反応的逆評価とは?対立する相手の提案を低く評価してしまう心理

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

意見が対立している相手から、こちらの要望にも配慮した提案が出されたとします。内容だけを見れば悪くないはずなのに、「あの人が提案するなら、何か相手に都合のよい理由があるのでは」と疑いたくなることがあります。

反応的逆評価とは、同じ内容の提案であっても、対立する相手から出されたと知ることで、その提案を低く評価しやすくなる現象です。提案した人や集団への見方が、提案そのものの受け止め方に影響します。

反応的逆評価とは?内容が同じでも提案者で評価が変わる

反応的逆評価を考えるうえで重要なのは、提案の内容が同じなのに、誰が提案したと伝えられるかで評価が変わるという点です。対立相手を信用していない場合、譲歩しているように見える案でも「本当は相手の利益が大きいのでは」と考えることがあります。

研究者のロスとスティリンジャーは、1991年に発表した論考で、こうした相手の提案への低い評価を、対立や交渉が解決しにくくなる心理的な障害の一つとして論じました(Ross・Stillinger, 1991)。

ただし、相手を疑うことがすべて思い込みとは限りません。実際の交渉では、提案者がどんな事情や情報を持っているかも判断に役立ちます。反応的逆評価の研究で明らかにしようとしているのは、そうした実際の違いとは別に、提案者の名前を知ること自体が評価を動かす場合があるという問題です。

研究で分かっていること

2002年:同じ和平案でも、どちらの側が提案したかで評価が違った

マオズら(2002)は、イスラエルとパレスチナの対立を題材に、和平案の提案者が評価に与える影響を三つの研究で調べました。

最初の研究では、もともとイスラエル側が作った和平案を使いました。イスラエル系ユダヤ人の参加者は、その案がパレスチナ側の提案だと伝えられた場合、自国政府の提案だと伝えられた場合より、案を低く評価しました。案の内容ではなく、提案したとされる側の違いによって評価が変わったのです。

別の研究では、もともとパレスチナ側が作った案を使い、イスラエル系ユダヤ人とイスラエル系アラブ人を対象に調べました。どちらの集団でも、案が自分たちと対立する側の提案だとされると評価が低くなる傾向が報告されました。ただし、集団内での政治的立場によって、評価の仕方には違いもありました(Maozほか, 2002)。

これらの研究は政治的な対立を背景に行われたものです。すべての人間関係で同じ強さの効果が出ることまで示しているわけではありません。

2004年:対面交渉では、役割によって結果が異なった

カーハンら(2004)は、学生と学費の貸し付けを担当する職員の役割に分かれた参加者に、学生ローンの条件を対面で交渉してもらいました。交渉の前後で提案をどう評価するかを調べたところ、自分が提示した案や最終的に受け入れた案を以前より好む傾向がありました。

一方、相手から受け取った提案を低く評価する傾向は、貸し付け担当者の役割では確認されましたが、学生の役割では確認されませんでした。また、交渉前に各案を評価するか、最初の提案を交換する前に短く話し合うかといった条件も、評価や合意の成立に関わりました(Curhanほか, 2004)。

この研究は、実際に案を出し合う過程で評価が変わることを調べたものです。同じ文章に提案者の名前だけを付け替える実験とは条件が異なりますが、反応的逆評価が交渉の役割によっても変わり得ることを示しています。

2023年:提案者が違うだけで、自分たちへの有利さの評価が変わった

グラントら(2023)は、ヘブライ語を母語とし、英語も使えるイスラエル系ユダヤ人を対象に、同じ和平案をイスラエル側またはパレスチナ側の代表団から出された案として読んでもらいました。言語もヘブライ語と英語に分けていました。

分析対象となった307人に、案が自国に有利か、自国にとって公平か、その案に賛成できるかを、それぞれ9段階で尋ねました。三つの回答をまとめた得点の平均は、イスラエル側の提案とされた場合で5.78点、パレスチナ側の提案とされた場合で5.09点でした。同じ内容でも、対立する側の提案とされると、自分たちに不利なものとして受け止められやすかったという結果です(Grantほか, 2023)。

この研究の主な目的は、提案を示す言語の違いを調べることでした。参加者もイスラエル系ユダヤ人全体を代表する構成ではなく、研究者らは学歴や政治的立場などに偏りがあると注意しています。

2026年:対立する当事者以外の仲介者でも、提案の評価が変わった

イルーズら(2026)は、イスラエル系ユダヤ人901人を対象に、同じ内容の地域和平案を、アメリカのトランプ大統領が示した案、またはサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が示した案として評価してもらいました。参加者には、どちらか一方の提案者が示されました。

その結果、同じ合意案でも、トランプ大統領の案と伝えられた場合の方が支持が高くなりました。また、イスラエル国内の右派の立場に強く偏ったニュースを避けていると答えた人では、避けていない人より提案者による支持の差が小さくなりました(Illouzほか, 2026)。

これは、対立する当事者本人ではなく第三者の仲介者が誰かによる影響を調べた研究です。右派の立場に強く偏ったニュースを避ける傾向との関係も調べていますが、ニュースへの接し方そのものを研究者が変えた実験ではありません。そのため、そうしたニュースを避ければ提案の評価の偏りが減ると結論づけることはできません。

なぜ、相手の提案を不利だと感じるのか

対立が続いていると、相手は自分たちに有利な案を出すはずだと予想しがちです。そのため、こちらにも利益がある条件が含まれていても、「相手が得をする部分を見落としているのかもしれない」と解釈することがあります。

2002年の研究では、提案の条件をどう読み取るかという違いも調べられました。また、2023年の研究では、案を自分たちに有利と見るか、相手側に有利と見るかが、提案者によって変わりました。つまり、提案者への印象は、単に賛成・反対という結論だけでなく、案に書かれた条件が誰の利益になると思うかにも関わります(Maozほか, 2002;Grantほか, 2023)。

ただし、これらの研究だけで、相手の意図を疑うことが唯一の原因だと確定したわけではありません。対立の深さや、提案する人を普段どれほど信頼しているかなども、判断の背景になります。

身近な場面で考える

たとえば、マンションの住民二人が共用スペースの利用時間について意見を対立させているとします。住民Aは、利用時間を夜9時までとしたいと考えています。住民Bは夜10時までを希望していましたが、「平日は9時まで、週末だけ10時まで」と提案しました。

Aは、管理組合から同じ案を示されたら、双方の希望を少しずつ取り入れた案だと感じるかもしれません。しかし、意見の合わないBの案と知ると、「週末に10時まで使いたいBに都合がよいだけだ」と思い、内容を厳しく評価することも考えられます。

これは研究参加者の実話ではなく、仕組みを理解するための仮の例です。Aが反対したとしても、実際には騒音などの具体的な理由があるかもしれません。個別の意見の違いを、この効果だけで説明することはできません。

提案を判断するときには、誰が出した案かを一度脇に置いて、利用時間や負担などの条件を見比べると、提案の内容への評価と、提案者への気持ちを区別しやすくなります。これは研究を踏まえた考え方で、必ず合意できると確かめられた方法ではありません。

参考文献・出典