メンタル・コントラスティングとは?望む未来と現実の障害を比べることの効果

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

「外国語を話せるようになりたい」と思い、旅行先で会話している自分を想像すると、気持ちが明るくなるかもしれません。それでも、仕事の後は疲れて勉強を始められないことがあります。望む将来を思い描くだけでなく、今の自分を妨げているものまで考えると、目標への向き合い方は変わるのでしょうか。

メンタル・コントラスティングとは、実現したい未来を具体的に思い描いた後、その実現を妨げる現在の障害を考え、両者を結び付ける方法です。研究では、実現できそうだと感じる目標には取り組む気持ちを強め、難しいと感じる目標には取り組みを弱める傾向が報告されています。

メンタル・コントラスティングとは?未来と現実の障害を対比する

「メンタル」は心の中で考えること、「コントラスティング」は二つのものを対比することです。この方法では、最初に「どんな未来を実現したいか」を思い浮かべ、その次に「今の何がそれを妨げているか」を考えます。たとえば、試験に合格して喜ぶ自分を想像した後、勉強する時間にスマートフォンを見続けてしまう現在の習慣を思い浮かべます。

大切なのは、理想と現実を別々に並べるだけで終わらず、「この障害があるから、まだ望む未来に届いていない」と捉えることです。障害は「自分には才能がない」といった漠然とした決めつけではなく、始めるのを先延ばしにすることや必要な時間を確保できないことなど、目標との関係が分かる具体的な事情です。

エッティンゲンら(2001)は、望む未来を先に思い浮かべ、その実現を妨げる現在の状況について考える場合と、未来だけを思い描く場合、障害だけを考える場合などを比べました。障害を先に考えてから望む未来を思い描いたグループでは、実現の見込みに応じて取り組みが変わるという傾向は見られず、考える順番も関係することが示されています(Oettingenほか, 2001)。

なぜ望む未来と障害を結び付けると、目標への向き合い方が変わるのか

理論では、望む未来と今の障害を比べることで「実現するには現状を変える必要がある」と感じやすくなり、自分にはその障害を乗り越えられそうかという見込みが、目標に取り組むかどうかに強く関わると考えます(Oettingenほか, 2001)。

  • 実現できそうだと感じる場合:障害を越えれば望む未来に近づけると考え、取り組む意欲や努力が強まりやすくなります。
  • 実現が難しいと感じる場合:その目標に力を注ぐ気持ちが弱まり、ほかの目標へ向かう余地が生まれることがあります。

ここでいう「見込み」は、本人が考える実現の可能性です。実際に達成できる確率を正確に測ったものではありません。難しいと感じた目標を必ず諦めるべきだという意味でもありません。必要な条件を整えたり、目標の大きさを変えたりすれば、見込みが変わることもあるでしょう。

一方、良い未来だけを想像すると、まだ実現していなくても気持ちが満たされ、現状を変える必要性を意識しにくい場合があります。問題ばかり考えていても、何を実現したいのかが見えなければ、努力の向かう先が定まりません。メンタル・コントラスティングは、未来を楽しく想像することと現実の問題を考えることを、一つの目標のためにつなぐ点が特徴です。

研究で分かっていること

2001年:数学の上達について考えた学生の実験

エッティンゲンら(2001)は、対人関係や学習などを題材に四つの実験を行いました。そのうち一つでは、ドイツの職業学校に通う男子学生90人が、数学の力を伸ばした未来と、上達を妨げる現在の事情について考えました。未来と障害を対比するグループ、未来だけを詳しく思い描くグループ、障害だけを詳しく考えるグループに分けて比べています。

2週間後、教師は87人について、数学に取り組む粘り強さと学習の出来を評価しました。未来と障害を対比したグループでは、「数学が上達しそう」という本人の見込みと、教師が付けた努力や数学の出来の評価との結び付きが、未来だけを思い描いたグループより強く見られました。数学が上達しそうだと考えていた学生では、対比したグループの方が、ほかの2グループより教師の学習評価が高くなりました。一方、上達が難しいと考えていた学生では、対比したグループの方が努力の評価が低くなりました(Oettingenほか, 2001)。

ここでいう学習の出来は、2週間後に教師が付けた評価で、試験の点数そのものではありません。また、上達の見込みが高い学生の努力の評価については、ほかのグループとの差は明確ではありませんでした。研究の中心は、実現の見込みによって、目標への取り組み方が異なるという点にあります。

2019年:健康に関わる行動を調べた研究のまとめ

クロスとシェフィールド(2019)は、メンタル・コントラスティングを使って、運動や食生活など健康に関わる行動を変えようとした研究をまとめました。分析した参加者は合計1,528人で、4週間以内に測った結果では、全体として小さめの改善効果が報告されました(Cross・Sheffield, 2019)。

このまとめには、メンタル・コントラスティングだけの方法に加え、「もし障害に出会ったら、この行動をする」とあらかじめ決める計画を組み合わせた研究も含まれています。後者には、障害を考えることに加えて、行動を始める条件まで決めるという違いがあります。分析の結果をすべてメンタル・コントラスティング単独の効果として扱うことはできません。また、短期間の健康行動で得られた結果を、あらゆる目標にそのまま当てはめることもできません。

2025年:恋人間の対立では、問題の難しさで結果が異なった

ヨーンクら(2025)は、交際関係が1年以上あり、同居している人を対象に、恋人や配偶者との間で解決したい対立を一つ選んでもらい、解決した未来と、その妨げになる現在の自分の気持ちなどを考えるオンライン実験を2回行いました。比較対象は、解決した未来だけを思い描く方法などです。対立の解決状況は、実験前と2週間後に参加者本人の回答で調べました(Jöhnkほか, 2025)。

比較的関係に満足していた人たちを対象とした1回目の実験(274人)では、解決できそうだと感じられる対立について、未来と障害を対比したグループの方が、未来だけを思い描いたグループより2週間後の本人による解決状況の評価が改善しました。ただし、特に重要で深刻な問題では同じ結果が見られませんでした。比較的関係への満足度が低い人たちを対象とした2回目の実験(270人)では、重要な対立が頭に浮かぶ頻度などが比較対象より高くなりましたが、対立の解決状況には明確な改善が見られませんでした。また、この実験では、問題の解決に向けて考えていたのか、悩みを繰り返していたのかは区別されていません。

この違いからも、未来と障害を対比すれば、どんな問題でも解決できるわけではないことが分かります。目標の重要さや、本人がどれほど解決可能だと思っているか、問題そのものの難しさも関係します。

身近な場面で考える:絵を描く習慣をつくりたいとき

たとえば、趣味で絵を描いている人が、「週に何度か練習して、好きな風景を自分で描けるようになりたい」と考えたとします。その人はまず、描きたかった風景画が完成して、部屋に飾っている場面を具体的に想像します。

続いて、今は帰宅後に動画を見始め、気づくと夜遅くなっていることを思い浮かべます。この人にとって、望む未来は「絵が完成した状態」、現在の障害は「練習を始める前に動画を見る習慣」です。二つを結び付けると、練習を続けるには、この習慣を見直す必要があると気づくかもしれません。

今の生活でも練習の時間を確保できそうなら、絵の練習に取り組もうとする気持ちが強まる可能性があります。反対に、ほかの用事で時間を確保できそうにないなら、当面は練習回数を減らすなど、現実的な目標に考え直すこともできます。これは理論を説明するための仮の例であり、この手順だけで習慣が必ず身に付くという意味ではありません。

メンタル・コントラスティングの特徴は、望む未来を思い描いたうえで、そこに向かうのを妨げる現在の障害を見ることです。未来と現実を結び付けることで、目標に力を注ぐか、見直すかを考える助けになります。

参考文献・出典