ジェームズ=ランゲ説とは?身体の変化から感情が生まれるという考え方

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

夜道を歩いているとき、突然大きな音がすると、肩が跳ねたり、心臓が速く打ったりします。私たちは「怖いから身体が反応した」と考えがちですが、順番を逆に捉えた心理学の説があります。

ジェームズ=ランゲ説は、出来事に反応して身体に変化が起こり、その変化を感じることが恐怖や悲しみなどの感情になる、という考え方です。身体の反応を感情の結果としてだけでなく、感情の経験そのものを形づくるものとして捉えます。

ジェームズ=ランゲ説とは?感情が生まれる順序

この説は、心理学者ウィリアム・ジェームズが1884年に、医師カール・ゲオルグ・ランゲが1885年に、それぞれ示した近い考え方に由来します。ジェームズは心拍、呼吸、筋肉の緊張、涙など幅広い身体の変化を挙げました。ランゲは特に血管や血液の巡り方の変化を重視しました(James, 1884、Lange, 1885/1912年の英訳)。

この説による「驚いて怖くなる」までの流れを、身近な出来事で考えると次のようになります。

  1. 突然、近くで犬が大きな声で吠えたことに気づく。
  2. びくっと身体が動き、息が浅くなったり、胸がどきどきしたりする。
  3. その身体の変化を感じることが、怖さを経験することにつながる。

一般には「怖いと感じた後で身体が震える」と説明されがちです。一方、ジェームズは、出来事を知覚したことによって身体が変わり、その変化を感じていること自体が感情だと考えました。「悲しいから泣く」という説明に対し、涙を流すことを含む身体の反応が悲しみの経験を形づくる、という見方です(James, 1884)。

ただし、ここでいう身体の変化は、外から見える表情や動作だけではありません。心臓の鼓動、呼吸、筋肉の感覚なども含みます。またジェームズが1884年の論文で主に扱ったのは、身体の反応がはっきり表れる恐怖や怒り、悲しみなどです。物事を理解したときの静かな喜びまで、すべて同じように説明できると述べたわけではありません。

研究で分かっていること

ジェームズは、怖さから身体の反応をすべて取り除いたら、何が感情として残るだろうか、と問いかけました。これは身体の感覚が感情に欠かせないという考えを説明するもので、その問いだけで説が実験的に証明されたわけではありません(James, 1884)。

後の研究では、身体の変化のうち、顔の筋肉の動きが気分に影響するかが調べられています。2019年には、研究者たちが表情を変えて参加者の感情の回答を調べた138件の研究結果をまとめました。全体として表情の変化による影響は見られましたが、その大きさは小さく、どのような条件で調べるかによって違いがありました(Coles, Larsen, & Lench, 2019)。

2022年には、19か国の参加者3,878人のデータを使って、笑顔のような表情をまねる場合、自分で笑顔をつくる場合などを比べる研究が行われました。表情をまねたり自分でつくったりする条件では、幸福感が高まる結果が見られました。一方、口にペンをくわえて顔の筋肉の動きを変える方法では、影響があるとはっきり結論づけられませんでした(Colesほか, 2022)。

これらの研究は、身体の動きが、感じる気持ちに影響する場合があることを示しています。ただし、調べられた中心は表情と幸福感などの関係です。すべての感情が必ず身体の変化から始まり、その変化を感じるだけで生まれると確かめたものではありません。

身近な場面で考える

たとえば、人前で初めて話す人が、名前を呼ばれた途端に胸の鼓動が速くなり、手に汗をかいたとします。その身体の変化を感じることが、本人の「緊張している」という感覚を形づくる一部になっている、とジェームズ=ランゲ説から考えられます。

これは説を理解するための仮の例です。この場面で身体の反応が感情に先立ったと実験で確かめたものではありません。また、胸がどきどきすれば必ず緊張するわけでもありません。走った直後にも心拍は速くなります。

感情の二要因理論では、身体の高ぶりを周囲の状況からどう理解するかにも注目します。それに対してジェームズ=ランゲ説が中心に据えるのは、身体の変化を感じること自体と感情との結び付きです。二つの説は、感情と身体の関係について異なる点を説明しようとしています。

身体の反応は、気持ちが生まれた後に現れるだけなのか。それとも、その気持ちをつくる一部なのか。ジェームズ=ランゲ説は、感情の経験を身体の側から考えるきっかけになる説です。

参考文献・出典