基本的価値理論とは?シュワルツが示した価値観どうしの関係

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

「新しいことに挑戦したい。でも、今の生活の安定も守りたい」。一つの選択で、どちらも大切だと感じることがあります。また、自分は挑戦を選びたいのに、家族は安心できる道を勧めることもあるでしょう。

基本的価値理論は、人が大切にする目標をいくつかの種類に分け、それぞれの価値観が互いに両立しやすいか、ぶつかりやすいかを説明する考え方です。何を大切にするかは人によって異なりますが、価値観どうしの関係には共通した特徴があると考えます。

基本的価値理論とは?価値観を互いの関係から捉える

心理学者のシュワルツは、価値観を、生活のさまざまな場面で「自分にとって何が大切か」を判断する手がかりとなる目標として捉えました。たとえば「自由に選びたい」「安全を守りたい」「人の役に立ちたい」は、それぞれ特定の一回の行動だけでなく、進路や仕事、人間関係などの判断にも関わる考え方です(Schwartz, 2012)。

この理論の要点は、価値観を一つずつ切り離して考えないことです。人は複数の目標を大切にしており、何かを選ぶときには、その中でどの価値をより優先するかが関わります。「自由」と「安全」のどちらも大切な人でも、ある場面では自由を、別の場面では安全を優先することがあります。

基本となる10種類の価値観

シュワルツの基本的価値理論では、大切にする目標を次の10種類に整理します(Schwartz, 2012)。

  • 自己決定:自分で考え、目標や行動を選ぶこと。
  • 刺激:新しい経験や変化、挑戦を求めること。
  • 快楽:楽しさや心地よさを味わうこと。
  • 達成:社会で認められる基準に沿って力を示し、成功すること。
  • 権力:地位や影響力を持ち、人や資源を動かせること。
  • 安全:自分や身近な人、社会の安全と安定を保つこと。
  • 同調:他人を困らせたり、周囲の期待に反したりしないように行動を抑えること。
  • 伝統:受け継がれてきた文化や習慣、考え方を尊重すること。
  • 博愛:家族や友人など、身近な人の幸せを守り、支えること。
  • 普遍主義:身近な人に限らず、人々の平等や公平さ、自然環境を大切にすること。

「博愛」と「普遍主義」は、どちらも人を大切にする価値観ですが、前者は普段から関わる身近な人、後者はより広い範囲の人々や自然に目を向けます。また、「達成」は、この理論では特に周囲で認められる基準に照らした成功を指します。

これは人を10の性格に分類する一覧ではありません。人によって違うのは、各価値観をどれほど大切にするか、その優先順位です。

価値観を円形に並べると、何が分かるのか

10種類の価値観は、円を描くように並べて説明されます。図の中で位置が近い価値観ほど目指すことが似ていて、同じ行動で両方を満たしやすく、遠い価値観ほど両立しにくいという考え方です(Schwartz, 2012)。

たとえば「自己決定」と「刺激」は近い関係にあります。自分で新しいことを選んで挑戦する行動は、どちらにもつながります。「同調」と「伝統」も近い関係です。「同調」は身近な人からの期待に応えようとすること、「伝統」は受け継がれた文化や習慣を大切にすることですが、どちらも自分のしたいことより、周囲の期待や慣習を優先する点で共通しています。

一方、価値観の間には、次のような対立する方向があります。

  • 変化を求めることと、安定を守ること:自分で選び、新しいことを試す「自己決定・刺激」と、秩序や慣習を守る「安全・同調・伝統」は、同じ場面で優先しようとすると迷いを生むことがあります。
  • 自分の成功を求めることと、人々の幸せを大切にすること:自分の成果や地位を重視する「達成・権力」と、身近な人や社会全体の幸せを重視する「博愛・普遍主義」は、時間や利益の配分を考える場面でぶつかることがあります。

「快楽」は、円形の図では「変化を求める方向」と「自分の利益や成功を重視する方向」の境目に位置づけられます。両方に関わるため、大きな方向のどちらか一方だけに分けることはできません。

価値観が対立するというのは、二つを同時に大切にしてはいけないという意味ではありません。ある日は新しいことに挑戦し、別の日には家族との時間を守るように、場面や時期を変えて複数の価値を追い求めることもできます。

研究で分かっていること

2004年:27か国のデータで価値観の構造を検証

シュワルツとベーンケ(2004)は、27か国の46集団、合わせて10,857人の回答を使い、10種類の価値観が区別できるか、それらの関係が理論の予想に合うかを調べました。結果は、10種類に分けることと、価値観どうしを円形に並べる考え方を支持しました。ただし、「同調」と「伝統」は特に近く、「伝統」を「同調」よりも円の外側に置く配置の方が、回答の関係によく合いました。この二つを別々の種類として扱うか、一つにまとめるかは、この研究の分析だけでは決めきれませんでした(Schwartz・Boehnke, 2004)。

また、シュワルツ(2012)は、複数の調査方法を用いた82か国の研究成果を整理し、価値観どうしの似た関係が幅広い文化で見られたとまとめています。一方、どの価値をどれほど重視するかは、個人によって大きく異なります(Schwartz, 2012)。

2012年:より細かな19種類でも関係を検証

シュワルツら(2012)は、10種類の分類をさらに細かくした19種類の価値観を提案し、10か国の15集団、6,059人の回答で検討しました。その結果、19種類を区別することと、価値観を関係の近さに沿って並べる考え方がおおむね支持されました。これは10種類の理論を取り消す研究ではなく、価値観どうしのつながりをより細かく説明する試みです(Schwartzほか, 2012)。

2003年:大切な価値と実際の行動の関係には違いがある

バルディとシュワルツ(2003)は、三つの研究で、価値観と、その価値を表す日常の行動との関係を調べました。「刺激」や「伝統」は対応する行動との関連が強い一方、「安全」「同調」「達成」「博愛」では関連が弱いという違いが見られました。研究者らは、周囲の決まりや期待が行動に影響するため、価値観だけでは行動を十分に説明できないと考えています(Bardi・Schwartz, 2003)。

身近な場面で考える:挑戦と安心のどちらを選ぶか

たとえば、卒業を控えた二人が、地元で働くか、遠方の会社に就職するかを話し合っているとします。一人は「知らない土地で新しい仕事に挑戦したい」と考え、もう一人は「家族の近くで落ち着いて暮らしたい」と考えています。

前者の考えには「刺激」や「自己決定」が、後者の考えには「安全」や「博愛」が関わっていると捉えられます。どちらも自分にとって大切なことを重視していますが、選択の際に優先する価値が異なるのです。

もっとも、就職先の選択には収入や家族の事情、仕事の条件も影響します。この例は価値観の違いを考えるための仮の場面であり、一回の選択だけで、その人の価値観を決めつけることはできません。

基本的価値理論を知ると、自分の迷いや人との意見の違いを「何を大切にしようとしているのか」という視点から考えられます。大事なのは、誰かの価値観を良い・悪いと判定することではなく、複数の大切な目標の間で、何を優先しようとしているのかを理解することです。

参考文献・出典