社会的交換理論とは?人間関係を得られるものと負担から考える

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

友人との付き合いが楽しいと感じる一方、頼み事が重なって疲れることもあります。人は、誰かとの関係を心地よいと感じたり、負担が大きいと感じたりするとき、何を手がかりにしているのでしょうか。

社会的交換理論は、人とのやり取りを通じて得られるものと、そのために引き受ける負担に注目し、関係がどのように生まれ、続き、変化するかを考える理論です。ここで得られるものには安心感や信頼、助け合いも含まれます。人間関係をお金の損得だけで説明する考え方ではありません。

社会的交換理論とは?関係から得るものと負担

社会的交換理論は、一人が提案して完成した単一の法則ではなく、複数の研究者が発展させてきた考え方です。社会学者のジョージ・ホーマンズは1958年、人の社会的な行動を、相手との交換として捉える説明を示しました。その後も、相手への依存、助け合い、お返しへの期待、信頼などを扱う研究へと広がっています(Homans, 1958、Cropanzano & Mitchell, 2005)。

この理論で「得られるもの」と「負担」になるものを、身近な例で分けると次のようになります。

  • 得られるもの:一緒に過ごす楽しさ、安心して相談できること、助けてもらえること、認めてもらえることなど。
  • 負担になるもの:時間やお金、気遣いに必要な労力、相手に合わせ続ける疲れなど。

人によって、何を大切に感じ、何を負担と感じるかは違います。同じ友人と同じ時間を過ごしていても、片方には大きな楽しみがあり、もう片方には気疲れがあるかもしれません。理論は、こうした本人にとっての価値や負担の受け止め方に目を向けます。すべてを数字に置き換えたり、毎回のやり取りで得と損を計算したりする必要がある、という意味ではありません。

関係への満足と、関係を続けるかどうかは何と比べるのか

人との関係を比較して考える関連研究では、現在の付き合いを二つの異なる基準から捉えています。心理学者ジョン・ティボーとハロルド・ケリーが1959年に示した考え方です(Thibaut & Kelley, 1959)。

  • これまでの経験から期待する水準との比較:相手との付き合いから得られるものが、自分が普段期待している水準より十分かどうかは、関係への満足に関わります。
  • 今の関係以外の可能性との比較:別の人と交流する、一人で過ごすなど、ほかに考えられる過ごし方と比べて今の関係をどう感じるかは、その関係を続けるかどうかに関わります。

たとえば、友人との交流が以前より楽しくなくなり、不満を感じていても、すぐにその付き合いをやめるとは限りません。長い付き合いを大切に思っていたり、今の関係以外に望ましい選択肢が思い浮かばなかったりすることもあります。満足しているかという評価と、関係を続けようとすることは、必ずしも同じではありません。二つの比較基準の違いは、米国心理学会の心理学辞典でも説明されています(APA Dictionary of Psychology, 2023、APA Dictionary of Psychology, 2018)。

これは、人間関係の継続を説明する一つの考え方です。実際の関係では、責任や約束、生活上の事情なども関わるため、比較する基準だけで一人ひとりの行動を予測できるわけではありません。

研究で分かっていること

お返しや頼み事への反応は、関係への期待で変わるのか

クラークとミルズは1979年、「受けた助けに見合うお返しをする関係」と「相手が必要としているときに助ける関係」を比べるため、二つの実験を行いました。参加者が相手に求める関係が異なると想定し、相手の人物像や今後の交流について伝える情報を変えました(Clark & Mills, 1979)。

第1実験では、男性大学生96人が、自分が課題を手伝った相手から、後で得点のお返しを受ける場合と受けない場合を比べました。見返りを返す関係を期待する条件では、お返しがあったほうが相手への好意が高くなりました。一方、相手の必要に応じて助け合う関係を期待する条件では、お返しがあったほうが好意が低くなりました。

第2実験では、女性大学生80人が、課題で相手に助けてもらった場合と助けてもらわなかった場合に、その相手から得点を求められるかどうかを比べました。先に助けてもらったとき、見返りを返す関係を期待する条件では頼まれたほうが相手への好意が高くなりましたが、必要に応じて助け合う関係を期待する条件では低くなりました。また、見返りを返す関係を期待する条件では、先に助けてもらわずに頼まれると、好意が低くなる結果も見られました。

この二つの実験は、お返しや頼み事の受け止め方が、相手との関係について何を期待しているかによって変わりうることを示しています。ただし、参加者が長く付き合ってきた相手との関係を調べたわけではありません。友人や家族との日常的なやり取りに、そのまま当てはめることはできません。

お返しの条件を決める場合と、自発的に助け合う場合で信頼は変わるのか

モルムらは2000年、人とのやり取りについて、互いに何を渡すかを交渉して決める交換と、見返りを先に確約せずに相手を助ける交換を実験で比べました。前者では交換の条件があらかじめ取り決められ、後者では相手が返してくれるか分からない状態で行動することになります(Molmほか, 2000)。

その結果、先に見返りを確約しない交換のほうが、相手への信頼と、相手との関係を大切に感じる気持ちが強くなりました。また、相手が信頼できると示す行動も、この形の交換では信頼により強く関わっていました。

見返りが保証されない中で相手が助けてくれれば、その行動自体が信頼の手がかりになると考えられます。一方、これは実験で設定された二つの交換方法を比較した結果です。条件を先に相談することが、日常の人間関係を必ず悪くすると示したわけではありません。

社会的交換理論だけですべての関係を説明できるのか

クロパンザーノとミッチェルは2005年、社会的交換理論に関する研究を整理し、何をやり取りと見なすか、どのような決まりに従って交換するかなど、研究者の間でも説明が十分に一致していない部分があると指摘しました(Cropanzano & Mitchell, 2005)。

2023年に発表された研究の整理でも、物やお金だけでなく、心理的な支えやお返しの決まり方など、まだ詳しく調べる必要がある側面が示されています(Ahmadほか, 2023)。

社会的交換理論は、人間関係の一面を理解するための幅広い考え方です。「自分にとって得が多ければ、その相手を必ず好きになる」といった、例外のない決まりとして扱うことはできません。

身近な場面で考える

たとえば、友人の相談によく乗っている人がいるとします。最初は話を聞くことが楽しく、お互いの信頼が深まっていると感じていました。しかし、忙しい時期に相談が重なり、自分が困ったときには話を聞いてもらえないと感じたとします。以前と同じ友人関係でも、そこで得られる安心感と引き受ける負担の感じ方は変わるかもしれません。

この例は理論を理解するための仮の場面です。友人が意図的に相手へ負担をかけていると分かる話でも、その関係のよさを一つの数字で決められる話でもありません。相手は感謝していても、相談を受ける側の疲れに気づいていない可能性があります。

こうした場合、いつもどちらが多く与えているかを数えるよりも、それぞれが付き合いに何を求め、何を支えや負担と感じているかを確かめることが、状況を理解する手がかりになります。社会的交換理論は、人間関係に含まれる助け合い、負担、期待、信頼を考えるための視点なのです。

参考文献・出典

  • Homans, G. C. (1958). Social Behavior as Exchange. American Journal of Sociology, 63(6), 597–606. 社会的な行動を交換として捉える初期の理論論文。
  • Thibaut, J. W., & Kelley, H. H. (1959). The Social Psychology of Groups. Wiley. 人間関係の相互の影響と比較を考える枠組みを示した著書。
  • American Psychological Association (2023). Comparison level. APA Dictionary of Psychology. これまでの経験から期待する水準と、関係への満足の関係。
  • American Psychological Association (2018). Comparison level for alternatives. APA Dictionary of Psychology. 現在の関係と、ほかに考えられる選択肢とを比べる基準。
  • Clark, M. S., & Mills, J. (1979). Interpersonal Attraction in Exchange and Communal Relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 37(1), 12–24. 関係への期待が異なる条件で、援助の後にお返しを受ける場合と、援助を受けた後に頼まれる場合に、相手への好意がどう変わるかを調べた二つの実験。
  • Molm, L. D., Takahashi, N., & Peterson, G. (2000). Risk and Trust in Social Exchange: An Experimental Test of a Classical Proposition. American Journal of Sociology, 105(5), 1396–1427. 交渉で決めた交換と、見返りを確約しない交換とで、信頼や関係への気持ちを比べた実験。
  • Cropanzano, R., & Mitchell, M. S. (2005). Social Exchange Theory: An Interdisciplinary Review. Journal of Management, 31(6), 874–900. 理論の幅広い用途と、交換の内容・決まり方の説明に残る課題を整理した総説。
  • Ahmad, R., Nawaz, M. R., Ishaq, M. I., Khan, M. M., & Ashraf, H. A. (2023). Social Exchange Theory: Systematic Review and Future Directions. Frontiers in Psychology, 13, 1015921. 研究の発展と、心理的なやり取りやお返しの仕組みについて今後も調べる必要がある点。