ホット・コールド共感ギャップとは?心身の状態の違いで気持ちを想像しにくくなる心理
食事を終えたばかりのときは、数時間後にお腹が空くことを分かっていても、どれほど食べたくなるかまでは想像しにくいものです。反対に、強くお腹が空いているときは、食後には食欲が落ち着くことを見落として、食べ物を多く欲しくなるかもしれません。
ホット・コールド共感ギャップとは、今と異なる心身の状態にいる自分や他人の気持ち、欲求、行動を想像するとき、現在の状態に引っ張られ、その違いを十分に見積もれなくなる傾向です。空腹や疲れ、強い感情などによって、感じ方や判断が変わることを考える心理学の説明です。
ホット・コールド共感ギャップとは?二つの状態の違い
心理学者ジョージ・ローウェンスタインは、空腹や喉の渇き、痛み、強い感情などが、人の判断や行動に大きく影響することに注目しました。1996年にその働きを論じ、2005年には、異なる心身の状態の間で気持ちや行動を予測しにくくなる現象を整理しています(Loewenstein, 1996、Loewenstein, 2005)。
ここでいう「ホット」と「コールド」は、体温の高低ではありません。ホットは、強い空腹、喉の渇き、痛み、怒りなど、身体の欲求や感情が強く働いている状態を指します。コールドは、そうした強い状態にないときを指します。
ずれは、どちらの方向でも起こりえます。
- コールドからホットを想像するとき:満腹の人が、後で強く空腹になる自分の食欲を小さく見積もる。
- ホットからコールドを想像するとき:強く空腹の人が、食後に満腹になっても、今と同じくらい食べ物を欲しくなると見積もる。
相手が空腹でも自分は満腹、というように自分と他人の状態が違う場合にも、似た問題が生じます。「共感ギャップ」という名称ですが、他人を思いやる気持ちがないという意味ではありません。今の自分と違う状態の感じ方を、正確に思い浮かべにくいことを指します(Loewenstein, 2005)。
なぜ別の状態を想像しにくくなるのか
人は将来の自分が何を欲しくなるか考えるとき、今の自分が感じていることを手がかりにしがちです。空腹なら食べ物の魅力が強く感じられ、満腹なら同じ食べ物でも魅力が弱く感じられます。将来は状態が変わると知っていても、今の感覚の影響を十分に差し引けないことがあります。
他人の気持ちを考えるときにも、まず「自分がその立場ならどう感じるか」を想像する場合があります。ところが、その想像にも今の自分の空腹や喉の渇きが影響すると、相手の状態の捉え方まで偏る可能性があります(Van Boven & Loewenstein, 2003)。
この考え方は、心身の状態が変わると判断が変わることと、その変化を前もって十分に予想できないことを区別します。気が変わったという事実だけで、共感ギャップが生じたと決められるわけではありません。
研究で分かっていること
一週間後のおやつを選ぶとき、今の空腹は影響するのか
リードとファン・レーウェンは1998年、アムステルダムで働く200人に、一週間後に受け取るおやつを、果物とチョコレートやスナック菓子などから選んでもらいました。最初に選ぶときと一週間後に受け取るときの状態が、昼食直後で満腹に近い場合と、夕方で空腹になりやすい場合になるよう、時間帯を組み合わせました。一週間後には、その場で選び直す機会も設けました。
その結果、一週間後に空腹かどうかだけでなく、最初に選んだときの空腹状態も、選ぶおやつに関係していました。最初に空腹だった人は、満腹に近い人よりも、チョコレートやスナック菓子などを多く選ぶ傾向がありました。一方、参加者は一週間後の空腹状態もある程度考慮していました(Read & van Leeuwen, 1998)。
この研究は、今の空腹が将来の食べ物の選び方に影響することを示しています。ただし、事前の選択と受け取る日の選択が違うことだけを、共感ギャップの証拠としているわけではありません。研究者たちは、最初と受け取る日の空腹状態の組み合わせを比べて、この偏りを検討しました。
空腹と満腹の両方向で、食べ物の価値はどうずれるのか
フィッシャーとランゲルは2014年、大学生101人を対象に、空腹か満腹かという状態を変えながら、数日後に食べる食品にいくら払いたいかを調べました。参加者は、空腹のときには、後日満腹の状態で食べる食品の価値を高めに見積もり、満腹のときには、後日空腹の状態で食べる食品の価値を低めに見積もりました(Fisher & Rangel, 2014)。
これは、現在の状態が強い場合も、落ち着いている場合も、将来の別の状態を考えるとずれが生じることを示す結果です。調べたのは空腹と満腹の条件での食品の評価であり、怒りや痛みなどでも同じ大きさのずれが起こると証明したものではありません。
相手の空腹や喉の渇きを考えるときにも影響するのか
ファン・ボーヴェンとローウェンスタインは2003年、運動施設の利用者47人を、運動前に質問へ答えるグループと運動後に答えるグループに分けて調べました。参加者には、食べ物や水を十分に持たないままハイキング中に道に迷った旅行者3人を想像してもらい、その人たちには空腹と喉の渇きのどちらがよりつらいかを尋ねました。
運動後のグループは運動前のグループよりも、道に迷った人たちには空腹より喉の渇きのほうがつらいだろうと答える人の割合が高くなりました(Van Boven & Loewenstein, 2003)。
この実験では、実際に道に迷った人の気持ちを測ったのではありません。架空の相手の状態を想像するとき、自分の現在の喉の渇きが判断に影響したことが確認されました。
身近な場面で考える
たとえば、休日の朝、十分に休んで元気な人が、平日の仕事帰りに家事をいくつも済ませる予定を立てたとします。ところが実際に帰宅すると疲れていて、予定どおりに動くのが難しくなるかもしれません。予定を立てた時点では、仕事後の疲れを十分に思い浮かべられなかった可能性があります。
これはホット・コールド共感ギャップを理解するための仮の例です。仕事後に家事ができなかった原因が、必ずこの心理現象にあるとは限りません。仕事量や体調、予定の多さなど、ほかの理由も考えられます。
将来の自分や相手の行動を考えるときには、「今はどんな状態か」「そのときは何が違いそうか」を分けて考えることが、一つの手がかりになります。ただし、こうして問い直せば必ず予測が正確になるという効果まで、紹介した研究が確かめたわけではありません。
参考文献・出典
- Loewenstein, G. (1996). Out of Control: Visceral Influences on Behavior. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 65(3), 272–292. 空腹、痛み、強い感情などが意思決定に与える影響を説明した理論的研究。
- Loewenstein, G. (2005). Hot–Cold Empathy Gaps and Medical Decision Making. Health Psychology, 24(4, Suppl.), S49–S56. ホットとコールドの二方向のずれ、将来の自分と他人の気持ちを想像する場合の違いを整理した総説。
- Read, D., & van Leeuwen, B. (1998). Predicting Hunger: The Effects of Appetite and Delay on Choice. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 76(2), 189–205. 一週間後に食べるおやつの事前選択に、現在と将来の空腹状態が与えた影響。
- Fisher, G., & Rangel, A. (2014). Symmetry in Cold-to-Hot and Hot-to-Cold Valuation Gaps. Psychological Science, 25(1), 120–127. 空腹・満腹の状態を変えたときに、後で食べる食品の価値を高く、または低く評価する現象。
- Van Boven, L., & Loewenstein, G. (2003). Social Projection of Transient Drive States. Personality and Social Psychology Bulletin, 29(9), 1159–1168. 運動による喉の渇きが、道に迷った人たちのつらさの予測に及ぼした影響。