古典的条件づけとは?刺激同士の結び付きから反応を学ぶ仕組み
決まった音を聞くと、まだ何も起きていないのに、気持ちや体が反応することがあります。音そのものに特別な意味はないのに、なぜでしょうか。
古典的条件づけとは、もともと特定の反応を起こさなかった音や光などが、別の出来事を知らせる合図になることで、その合図だけでも反応が生じるようになる学習です。合図と、その後に起こる出来事との関係を覚えることが中心になります。
古典的条件づけとは?
心理学でいう「刺激」とは、音や光、口に入った食べ物のように、見聞きしたり体に触れたりする出来事です。古典的条件づけでは、一つの刺激が別の刺激の合図として働くようになり、合図に対する反応が経験によって変わります。
たとえば、食べ物が口に入ったときに唾液が出るのは、あらためて覚えなくても起こる体の反応です。しかし、食べ物を知らせる音を聞いたときにも唾液が出るようになるには、音と食べ物の関係を経験から学ぶ必要があります。これは、レバーを押すと餌が出るといった、自分の行動とその結果の関係を覚える学習とは異なります。
パブロフの犬の研究で見る仕組み
生理学者のイワン・パブロフは、犬の唾液を測り、音と食べ物の関係を調べました。一定の間隔で音が鳴るメトロノームを使った研究の経過は、次のように整理できます(Pavlov, 1927)。
- 学習前:犬は食べ物が口に入ると唾液を出します。一方、メトロノームの音は、まだ食べ物を知らせる合図になっていません。
- 学習中:メトロノームの音を聞かせ、その直後に食べ物を与える経験を繰り返します。
- 学習後:食べ物が出る前にメトロノームの音を聞かせると、犬は音だけでも唾液を出すようになります。
食べ物が直接引き起こす唾液と、音によって出るようになった唾液は、どちらも唾液という点では同じです。しかし、後者は犬が音と食べ物の関係を学んだからこそ現れる反応です。このように、経験を通じて合図に対して生じるようになった反応は「条件反射」とも呼ばれます。
研究で分かった、合図が予告することの重要性
音と食べ物が続けて起きる経験は学習のきっかけになります。ただし、二つの出来事が近い時間に起きた回数だけでは、学習の強さを十分に説明できません。合図があるときとないときで、次の出来事の起こりやすさがどれくらい違うかも重要です。
心理学者ロバート・レスコーラは、ラットに音と電気刺激を経験させる実験を行いました。まず、ラットには餌を得るためにレバーを押す行動を覚えさせました。その後、音が鳴っている時間と鳴っていない時間に、電気刺激がどのくらい起こるかを変えて、三つのグループを比べました。
- 一つ目のグループでは、電気刺激は音が鳴っている時間にだけ起こります。
- 二つ目のグループでは、音が鳴っている間に電気刺激が起こる確率を一つ目とそろえ、音が鳴っていない時間にも電気刺激が起こるようにしました。
- 三つ目のグループでは、一つ目のグループと電気刺激の総回数が同程度になるようにし、音とは無関係に電気刺激が起こるようにしました。
学習の後は電気刺激を出さずに音を聞かせ、餌を得るためのレバー押しがどのくらい減るかを調べました。すると、音が鳴っている時間だけ電気刺激が起きていた一つ目のグループでは、音が鳴るとレバー押しが大きく減りました。一方、音と関係なく電気刺激が起きていた二つのグループでは、そのような減少はほとんど見られませんでした(Rescorla, 1968)。
電気刺激の総回数をそろえた場合にも違いが生じたことから、音が電気刺激を知らせる合図になっていたかどうかが重要だと分かります。この実験で調べたのはラットのレバー押しの変化であり、人がどんな気持ちになるかを直接測った結果ではありません。
一度学んだ反応は変わるのか
合図と出来事の関係が変われば、学習された反応も変化することがあります。たとえば、食べ物を知らせていた音のあとに食べ物が出なくなる経験が続けば、音だけで起こる唾液の反応は弱まることがあります。
ただし、反応が弱まったからといって、以前覚えた関係が完全に消えたとは限りません。動物の実験などをまとめた研究では、合図だけを繰り返した後でも、時間がたったり場所が変わったりすると、以前の反応が再び現れることが報告されています(Bouton, 2004)。
これは、最初の学習とは別に「この合図のあとには、もうその出来事は起こらない」という新しい関係も学ぶためだと考えられています。どの経験に基づく反応が現れるかは、そのときの状況にも左右されるのです。
身近な場面で考える
人についても、音や図形と不快な刺激を組み合わせ、合図を見聞きしたときの警戒反応を調べる研究があります(Beckers et al., 2023)。日常の状況に置き換えると、次のような例が考えられます。
たとえば、ある人が通院のたびに決まった機械音を聞き、その直後に痛みを経験していたとします。初めは何とも思わなかった音でも、その後は聞いただけで体がこわばるかもしれません。音が「これから痛いことが起きる」という合図として学ばれたと考える例です。
実際には、病院という場所や、これから何をされるかという予想も反応に関わります。ある音で緊張したというだけで、その原因を古典的条件づけ一つに決めることはできません。それでも、何かを見聞きしただけで体や気持ちが反応するとき、過去にその合図のあとで何が起きていたかを考える手がかりになります。
参考文献・出典
- Pavlov, I. P. (1927). Conditioned Reflexes: An Investigation of the Physiological Activity of the Cerebral Cortex, Lecture II. 犬に音と食べ物を組み合わせたときの唾液の反応と、学習が成立する条件の根拠。
- Rescorla, R. A. (1968). Probability of shock in the presence and absence of CS in fear conditioning. Journal of Comparative and Physiological Psychology, 66(1), 1–5. 音があるときとないときの電気刺激の起こりやすさや、電気刺激の総回数を比べたラット実験の根拠。
- Bouton, M. E. (2004). Context and Behavioral Processes in Extinction. Learning & Memory, 11(5), 485–494. 学習した反応が弱まった後も、状況の変化などで再び現れる研究のまとめ。
- Beckers, T., et al. (2023). Understanding clinical fear and anxiety through the lens of human fear conditioning. Nature Reviews Psychology, 2, 233–245. 人の警戒反応を調べる条件づけ研究と、その解釈上の注意の根拠。