快楽順応とは?生活の変化に伴う幸福感はどう移り変わるのか
念願の物を手に入れた直後はうれしかったのに、しばらくすると以前ほど特別に感じなくなることがあります。反対に、生活が変わって落ち込んだときも、時間がたつにつれて気持ちが変わる場合があります。こうした幸福感の変化は、なぜ起こるのでしょうか。
快楽順応とは、よい出来事やつらい出来事、生活環境の変化によって気持ちや生活への満足度が変わった後、その状況に慣れるにつれて、変化の影響が弱まることです。ただし、誰もが必ず以前と同じ幸福感に戻るわけではありません。出来事の種類や人によって、変化の大きさや続く期間が異なります。
快楽順応とは?幸福感が変化する仕組み
なぜ影響が弱まるのかを説明する考え方には、新しい状況への慣れと比べる基準の変化があります。たとえば、新しい暮らしの便利さが当初は目立っていても、毎日経験すると珍しさは薄れます。また、以前の暮らしと比べて喜んでいたことも、新しい暮らしが普段の状態になると、以前ほど目立たなくなるかもしれません。こうした説明は、快楽順応を理解するための考え方であり、すべての出来事で同じ順序が実験的に確認されたという意味ではありません(Brickmanほか, 1978)。
幸福感を調べる際には、その日の楽しい気持ちやつらい気持ちと、「今の生活全体にどれくらい満足しているか」という評価を分けて考える必要があります。同じ出来事の後でも、気分と生活への満足度が同じように動くとは限らないからです(Dienerほか, 2006)。
研究で分かっていること
宝くじの当選者と、当選していない人を比べた研究
ブリックマンらは1978年、高額の宝くじに当選した22人と、比較対象となる22人に、現在の幸福感や日常の楽しさを尋ねました。当選者と比較対象者の間で、現在の幸福感の回答に統計的にはっきりした差は見られませんでした。一方、「友人と話す」「朝食を食べる」など複数の活動から得られる楽しさをまとめた平均評価は、当選者のほうが低くなりました(Brickmanほか, 1978)。
研究者たちは、大きな幸運と普段の出来事を比べることや、新しい状況に慣れることが、この結果に関わる可能性を考えました。ただし、この調査は当選前から同じ人を追いかけたものではなく、調査した時点での比較です。「当選直後から何か月で幸福感が下がったか」や「当選したことが変化の原因だったか」は、この研究だけでは分かりません。
結婚などの生活の変化を長期間追った研究
ルーカスらは2003年、ドイツで15年間にわたって集められた2万4,000人を超える人々の調査データを使い、結婚など婚姻状態の変化と生活への満足度の関係を調べました。全体を平均すると、出来事によって満足度が変わった後、変化前の水準に近づく傾向が見られました(Lucasほか, 2003)。
しかし、一人ひとりを見ると違いがありました。出来事に対する最初の反応が大きかった人の中には、何年たっても以前の満足度に戻らない人がいました。平均値だけを見ると、こうした長く続く変化を見落とすことがあります。
さまざまな出来事をまとめて調べた研究
ルーマンらは2012年、188件の研究報告に含まれる計6万5,911人のデータをまとめ、結婚、出産、離婚、死別、失業、再就職などの後で、気分や生活への満足度がどう変わるかを比べました。結婚の後は、生活への満足度が一時的に高まった後、時間とともに低下する傾向がありました。一方、失業後は生活への満足度も気分も低下しました。その後、生活への満足度はゆっくり改善する傾向がありましたが、気分は失業前より低い水準で推移する傾向が見られました(Luhmannほか, 2012)。
この研究では、出来事による変化の仕方は、そのときの気分と生活全体への満足度で異なることも示されました。ただし、研究者たちは、以前の水準へ戻った時点をこの分析から確実に判断することは難しいと述べています。これらは複数の研究をまとめた傾向であり、一人ひとりの変化をそのまま予測できるわけではありません。
さらにディーナーら(2006)は、従来の「幸福感はいずれ必ず元の水準へ戻る」という説明を、研究に合わせて見直す必要があると指摘しています。人によって普段の幸福感の水準は異なり、出来事の後にその水準自体が変わる場合もあるからです(Dienerほか, 2006)。
身近な場面で考える
たとえば、長い間希望していた部屋に引っ越した人がいるとします。引っ越したばかりの頃は、明るい窓辺や使いやすい台所を見るたびに、うれしく感じます。ところが数か月たつと、その設備を特別な出来事として意識する機会が減ってくるかもしれません。
これは快楽順応を理解するための仮の例です。喜びが最初より小さくなったとしても、部屋の便利さが失われたわけではありません。また、引っ越し後の生活全体への満足度が元に戻るかどうかは、この例だけでは分かりません。一時的な喜びの強さと、暮らしのよさをどう評価するかは、分けて考えられます。
快楽順応は、幸福感が変わる理由の一つを考える手がかりです。よい変化の喜びが落ち着くことも、つらい出来事の影響が弱まることもありますが、変化の影響が長く残る場合もあります。誰かがいつまでに元気になるはずだと決めつけず、出来事の内容や本人の状況を含めて考えることが大切です。
参考文献・出典
- Brickman, P., Coates, D., & Janoff-Bulman, R. (1978). Lottery Winners and Accident Victims: Is Happiness Relative? Journal of Personality and Social Psychology, 36(8), 917–927. 宝くじ当選者と比較対象者の幸福感・日常の楽しみの違いと、慣れや比較に関する説明。
- Lucas, R. E., Clark, A. E., Georgellis, Y., & Diener, E. (2003). Reexamining adaptation and the set point model of happiness: Reactions to changes in marital status. Journal of Personality and Social Psychology, 84(3), 527–539. 婚姻状態の変化を追った長期調査と、満足度の戻り方の個人差。
- Luhmann, M., Hofmann, W., Eid, M., & Lucas, R. E. (2012). Subjective well-being and adaptation to life events: A meta-analysis. Journal of Personality and Social Psychology, 102(3), 592–615. 家庭・仕事の出来事ごとに、生活満足度と気分の変化を比べた研究のまとめ。
- Diener, E., Lucas, R. E., & Scollon, C. N. (2006). Beyond the hedonic treadmill: Revising the adaptation theory of well-being. American Psychologist, 61(4), 305–314. 快楽順応の従来の説明の見直しと、幸福感の変化に関する個人差。