ERG理論とは?生存・関係・成長の欲求はどう関わり合うのか
新しいことを学びたいと思っていても、生活費や将来の安心が気になったり、人と一緒に過ごす時間も大切にしたかったりします。人は、生活を守りたい気持ち、人とつながりたい気持ち、成長したい気持ちを、どんな関係で持っているのでしょうか。
ERG理論は、人の欲求を生存・関係・成長の三つに分け、それらが同時に存在し、満たされ具合によって重視する欲求が変わることもあると考える理論です。生活が十分に安定してから人間関係や成長を求め始める、という決まった順番を前提にしないところに特徴があります。
ERG理論とは?三つの欲求から行動への意欲を考える
ERG理論は、心理学者クレイトン・アルダーファーが提唱した考え方です。1969年の論文では、人が求めるものを三つの種類に整理し、それぞれがどの程度満たされているかと、どれほど強く求めているかの関係を調べました(Alderfer, 1969)。
ERGという名前は、それぞれの欲求を表す英語の頭文字から付いています。ここでは意味を「生存」「関係」「成長」として説明します。「生存」は「存在」と訳されることもあり、命を保つことだけでなく、暮らしを支える物や安全も含みます。
生存の欲求:生活に必要なものと安全を確保したい
食事や住まい、必要なお金、安心して暮らせる環境などを求める欲求です。たとえば、家賃を払えるか心配な人が、まず毎月の収入を安定させたいと考える場面が当てはまります。生活を支える具体的な条件が中心です。
関係の欲求:人とつながり、認め合いたい
家族や友人などと親しい関係を持ち、自分の考えや気持ちを伝え合い、相手から大切にされたいという欲求です。たとえば、地域の活動に参加する人が、作業の成果だけでなく、一緒に取り組む仲間との交流を楽しむ場合が考えられます。
成長の欲求:学び、できることを増やしたい
自分の力を伸ばし、難しいことに取り組み、可能性を広げたいという欲求です。たとえば、趣味の楽器で新しい曲を弾けるようになりたいと思う場合です。誰かと比べて優れていることだけでなく、自分が上達したと感じることも含みます。
これらの三つは、研究や教科書で欲求を整理するための区分です。一人の中に複数の欲求があることを考え、誰かを「生存を求める人」「成長を求める人」のどれか一つに決めつけるための分類にはしません(OpenStax, 2019)。
三つの欲求は、どのように関わり合うのか
ERG理論では、欲求が満たされたり、満たされなかったりすることで、何を大切に感じるかが動くと考えます。主な考え方は次の三つです。
- 複数の欲求が同時にある:生活の安心を求めながら、友人との交流や、自分の上達も望むことがあります。前の欲求が完全に満たされるまで、次の欲求が生まれないという決まりは置きません。
- ある欲求が満たされると、別の欲求が目立つことがある:生活の心配が小さくなれば、人との交流や学びに、より関心を向ける場合があります。成長への欲求は、上達によってさらに強まる場合もあると考えます。
- 望むことが実現しないと、別の欲求を重視する場合がある:成長したいと思っていても、何度挑戦しても機会が得られなければ、人との関係や生活の安定など、比較的満たしやすいものへ関心が向く場合があります。
三つ目の考え方は、欲求が満たされないことから生じる方向転換として説明されています。ただし、成長がうまくいかなければ誰もが生存の欲求へ戻る、という例外のない法則ではありません。もとの目標を引き続き大切にする人もいるでしょう。ERG理論は、関心の向きが変わる可能性を示す枠組みです(OpenStax, 2019)。
こうした点で、欲求の段階や順序を重視するマズローの欲求階層説とは説明の重点が異なります。ERG理論では、複数の欲求を同時に求めることや、満たされ具合によって関心が行き来することを明確に扱います。
研究では何が確かめられているのか
1969年:銀行員110人の回答から理論を比べた
アルダーファー(1969)は、銀行で異なる役職に就いている従業員110人に質問紙で回答してもらい、欲求の満たされ具合と、その欲求をどれほど強く望むかの関係を調べました。そして、ERG理論と、マズローの理論など、異なる説明から予想される関係を比較しました。
結果は、比較したほかの説明よりも、ERG理論を支持する方向でした(Alderfer, 1969)。ただし、この研究は銀行の従業員への質問調査です。全員の欲求が時間とともにどのように変化したかを直接観察した実験ではなく、あらゆる年代や生活場面で同じ動きが起こると示したものでもありません。
1977年:その後の研究では支持される部分が異なった
ワナスとズワニー(1977)は、欲求を生存・関係・成長の種類に整理できるか、また、ある欲求の満たされ具合が別の欲求の重要さとどう関係するかを、同じ時点で集めた調査データから検討しました(Wanous & Zwany, 1977)。
その研究を紹介したペンシルベニア州立大学の教材によると、欲求を種類に分ける説明は、成長については比較的よく当てはまる一方、生存では中程度、関係では弱い支持にとどまりました。また、一つの欲求が満たされると別の欲求の重要さが変わるという予想も、一部しか支持されませんでした(Pennsylvania State University, 発表年不明)。
つまり、三つに分けて考えることには役立つ面があっても、欲求が動く順序まで十分に確かめられているとはいえません。同じ時点の回答からは、ある欲求が満たされたことが原因となって、別の欲求が強くなったと断定できない点にも注意が必要です。
2026年:三つの欲求に沿った質問のまとまりを調べた
エルゲカら(2026)は、インドネシアで働く若い世代の751人に、仕事に関する欲求の満足度を尋ねる調査を行いました。回答を分析すると、生存に関わる「給与・福利厚生」、関係に関わる「上司・同僚」、そして「成長」という、五つの細かなまとまりが確認されました。これらはERG理論の三つの欲求に対応するものでした(Elgeka, Hidayat, & Pratono, 2026)。
この研究は、欲求について尋ねる質問がどのようなまとまりを持つか、その測り方が適切かを確かめたものです。生存・関係・成長が常に同時に強くなることや、成長を諦めるとほかの欲求が強まることを直接検証した研究ではありません。対象もインドネシアの若い従業員に限られています。
身近な場面で考える:習い事を続けたいとき
たとえば、ある人が週末に絵を習いたいと考えているとします。新しい描き方を覚えたいのは成長の欲求、教室で知り合った仲間と交流したいのは関係の欲求、毎月の生活費を考えて受講料を無理なく払いたいのは生存の欲求に関係します。
その人が忙しくなり、思うように絵の練習を進められなくなったとします。そうすると、技術を高めることよりも、教室の仲間と会う時間に楽しみを感じるようになるかもしれません。一方、絵を描くことへの関心が変わらず、練習の方法を探す人もいるでしょう。
これは理論を理解するための仮の例です。実際に何を選ぶかは、疲れ具合、費用、家族との予定などにも左右されます。ERG理論を使うと、その人が何を必要としているのか、何が満たされていて何が難しいのかを複数の面から考えられます。
参考文献・出典
- Alderfer, C. P. (1969). An empirical test of a new theory of human needs. Organizational Behavior and Human Performance, 4(2), 142–175. — 三つの欲求の提案と、銀行員110人への調査による比較検証。公開要旨で方法と結論を確認。
- OpenStax (2019). 7.2 Content Theories of Motivation. Organizational Behavior. — 三つの欲求の意味、欲求が同時に存在すること、満たされ具合による関心の変化についての解説。
- Wanous, J. P., & Zwany, A. (1977). A cross-sectional test of need hierarchy theory. Organizational Behavior and Human Performance, 18(1), 78–97. — 欲求の分類と、満足度・重要さの関係を同時点の調査から検討した研究。公開要旨の範囲で方法を確認。
- Pennsylvania State University (発表年不明). ERG: Research, Applications, Evaluation. — 1969年と1977年の研究の支持状況、理論の検証上の限界についての教材。
- Elgeka, H. W. S., Hidayat, R., & Pratono, A. H. (2026). Psychometric validation of the Existence, Relatedness, and Growth (ERG) scale for Indonesian generation Z employees. BMC Psychology, 14, Article 295. — 若い従業員751人を対象に質問項目のまとまりと測定方法を検討した研究。