健康信念モデルとは?健康を守る行動を選ぶときの認識や障壁
自治体から健康診断の案内が届いても、すぐに申し込む人もいれば、後回しにする人もいます。健康を大切に思う気持ちは同じでも、なぜ選ぶ行動が違うのでしょうか。
健康信念モデルは、病気などの危険を自分に関係のあることだと感じるか、対策にどんな利点や負担があると思うか、行動するきっかけがあるかなどから、健康を守る行動を考える心理学のモデルです。危険を知っているかどうかだけでなく、対策を取るまでの障壁にも注目します。
健康信念モデルとは?健康への心配と行動の障壁を考える
健康信念モデルは、1950年代に米国の公衆衛生分野の研究者たちが発展させた考え方です。病気を予防したり早期に見つけたりするための検査やサービスがあっても、利用しない人がいるのはなぜか、という問題が出発点でした。ローゼンストックは1974年の論文で、その成り立ちを振り返っています(Rosenstock, 1974、Alyafei & Easton-Carr, 2024)。
このモデルが扱うのは、本人が「自分にはどんな危険がありそうか」「対策にはどんな意味があるか」とどう受け止めているかです。実際に病気になる確率や、ある検査を受ける必要があるかを、このモデルだけで判断するものではありません。
初期の説明では、病気にかかる可能性、病気の深刻さ、対策の利点、対策の障壁という四つの受け止め方が中心でした。その後、実行を促すきっかけや「自分にも実行できる」という見込みも重視されるようになりました。1988年にローゼンストックらは、実行できるという見込みを、ほかの受け止め方とは別の要素として加える案を示しています(Rosenstock, Strecher, & Becker, 1988)。
健康を守る行動に関わる六つの受け止め方
病気にかかる可能性と、起きた場合の深刻さ
まず、ある病気や健康上の問題が自分にも起こり得ると思うかという点があります。たとえば、健康診断の案内を受け取った人が「今は困っていないけれど、自分にも健康上の問題が見つかる可能性はある」と考える場合です。
それとは別に、問題が起きた場合、どれほど深刻だと思うかも関わります。同じ病気でも、日常生活への影響を大きく感じる人と、あまり重大には捉えない人がいるでしょう。この二つは本人の受け止め方であり、医学的な危険の大きさそのものとは区別します。
行動の利点と、実行するまでの障壁
次に、ある対策を取ることでどんな良いことがあると思うかを考えます。たとえば案内された検査について「今の健康状態を知る助けになる」と本人が期待する場合です。ただし、その期待があることは、どの検査にも必ず利益があることを意味しません。
一方で、行動するまでに何が負担になると思うかも重要です。「予約方法が分かりにくい」「平日は仕事を休めない」「費用が心配」「結果を聞くのが怖い」といったことが障壁になり得ます。障壁にはお金や時間などの条件だけでなく、不安や気後れも含まれます(Alyafei & Easton-Carr, 2024)。
ここでの違いは、対策が役立つと思うことと、実際にその対策を選びやすいことは同じではない点です。対策の利点を理解していても、負担が大きければ行動に移しにくいかもしれません。
「自分にもできそう」という見込みと、行動のきっかけ
もう一つは、自分でその行動を実行できると思うかです。「予約の電話をかけられる」「会場まで行ける」と感じることは、「検査は役立ちそうだ」という期待とは異なります。前者は自分が行動できるか、後者は行動の結果をどう評価するかという違いです。
さらに、行動を考え始めるきっかけもあります。自治体からの案内、医療者からの説明、家族の声かけなどです。きっかけがあっても必ず行動するわけではありませんが、考えていたことを実行に移す機会となる場合があります。こうして健康信念モデルは、危険と対策への受け止め方に加え、実行の見込みやきっかけも含めて行動を捉えます(Alyafei & Easton-Carr, 2024)。
研究では何が分かっているのか
1984年:46件の研究では、障壁の受け止め方が重要だった
ジャンズとベッカー(1984)は、1974年以前に発表された17件と、その後の29件を合わせた46件の研究を整理しました。うち18件は、先に調べた受け止め方と、その後の行動との関係を調べる研究でした。残りの28件は、過去の行動と受け止め方を振り返って調べる研究でした。
対象となった行動には、病気を予防するための行動、病気になってからの対処、医療サービスの利用が含まれていました。全体では、対策に障壁があると感じることが、行動との関係を最も安定して示していました。一方、病気をどれほど深刻だと思うかという受け止め方は、特に予防行動との関係が弱い結果でした(Janz & Becker, 1984)。
これは、本人の回答と行動との関連を調べた研究のまとめです。障壁を取り除けば、すべての人の行動が必ず変わると証明したわけではありません。
2010年:考えを先に調べた18件の研究でも、利点と障壁が目立った
カーペンター(2010)は、合計2,702人を含む18件の研究をまとめました。これらの研究では、最初に病気への危険の感じ方や対策の利点・障壁を調べ、その後に健康に関わる行動がどうなったかを確かめていました。
その結果、対策の利点と障壁の受け止め方が、後の行動と比較的安定した関係を示しました。一方、病気にかかる可能性と深刻さは、同じように強い予測材料ではありませんでした。調べる時点から行動を確認するまでの長さや、予防する行動か治療に関わる行動かによっても、関係の強さは異なりました(Carpenter, 2010)。
先に受け止め方を調べた研究は、過去を振り返るだけの調査よりも時間の順序が明確です。ただし、考え方を実験で変えた研究をまとめたものではないため、どの要素が行動を変化させた原因かまでは断定できません。
2011年:子どもの予防接種を選ぶ保護者を調べた研究
チェンら(2011)は、台湾南部の保健センター33か所と医療機関40か所で、子どものインフルエンザ予防接種に関する保護者の回答2,778件を集めました。子どもの接種歴と、保護者が感じる感染の可能性、接種の利点・障壁、行動のきっかけなどを質問紙で調べました。
分析では、こうした受け止め方のうち、子どもが感染する可能性、接種の利点・障壁、行動のきっかけが、接種したかどうかと関連していました。保護者の年齢や居住地、子どもの病歴なども関わっていました(Chen et al., 2011)。
これは同じ時点に回答を集めた研究です。受け止め方が変わったから接種したのか、接種した経験によって受け止め方が変わったのかは、結果だけでは分かりません。また、特定の地域で回答した保護者の傾向を、すべての人に当てはめることはできません。
身近な場面で考える:健康診断の案内が届いたとき
たとえば、ある人が自治体から健康診断の案内を受け取ったとします。その人は「健康に問題が起こる可能性はあるし、起これば生活に影響があるかもしれない」と考えています。また、案内された健診を受ければ健康状態を知る助けになると思っています。
しかし、予約できる時間が限られ、仕事との調整も難しいため、まだ申し込んでいません。ここでは、健康上の危険や健診の利点を理解している一方で、時間と予約の手間が行動の障壁になっていると考えられます。
その後、休日に受けられる日程があることを知り、申し込み方法も確認できたとします。自分でも手続きできそうだと感じられれば、案内をきっかけに予約を考えやすくなるかもしれません。
これはモデルを理解するための仮の例です。どの健診が適切かは年齢や健康状態などによって異なり、個別の検査の必要性は公的な案内や医療者の情報で判断する必要があります。
健康信念モデルを知ると、ある人が予防行動を取らない理由を「健康に関心がないから」と決めつけず、本人の危険の受け止め方、対策の利点と負担、利用できる条件や行動のきっかけを分けて考えられます。実際の行動には、本人の考えだけでなく、費用や制度、周囲の支援なども関わります。
参考文献・出典
- Rosenstock, I. M. (1974). Historical Origins of the Health Belief Model. Health Education Monographs, 2(4), 328–335. — 健康信念モデルの成り立ちを記録した原典。掲載情報と、後年の解説を照合。
- Alyafei, A., & Easton-Carr, R. (2024年最終更新). The Health Belief Model of Behavior Change. StatPearls. — モデルの歴史、六つの受け止め方、社会的・経済的条件を含む限界。
- Rosenstock, I. M., Strecher, V. J., & Becker, M. H. (1988). Social learning theory and the Health Belief Model. Health Education Quarterly, 15(2), 175–183. — 自分にも行動できるという見込みを別の要素として組み込む提案。
- Janz, N. K., & Becker, M. H. (1984). The Health Belief Model: A Decade Later. Health Education Quarterly, 11(1), 1–47. — 46件の研究を整理した結果と、障壁・深刻さなどの受け止め方の違い。
- Carpenter, C. J. (2010). A Meta-Analysis of the Effectiveness of Health Belief Model Variables in Predicting Behavior. Health Communication, 25(8), 661–669. — 2,702人を含む18件の研究で、先に調べた受け止め方と後の行動との関連を検証。
- Chen, M.-F., Wang, R.-H., Schneider, J. K., Tsai, C.-T., Jiang, D. D.-S., Hung, M.-N., & Lin, L.-J. (2011). Using the Health Belief Model to Understand Caregiver Factors Influencing Childhood Influenza Vaccinations. Journal of Community Health Nursing, 28(1), 29–40. — 台湾南部の保護者2,778件の回答から調べた接種歴と受け止め方の関連。