インパクトバイアスとは?将来の感情の強さや長さを大きく見積もる心理
大切な試験に落ちたら、何週間も落ち込むだろう。応援するチームが優勝したら、ずっと幸せな気分でいられるだろう。出来事が起きる前には、その後の気持ちをこのように想像することがあります。しかし、実際には、予想したほど強い気持ちが続かない場合があります。
インパクトバイアスとは、将来の出来事によって生じる喜びや落ち込みについて、実際に経験するよりも感情が強くなる、または長く続くと予想しやすい傾向です。よい出来事にも悪い出来事にも見られますが、すべての予想が大きく外れるわけではありません。
インパクトバイアスとは?予想と実際の気持ちのずれ
私たちは何かが起こる前に、「そのとき、どんな気分になるだろう」「何日くらいその気持ちが続くだろう」と考えます。インパクトバイアスは、この出来事が起こる前の予想と、出来事の後で実際に経験した気持ちの間に生じる偏りです(Wilson & Gilbert, 2005)。
この偏りには、二つの形があります。一つは、試験に落ちた後の落ち込みや、よい知らせを聞いた後の喜びが、実際よりずっと強いと予想すること。もう一つは、その気持ちが薄れるまでに、実際より長い時間がかかると予想することです。予想した感情の強さと、続く長さは、分けて考える必要があります。
また、試験に落ちたら悲しい、合格したらうれしい、という気持ちの方向は正しく予想できることがあります。インパクトバイアスの中心は、うれしいか悲しいかを必ず取り違えることではなく、その影響の大きさや続く期間を見積もり過ぎることにあります(Wilson & Gilbert, 2005)。
なぜ将来の感情を大きく見積もるのか
一つの出来事に意識が集中することが理由の一つと考えられています。たとえば、大事な試合に負けた後の気分を想像するとき、試合の結果ばかりを考え、その後も食事や勉強、友人との会話など、さまざまな出来事が続くことを見落とす場合があります。現実には、試合とは別の出来事も気持ちに影響します(Wilsonほか, 2000)。
もう一つは、出来事の後に自分の受け止め方が変わることを予想しにくい点です。つらい出来事が起きても、時間がたつ間に、その出来事を考え直したり、別のことに注意が向いたりして、気持ちが変わる場合があります。しかし、出来事が起きる前には、そうした変化を十分に思い浮かべられないことがあります(Gilbertほか, 1998)。
これらは、インパクトバイアスが起こる理由として研究されてきた説明です。何が起きても時間だけで気持ちが回復する、という決まりを示しているわけではありません。
研究では何が確かめられたのか
悪い出来事の影響が続く長さを予想した研究
ギルバートらは1998年、恋愛関係が終わること、選挙で負けること、就職先から断られることなど、望ましくない出来事に対する感情の予想を六つの研究で調べました。参加者は、そうした出来事が起きた後の嫌な気持ちが、実際より長く続くと見積もる傾向を示しました(Gilbertほか, 1998)。
研究者たちは、つらい出来事を自分なりに理解したり、受け止め方を変えたりする働きを、人が事前には十分に予想していないことが一因だと考えました。ただし、これは複数の研究で見られた傾向であり、すべての別れや不採用で、同じ速さで気持ちが和らぐと示した結果ではありません。
試合の後の日常生活を考えると、予想は変わるのか
ウィルソンらは2000年、大学のアメリカンフットボールのファンを対象に、応援するチームの試合結果が、その後の幸福感にどれほど長く影響すると思うかを調べました。五つの研究のうち最初の三つでは、試合後にほかの活動へどれくらい時間を使うかを先に考えた人は、それを考えなかった人よりも、試合結果の影響が長く続くと予想し過ぎにくくなりました(Wilsonほか, 2000)。
この結果は、未来の試合結果だけでなく、その後の日常生活にも目を向けることで、感情の予想が変わりうることを示しています。一方、この方法があらゆる出来事の予測を正確にする、と確かめた研究ではありません。
運転免許試験の合否を予想した研究
フィンケナウアーらは2007年、運転免許の試験を受ける人が事前に予想した感情と、試験後に日記へ記録した感情を比較しました。受験者は、不合格だった場合の落ち込みについて、強さも続く長さも大きく予想していました。一方、合格した場合のうれしい気持ちについては、予想が実際より大きくなる程度は比較的小さくなっていました(Finkenauerほか, 2007)。
参加者は、時間がたてば気持ちが弱まること自体は予想できていました。ただ、その変化が実際よりゆっくり進むと考えていました。気持ちが変わる方向は見通せても、変わる速さの予想にずれが生じることが分かります。
日常の気分の予測では、ずれが小さい場合もある
2026年には、日常生活での感情の予測を調べた研究も発表されています。一つの調査では209人が翌日や翌週の気分を予想し、実際の気分を日々記録しました。別の調査では69人が、その日に起こると予想した嫌な出来事に対する気持ちを予測し、後から実際の気持ちを報告しました(Moeckほか, 2026)。
参加者は、いつもより気分がよくなるか悪くなるかを、ある程度正しく予想できていました。感じる気持ちの強さには予想とのずれもありましたが、全体として小さい場合が多く見られました。これは日常の短い期間を調べた結果であり、大きな人生の出来事でも同じ精度で予想できると示すものではありません。
身近な場面で考える
たとえば、楽しみにしていたコンサートの抽選に外れた人が、「これから一週間、何をしても楽しくないだろう」と思ったとします。外れた直後は強くがっかりしても、その後の仕事や友人との会話、別の予定によって、予想より早く気持ちが変わるかもしれません。
これはインパクトバイアスを説明するための仮の例です。実際にその人の落ち込みが早く弱まると確認したわけではありません。出来事の重要さや本人の状況によって、気持ちの変化は異なります。
将来の出来事で自分がどう感じるかを考えるときは、その出来事の後にも続く日常の活動や人との関わりを思い浮かべると、予想を見直す手がかりになります。これは大学の試合結果を扱った研究から考えられる提案であり、すべての場面で感情の予想が正確になるという保証ではありません。
参考文献・出典
- Wilson, T. D., & Gilbert, D. T. (2005). Affective Forecasting: Knowing What to Want. Current Directions in Psychological Science, 14(3), 131–134. 将来の感情の強さや長さの予測と、その予測が偏る理由を整理した総説。
- Gilbert, D. T., Pinel, E. C., Wilson, T. D., Blumberg, S. J., & Wheatley, T. P. (1998). Immune Neglect: A Source of Durability Bias in Affective Forecasting. Journal of Personality and Social Psychology, 75(3), 617–638. 望ましくない出来事への気持ちが続く期間の予想と、受け止め方の変化の見落としに関する六つの研究。
- Wilson, T. D., Wheatley, T. P., Meyers, J. M., Gilbert, D. T., & Axsom, D. (2000). Focalism: A Source of Durability Bias in Affective Forecasting. Journal of Personality and Social Psychology, 78(5), 821–836. 大学の試合結果と、その後に行う別の活動を考えることが感情の予想に与える影響。
- Finkenauer, C., Gallucci, M., van Dijk, W. W., & Pollmann, M. (2007). Investigating the Role of Time in Affective Forecasting: Temporal Influences on Forecasting Accuracy. Personality and Social Psychology Bulletin, 33(8), 1152–1166. 運転免許試験の合否についての感情予測と、試験後の日記記録の比較。
- Moeck, E. K., Grewal, K. K., Mehta, A., Greenaway, K. H., Koval, P., & Kalokerinos, E. K. (2026). Affective Forecasting Accuracy in Everyday Life. Affective Science, 7, 306–318. 翌日・翌週や日常の出来事についての感情予測と、実際の気分との比較。