目標遮蔽とは?一つの目標に集中すると競合する目標が意識されにくくなる心理
試験勉強をしているとき、普段なら気になる部屋の片づけや旅行の計画が、あまり頭に浮かばなくなることがあります。どちらも自分にとって大切なことなのに、一つの目標に向かうとほかの目標はどうなるのでしょうか。
目標遮蔽(もくひょうしゃへい)とは、達成したい目標を強く意識すると、別の目標が頭に浮かびにくくなるという心理的な働きです。今取り組むことに集中する助けになると考えられていますが、すべての目標が同じように意識されなくなるわけではありません。
目標遮蔽とは?別の目標が思い浮かびにくくなる仕組み
私たちは一度にいくつもの目標を持っています。たとえば、試験に合格したい、部屋を片づけたい、友人との旅行を計画したいといった目標です。どれも達成したいことであっても、同じ時間に全部へ注意を向けるのは難しいでしょう。
目標遮蔽は、そのとき優先している目標が強く意識されると、競合する別の目標を思い出したり、考えたりしにくくなるという考え方です。心理学者のシャー、フリードマン、クルーグランスキーが2002年の研究で詳しく調べました(Shah, Friedman, & Kruglanski, 2002)。
ここでいう「遮蔽」は、ほかの目標を頭から消してしまうことではありません。たとえば「旅行を計画したい」という目標自体は残っていても、試験勉強を強く意識している間は、旅行についての考えが浮かびにくくなる、という違いです。意識して「旅行について考えないようにしよう」と決めなくても、このような変化が起こり得ると説明されています。
また、別の目標が今の目標を助ける場合は、抑えられにくいことも重要です。試験勉強をしている人にとって、遊びの計画は勉強と時間を取り合うかもしれません。一方、試験に備えて睡眠時間を確保することは、勉強を続ける助けになる場合があります。どんな関係にある目標なのかによって、目標遮蔽の現れ方が違うと考えられます(Shah et al., 2002)。
研究で分かっていること
一つの目標を意識すると、別の目標への反応が変わる
シャーら(2002)は、目標遮蔽について六つの研究を行いました。参加者が大切にしている目標を意識したとき、別の目標をどれほど挙げられるか、別の目標に関係する言葉にどれほど素早く反応するかなどを調べています。
その結果、中心となる目標を意識すると、ほかの目標が思い浮かびにくくなる方向の結果が複数の研究で見られました。中心の目標を達成したいという思いの強さなどによって、抑えられ方に違いもありました。また、別の目標が中心の目標と同じ大きな目的を満たす場合には抑制が強く、中心の目標の達成に役立つ場合には抑制が弱まるという結果も示されています(Shah et al., 2002)。
この研究で確かめられたのは、目標が思い浮かぶ数や、関連する言葉への反応などです。ほかの大切な用事を実生活で忘れたかどうかまで、これらの結果だけで判断することはできません。
大学生に目標を意識してもらった国内の研究
外山(2017)は、大学生を対象に二つの研究を行いました。最初の研究では164人に学業達成の目標を意識してもらい、その目標をどれほど重要だと思うかを尋ねました。次の研究では196人を二つの条件に分け、一方には「強く達成したい目標」、もう一方には「できれば達成したい目標」を書いてもらいました。
いずれの研究でも、その後に「今、したいと思っていること」を思いつく限り書いてもらいました。その結果、物事はうまくいくだろうと考える傾向が強い人ほど、重要な目標を意識した際に、別の目標を思い浮かべることが抑えられやすいことが示されました(外山, 2017)。
ここでは、どれだけ別の目標を挙げたかを調べています。前向きに考えれば誰でも集中できるという意味でも、日常の行動が実際に変わったことを直接示す結果でもありません。
強く達成したい目標ほど、別の目標が少なくなるのか
金と竹橋(2022)の研究では、女性の大学生138人に、15の候補から一つの目標を選んでもらいました。参加者は「強く達成したい目標」を選ぶ条件と、「達成したい気持ちが比較的弱い目標」を選ぶ条件に分けられました。その後、別に取り組みたい目標を選び、それらをどれほど実行したいかを答えました。
その結果、強く達成したい目標を選んだ条件では、別に挙げる目標の数が少なく、それらに取り組もうとする気持ちも弱いという違いが見られました。また、中心の目標を難しいと感じるほど、ほかの目標の数や取り組みたい気持ちが少ないという関連も見られました(Kim & Takehashi, 2022)。
この結果は、目標への思いの強さと、別の目標の意識されやすさとの関係を理解する手がかりになります。ただし、対象は女性の大学生に限られ、別の目標について調べたのも回答上の選択と意思です。実際にほかの活動をやめたかどうかを調べたものではありません。
ほかの目標があることは、必ず邪魔になるのか
目標同士の関係も重要です。シャーとクルーグランスキー(2002)は四つの研究で、別の目標が思い浮かびやすいことと、中心の目標への取り組みとの関係を調べました。中心の目標と関係のない別の目標は取り組みに向ける力を分散させる一方、中心の目標を助ける別の目標は取り組みを支える方向に働くことが示されました(Shah & Kruglanski, 2002)。
つまり、ほかの目標をすべて考えなくなることが、集中の条件ではありません。今の目標と競合しているのか、それとも達成を助けるのかを考える必要があります。目標遮蔽は、何かに集中すると必ず視野が狭くなるという決まりではなく、目標への思いの強さや、目標同士の関係によって変わる傾向として理解できます。
身近な場面で考える:試験勉強とほかの予定
たとえば、資格試験を来月に控えた人が、日曜日の午前中は問題集を進めようと考えたとします。その人には、旅行の計画を立てたい、部屋を整理したいという別の目標もあります。
試験への思いが強いときには、問題集を解いている間、旅行や片づけのことが普段より浮かびにくくなるかもしれません。これが目標遮蔽の考え方に沿った例です。一方、勉強のために必要な資料を整理することや、休息の時間を確保することは、今の目標を助けるものとして意識に残る可能性があります。
これは研究に登場した人物の体験談ではなく、仕組みを理解するための仮の場面です。旅行の計画が浮かばない理由は、単に時間がない、疲れているなど、ほかにも考えられます。
大事な予定をいくつも持っているときには、集中している間は別の予定を思い出しにくくなることもあると考え、取り組みが一区切りついたところで予定を確かめる方法が考えられます。これは研究で効果が保証された方法ではなく、目標遮蔽という考え方から得られる日常への提案です。
参考文献・出典
- Shah, J. Y., Friedman, R., & Kruglanski, A. W. (2002). Forgetting all else: On the antecedents and consequences of goal shielding. Journal of Personality and Social Psychology, 83(6), 1261–1280. — 六つの研究で調べた目標遮蔽の基本的な働き、目標への思いの強さ、別の目標との関係。
- 外山 美樹 (2017). 楽観性が代替的な目標の抑制に及ぼす影響. 教育心理学研究, 65(1), 1–11. — 大学生を対象に、重要な目標を意識した後に思い浮かぶ別の目標の数を調べた二つの研究。
- Kim, M., & Takehashi, H. (2022). Effects of the commitment and difficulty of a focal goal on the suppression of alternative goals. Journal of Human Environmental Studies, 20(2), 81–86. — 女性の大学生138人を対象に、中心目標への思いの強さと、別の目標の数・取り組む意思を調べた研究。
- Shah, J. Y., & Kruglanski, A. W. (2002). Priming against your will: How accessible alternatives affect goal pursuit. Journal of Experimental Social Psychology, 38(4), 368–383. — 別の目標が中心の目標を妨げるか助けるかによって、取り組みとの関係が違うことを調べた四つの研究。