防護動機理論とは?危険の捉え方と対処の見込みから予防行動を考える

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

自転車に乗るとき、「転んだら頭をけがするかもしれない」と心配していても、ヘルメットをかぶる人とかぶらない人がいます。危険を知っているのに、予防する行動が違うのはなぜでしょうか。

防護動機理論は、危険がどれほど重大で自分にも起こりそうかという見積もりと、対策が役立ち、自分にも実行できそうかという見積もりが、予防行動をしようとする気持ちに関わると考える心理学の理論です。危険を強く感じるだけで、人が必ず対策を取るという考え方ではありません。

防護動機理論とは?危険と対策を二つの面から考える

防護動機理論は、心理学者ロナルド・ロジャーズが1975年に提唱した理論です。もともとは、危険を伝える情報が人の考えや行動への意欲をどう変えるかを説明するために考えられました。当初は、危険の深刻さ、危険が起こる可能性、勧められた対策の有効性という三つの要素を重視していました(Rogers, 1975)。

その後の研究では、対策が有効だと思うことと、自分にもその対策を行えると思うことを区別する重要性が示されました。現在よく使われる説明では、危険への見積もりと対策への見積もりを組み合わせて、予防する気持ちがどのように生まれるかを考えます(Maddux & Rogers, 1983)。

ここでいう「防護動機」とは、危険から自分を守る行動を取ろうとする気持ちのことです。「ヘルメットをかぶろうと思う」ことと「実際にかぶる」ことは違います。行動するには、必要な物を用意できるか、時間やお金などの条件が整っているかも関わります。

予防しようと思う気持ちに関わる二つの見積もり

危険について:深刻さ、自分にも起こる可能性、対策をしない利点

一つ目は、危険をどう捉えるかです。自転車での転倒を例にすると、「頭をけがしたら大変だ」という被害の深刻さと、「自分にも転ぶことがありそうだ」という起こる可能性を考えることに当たります。深刻なことでも、自分にはまず起こらないと感じていれば、予防しようという気持ちは強まりにくい場合があります。

また、対策をしないことにも本人にとっての利点がある場合があります。たとえば、「ヘルメットを持ち歩かずに済む」「髪形が崩れない」という気持ちです。こうした利点を大きく感じると、対策をしない選択が魅力的に見えることも、理論では考慮します(Balla & Hagger, 2025)。

対策について:効果があるか、自分にできるか、どんな負担があるか

二つ目は、危険を減らす方法についての見積もりです。ここでは、似ているようで違う三つの点が関係します。

  • 対策の有効性:「ヘルメットをかぶることは、頭のけがを防ぐ助けになるだろう」と思うか。
  • 自分に実行できる見込み:「自分に合うヘルメットを用意し、外出時にかぶれそうだ」と思うか。
  • 対策にかかる負担:購入費用、暑さ、持ち運びの手間などをどのくらい大きく感じるか。

たとえば、対策そのものは役立つと思っていても、「自分には用意できない」「毎回かぶるのは難しい」と感じていれば、実行しようという気持ちにつながりにくいかもしれません。逆に、対策が役立ち、自分にもできて、負担を受け入れられると思えば、予防する気持ちを後押しする可能性があります。この説明は、本人がどう見積もるかという心理的な働きを述べたもので、個々の人が必ずそのとおりに行動すると予測するものではありません(Balla & Hagger, 2025)。

研究では何が確かめられているのか

危険を強調するだけでは、対策を取る気持ちは高まらない場合がある

ロジャーズとミューボーン(1976)は、学生計176人を対象に、喫煙、自動車の安全、性感染症という三つの題材を用いた実験を行いました。危険の深刻さや起こる可能性、勧める対策の有効性について、伝える情報を変え、対策を取ろうとする気持ちなどへの影響を調べました。

その結果、対策が有効だと伝えた条件では、勧められた対策を取ろうとする気持ちが強まる傾向が見られました。対策が有効だと伝えられたときは、危険が深刻だ、起こりやすいという情報も態度を変える方向に働きました。一方、対策が有効ではないと示されたときには、危険の深刻さや起こる可能性を強調しても効果が見られなかったり、反対の方向へ働いたりしました(Rogers & Mewborn, 1976)。

この実験が直接調べたのは、情報を受け取った後の態度や、対策を取ろうとする意思です。参加者が長期間にわたって予防行動を続けたことまで示した結果ではありません。

「対策は有効」と「自分にもできる」は別の見込みだった

マダックスとロジャーズ(1983)は、健康上の危険を伝える実験で、危険が起こる可能性、対策の有効性、自分で対策を実行できる見込みなどと、予防行動を取ろうとする意思の関係を調べました。

実験では、対策が役立つという見込みに加え、自分にも実行できるという見込みが、予防行動を取ろうとする意思に関わることが示されました。自分に実行できるという見込みは、ほかの情報との組み合わせによっても結果が変わりました(Maddux & Rogers, 1983)。

また、リペトーとロジャーズ(1987)は、健康上の危険と対処方法の情報を変えた研究で、危険を強く示すことは、予防に向かう反応だけでなく、危険から目をそらすなどの反応も強め得ると報告しました。どのような対処に向かうかを分けたのは、対策の有効性と自分にもできるという見込みに関する情報でした(Rippetoe & Rogers, 1987)。

多くの研究をまとめると、どこまで説明できるのか

フロイドら(2000)は、防護動機理論に関する65件の研究、計約3万人のデータをまとめました。対象には20種類を超える健康上の問題が含まれていました。

全体として、危険が深刻で自分にも起こりそうだと感じること、対策が有効で自分にもできると感じることは、予防行動を取ろうとする意思、または予防行動そのものと、理論に沿う方向で関係していました。一方、対策をしない利点や、対策の負担を大きく感じることは、予防に向かう気持ちや行動を弱める方向に関係していました(Floyd, Prentice-Dunn, & Rogers, 2000)。

ただし、予防しようという意思と、実際の行動は区別する必要があります。バラとハガー(2025)は、これまでの研究には、同じ時点で本人の考えと行動を尋ねる調査が多いこと、理論全体を一度に検証した研究や、実際に行動を変える取り組みを調べた研究が限られていることを指摘しています。そのため、一つの見込みを変えれば必ず行動も変わる、と断定することはできません(Balla & Hagger, 2025)。

身近な場面で考える:自転車のヘルメットを用意するとき

たとえば、ある人が久しぶりに自転車で出かけようとしているとします。その人は「転倒して頭をけがしたら大変だし、自分にも起こるかもしれない」と思っています。しかし、家にはヘルメットがなく、買う費用や持ち運ぶ手間が気になっています。

この人は危険を深刻に受け止めていても、対策を実行するには負担があると感じています。そのため、すぐにはヘルメットを用意しようと思わないかもしれません。一方、自分に合うものが手に入り、外出のたびにかぶれそうだと思えれば、予防しようという気持ちが強まる可能性があります。

これは防護動機理論を理解するための仮の例です。実際の選択には、家族の意見、利用できるお金、周囲の環境、これまでの習慣なども関わります。対策を取らない人を見て、危険を軽く考えていると決めつけることはできません。

防護動機理論を知ると、危険を伝えることに加えて、どの対策が役立つと思われているか、自分にも実行できそうか、どんな負担を感じているかに目を向けられます。危険への不安と対策への見込みの両方から、予防しようとする気持ちを考えるための理論です。

参考文献・出典