社会的アイデンティティ理論とは?集団への所属が自分の捉え方に与える影響

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

自分が所属する学校や地域のチームを褒められると、自分自身を認められたようにうれしくなることがあります。自分が直接成果を出したわけではないのに、なぜそう感じるのでしょうか。

社会的アイデンティティ理論は、人は自分の性格や能力だけでなく、「自分はどの集団の一員か」という認識からも自分自身を捉えると考える理論です。所属する集団への愛着や、ほかの集団との比較が、自分への評価や行動に関わることを説明します。

社会的アイデンティティ理論とは?所属が「自分らしさ」の一部になる

この理論は、心理学者アンリ・タジフェルとジョン・ターナーが1970年代に進めた研究をもとに、1979年に提案されました。「アイデンティティ」は、自分が何者なのかを捉える感覚を指します。そのうち「社会的アイデンティティ」とは、自分が属している集団をどう捉え、その一員であることにどのような意味や気持ちを持つかという、自分の捉え方の一部です(米国心理学会心理学辞典, 2018)。

たとえば、ある人が「私は歌が好きで、声が低い」と考えることは、その人個人の特徴についての認識です。一方、「私は地域の合唱団の一員だ。あの仲間と歌うことを大切にしている」と考えるときには、集団への所属も自分を説明する手がかりになっています。

学校、部活動、趣味の集まり、地域の団体など、複数の集団への所属が自分の捉え方に関わることがあります。ただし、名簿に名前が載っているだけで、必ず強い仲間意識を持つわけではありません。同じ集団に属していても、それを自分にとってどれほど大切だと感じるかは人によって違います(Ellemersほか, 2002)。

自分たちと他の集団を比べると、何が変わるのか

人は周りの人を、所属する学校やチームなどで分けて捉えることがあります。自分がある集団の一員だと感じていると、その集団の評価は、本人の自信や誇りにも関わりえます。ターナーは1975年、自分たちの集団をほかの集団と比べ、自分たちのよさや違いを確かめようとすることが、集団同士の振る舞いに関わると説明しました(Turner, 1975)。

たとえば、合唱団の人が「私たちは声を合わせることが得意だ」と誇りに思うとします。別の合唱団が高く評価されたときには、自分たちの特徴を改めて意識することもあるでしょう。ここで理論が説明しようとするのは、集団の評価や比較が、なぜ個人の気持ちと結び付くのかということです。

関連する「内集団バイアス」は、自分が仲間だと思う集団の人を、ほかの集団の人より有利に扱ったり、高く評価したりする傾向です。社会的アイデンティティ理論は、そのような行動も含め、集団が自分の一部として感じられる理由や、所属への気持ちが状況によってどう変わるかを考えます。したがって、集団への愛着があれば、必ず別の集団を敵視するという意味ではありません。

研究で分かっていること

小さな分類だけでも、集団を意識することはあるのか

タジフェルらは1971年、以前からの対立とは関係のない、ささいな基準で参加者を集団に分け、別の参加者に渡す報酬の配り方を選んでもらいました。配る相手は個人名ではなく番号と集団で示され、自分自身の報酬を増やす場面ではありませんでした。それでも、自分と同じ集団の人に有利な配分が見られました(Tajfelほか, 1971)。

この結果は、深い付き合いや実際の争いがなくても、集団の区別が判断に関わりうることを示しています。ただし、調べたのは実験で用意された報酬配分の選択です。参加者全員が強い仲間意識を持ったことや、日常生活でも必ず同じ行動をすることを示したものではありません。

「所属の自覚」「愛着」「集団への評価」は同じものか

エレマースらは1999年、119人を対象に、集団がほかの集団より高く評価されるか低く評価されるか、集団の人数が多いか少ないか、自分で所属を選んだか割り当てられたかを変える実験を行いました。そして、参加者が自分を集団の一員と考える程度、集団への愛着、自分の集団を誇らしく思う程度を調べました(Ellemersほか, 1999)。

その結果、この三つは関連しながらも、別々に捉えられることが分かりました。自分を集団の一員と考える程度は、集団の人数の違いと関係し、集団を誇らしく思う程度は、集団の評価の高さと関係しました。集団への愛着は、集団の評価や所属の決まり方によって違いが見られました。自分の集団を有利に扱う反応との関係を調べると、三つの中では特に集団への愛着が重要でした。

つまり、「この集団の一員だと分かっている」ことと「この集団を大切に思っている」ことは、同じ強さとは限りません。所属が自分への評価や行動に関わる場合を理解するには、この違いを見る必要があります。

集団の立場が変わると、所属への気持ちも変わるのか

ドーシェらは2002年、集団への所属意識が強い人と弱い人で、集団の立場が改善する見込みや実際の変化への反応がどう違うかを調べました。所属意識が強い人は、集団の先行きが不確かな場合にも、その集団を大切にする傾向がありました。一方、所属意識が弱い人は、集団の立場が改善しそうな場合や実際に改善した場合に、その集団との結び付きを強める傾向が見られました(Doosjeほか, 2002)。

この結果からは、集団への所属意識がいつも一定なのではなく、集団の先行きや実際の変化と関わって変わりうることが分かります。もともと所属意識が強い人と弱い人では、変化の表れ方が異なりました。ただし、すべての集団で同じように変化するとは限りません。

集団をひいきすれば、必ず自信が高まるのか

ルービンとヒューストンは1998年、40件を超える関連研究を検討しました。集団の仲間を有利に扱うと自分への評価が高まる、あるいは自分への評価が低いと仲間をひいきしやすくなる、という強い説明については、一貫した裏付けが得られていないと整理しました。ただし、本人全体への評価と、所属集団についての評価が十分に区別されていない研究がある点も指摘しています(Rubin & Hewstone, 1998)。

集団への所属が自分の捉え方に関わることと、その集団をひいきすれば必ず自信が高まることは別です。社会的アイデンティティ理論は、集団の存在が人の気持ちや判断に関わることを理解するための考え方であり、誰もが必ず同じ行動を取るという決まりではありません。

身近な場面で考える

たとえば、ある人が地域の合唱団に入っていて、毎週仲間と練習しているとします。発表会で合唱団全体が褒められると、その人は自分だけが褒められたわけではないのに、誇らしく感じるかもしれません。合唱団が「自分はどんな人か」を考える手がかりになっているからだと、この理論から理解できます。

一方、同じ合唱団に入っていても、練習に参加し始めたばかりの人は、まだ強い仲間意識を持っていないかもしれません。二人が受け止める気持ちの違いは、所属の有無だけでなく、集団への愛着の違いから考えることができます。

これは理論を説明するための仮の例で、特定の合唱団の人を調べた研究結果ではありません。集団への所属は自分らしさを支える一部にもなりますが、その結び付きの強さは人や状況によって変わります。自分や周囲の人を理解するとき、所属する集団がその人にとってどんな意味を持つかを考えることが大切です。

参考文献・出典