自己調整の制御理論とは?目標と現状のずれを確かめながら行動を変える仕組み

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

「今週は3回練習しよう」と決めても、週の途中で振り返ると、まだ1回しかできていないことがあります。そこで、残りの日程を確かめて練習する時間を変えると、目標に向けて取り組み直せます。こうした行動の調整は、どのように説明できるのでしょうか。

自己調整の制御理論は、自分が目指す状態と今の状態を比べ、そのずれを手がかりに行動を変え、結果を再び確かめるという過程から、人の行動を理解する考え方です。目標を決める瞬間だけでなく、取り組んでいる途中に何を見て、どう修正するかに注目します。

自己調整の制御理論とは?目標と今の状態を比べる考え方

「自己調整」とは、自分が目指すことに合わせて行動を整え直すことです。心理学者のカーヴァーとシャイアーは、1982年の論文で、目標となる状態と実際に感じ取った状態との違いを小さくするように行動が調整されるという考え方を、人の行動の説明に用いました(Carver & Scheier, 1982)。

たとえば、車を運転している人が、道路の曲がり具合を見てハンドルを少し切る場面を考えてみましょう。運転者には「道路に沿って走る」という目指す状態があり、車が今どこを走っているかを見ながら操作を変えます。操作後も道路と車の位置を見て、必要ならまた調整します。これは論文の中で、目標と現状の比較を説明するために挙げられた例です。

人が勉強や練習を続ける場合も、同じように「こうなりたい」という基準と「今はここまでできている」という情報を比べると考えられます。ただし、これは行動を理解するための理論上の説明であり、人がいつも意識的に数字を比べたり、必ず目標に近づいたりするという意味ではありません。

目標と現状のずれは、どう行動の変更につながるのか

この理論の基本的な流れは、次のように表せます。

  1. 目指す状態を持つ:何を、どの程度できるようになりたいかという基準がある。
  2. 今の状態を知る:すでに何をしたか、どの程度進んでいるかという情報を得る。
  3. 二つを比べる:目標に届いているか、どのくらいの差があるかを確かめる。
  4. 必要に応じて行動を変える:方法や時間の使い方などを調整し、その後の状態をもう一度確かめる。

大切なのは、四つ目で終わりではないことです。行動を変えると状況が変わり、次に確かめる現状も変わります。「比べる→調整する→もう一度比べる」という循環が続く点が、この理論の中心です(Carver & Scheier, 1982)。

また、状況は本人の行動だけで変わるわけではありません。急な予定や周囲の協力など、外から生じる変化もあります。そのため、思うように進まないときには、単に努力を増やすのではなく、現在の条件を確かめて方法や目標そのものを見直すことも考えられます。

研究では何が確かめられているのか

進み具合を確かめるよう促すと、目標達成は変わるのか

ハーキンら(2016)は、目標に向けた進み具合を確認するよう促す働きかけについて、138件の実験研究をまとめました。参加者は合計19,951人です。研究では、進捗を確認するよう促された人たちと、比較対象となる人たちが、どのくらい進捗を確認し、目標を達成したかを調べています。

その結果、進捗確認を促された人たちは、平均すると進捗を確認する回数が増え、目標の達成度も高くなっていました。確認した内容を記録に残した研究や、結果を他の人に知らせた研究では、目標達成への影響が比較的大きい傾向も見られました。ただし、研究ごとに扱う目標や条件は異なり、記録や報告をすれば誰でも同じように達成できると示した結果ではありません(Harkin et al., 2016)。

この研究が直接調べたのは、進捗確認を促す働きかけが目標達成を後押しするかという点です。自己調整の制御理論で考えられているすべての過程を、実験で一度に確かめたわけではありません。

結果を伝えれば、必ず行動がよくなるわけではない

クルーガーとデニシ(1996)は、課題に取り組む本人へ、他の人が出来具合に関する情報を伝える働きかけの研究をまとめました。607件の比較結果を分析したところ、全体の平均では成績が改善する方向の結果が見られましたが、3分の1を超える比較では、逆に成績が下がる方向の結果が見られました。また、伝えられた情報によって注意が課題の取り組み方から離れ、自分自身への評価などに向かうほど、成績への良い影響が弱まる傾向が示されました(Kluger & DeNisi, 1996)。

こちらは、本人が自分で進み具合を確かめる研究とは、調べた働きかけが異なります。結果を知らせることだけで成果が必ず上がるわけではないと考えるうえで参考になります。日常の振り返りでは、結果を見て終わるのではなく、次に何を調整できるかを考えるという使い方ができます。

身近な場面で考える:ピアノの練習を続けたいとき

たとえば、ある人が「週に3回、1回15分ずつピアノを練習する」と決めたとします。木曜日の夜に練習記録を見返すと、月曜日に1回練習しただけでした。

目標の週3回と今までの1回を比べると、日曜日までにあと2回練習する必要があると分かります。その人は平日の夜は家事で時間を取りにくいと気づき、土曜日と日曜日の午前に練習時間を移すことにしました。そして週末に練習できたかを、もう一度記録で確かめます。

これは理論を理解するための仮の例です。ここでのポイントは、記録を付けること自体よりも、目標と今の状態を比べて、時間の使い方を変え、その結果を確かめ直すことにあります。週末も練習が難しければ、どこに無理があるのかを考え、練習する時間帯や目標の回数を見直すという選択もできます。

自己調整の制御理論は、「意思が強いか弱いか」だけで継続を判断するのではなく、何を目指し、どんな情報を手がかりに、どのように行動を調整しているかを考える視点を与えてくれます。

参考文献・出典