれ有利になる条件を比較した実験の根拠。
- Passerini, G., Macchi, L., & Bagassi, M. (2012). A methodological approach to ratio bias. Judgment and Decision Making, 7(5), 602–617. 問題文や「どちらも同じ」と答える選択肢によって結果が変わることを調べた実験の根拠。
- Bourdin, D., Engin, A., & Vetschera, R. (2022). Is there more than one ratio bias? If so, why? Journal of Behavioral Decision Making, 35(3), e2263. 確率の水準による偏りの方向や、判断の誤りの種類を比較した研究の根拠。