ヒック=ハイマンの法則とは?選択肢の数と反応時間の関係
画面に光る合図に合わせてボタンを押すゲームでは、使うボタンが2種類のときより、8種類のときの方が反応に時間がかかるかもしれません。選択肢が増えると、反応するまでの時間はどのように変わるのでしょうか。
ヒック=ハイマンの法則とは、現れた合図に応じて決められた反応を選ぶ課題で、選択肢が多くなるほど反応時間が長くなりやすく、その増え方が選択肢の数の「対数」と呼ばれる関係で表せるという経験的な法則です。ただし、合図と動作の対応の分かりやすさや、練習の程度によって結果は変わります。
ヒック=ハイマンの法則とは?選択肢の数と反応時間の関係
ここでいう「反応時間」とは、合図が出てから、決められた反応が実際に行われるまでの時間です。たとえば、ランプが光ってから対応するボタンが押されるまで、または声で答え始めるまでを測ります。実験では、どの合図が出たらどんな反応をするかをあらかじめ決め、参加者にできるだけ速く、正しく答えてもらいます。
2種類のランプのどちらかが光る課題と、8種類のどれかが光る課題を比べると、後者では、どの合図が出たのかを見分けて、対応する反応を選ぶための候補が増えます。ヒック=ハイマンの法則は、このような決まった合図と反応の組み合わせが増えたときの、反応時間の変化を捉えます(Hick, 1952、Hyman, 1953)。
商品を自由に比べて「どれが好きか」を決める場合は、候補ごとの値段や特徴、本人の好みも考える必要があります。実験のように、合図が出たら決まった動作を返す課題とは異なるため、同じ法則だけで買い物の時間を予測することはできません。
選択肢が2倍になると、反応時間も2倍になるのか
この法則でいう「対数」の関係は、選択肢が2倍になるたびに、反応時間が2倍になるという意味ではありません。ほかの条件が同じで、どの合図も同じ確率で出るときには、選択肢が2種類から4種類へ、さらに4種類から8種類へ増えるごとに、反応時間はおおむね同じ幅ずつ長くなるという関係を表します。
この増え方を理解するために、次の合図を予測する難しさを数字にしてみます。
| 合図の種類数 | 次の合図の予測しにくさ(ビット) |
|---|---|
| 2種類 | 1 |
| 4種類 | 2 |
| 8種類 | 3 |
「ビット」は、どの合図が出るか分からない程度を表す情報量の単位です。出る確率が等しければ、合図が2種類から4種類、4種類から8種類へ増えるたびに、この数字は1ずつ増えます。表は情報量の計算例であり、実験で測定した反応時間ではありません。
この考え方では、候補が1種類のときの情報量は0ですが、合図を見て実際に反応するには時間がかかります。つまり、情報量の数字そのものが反応時間を表すわけではなく、候補の予測しにくさが増えるにつれて、反応時間がどのように変わるかを考えるためのものです(Proctor & Schneider, 2018)。
1952年の研究では、何を比べたのか
Hick(1952)は、光の合図に対応するキーを、できるだけ速く押してもらう実験を行いました。合図と反応の種類を最大10種類まで変えた実験では、ほとんど間違えずに答える条件で、選択肢が増えるほど反応時間が長くなり、その増え方は単純な比例関係ではなく、対数の関係によく合いました。
また、10種類の反応を使った別の実験では、参加者が間違いをある程度許して速く答えるようにすると、反応時間と正確さの間に違いが生じました。速く答えようとするほど、間違いが増える場合があるのです(Hick, 1952)。
この研究が扱ったのは、合図と押すキーの対応が決まった反応課題です。時間を急ぐか正確さを優先するかによっても結果が変わるため、選択肢の数だけで反応の速さが決まるとはいえません。
1953年の研究では、合図の出やすさも調べた
Hyman(1953)は、18~22歳の男性大学生4人を対象に、光の合図が現れたら、それぞれに割り当てられた短い言葉を声に出して答える実験をしました。参加者は約3か月間にわたって繰り返し課題に取り組みました。
研究では、次のように、合図を予測する難しさを変えました。
- 種類数を変える:同じ確率で出る合図を1~8種類に変える。
- 出やすさを変える:特定の合図を多く出して、種類数だけでは分からない予測のしやすさを作る。
- 出る順番の関係を変える:直前に出た合図によって、次の合図を予測できる程度を変える。
合図の種類を増やした実験では、次に何が出るかの予測しにくさを表す数字が大きいほど、反応時間も長くなりました。合図ごとの出現確率を変えた場合にも、同じような関係が見られました。出る順番に規則性を持たせた条件でも関係が調べられましたが、単純な直線関係からのずれも見られました(Hyman, 1953)。
この結果は、合図の種類が同じでも、どれが出るかを予測しやすければ、反応のしかたが変わりうることを示しています。ただし、少人数が多くの練習をした条件での実験であり、人の日常的な判断すべてに同じ関係が成り立つと示したわけではありません。
選択肢が多くても、反応が遅くならないことはあるのか
ProctorとSchneider(2018)は、ヒックの研究とその後の実験を整理し、選択肢の数と反応時間の関係が変わる条件を検討しました。特に重要なのが、合図と動作の対応がどれだけ分かりやすいか、そしてどのくらい練習したかという違いです。
たとえば、指の下にあるキーが振動したらそのキーを押す課題では、合図と反応の場所が直接対応しているため、選択肢を2種類から4種類、8種類へ増やしても反応時間にほとんど差が見られませんでした。一方、合図ごとに覚えた別のキーや言葉で反応する場合には、選択肢数による差が生じやすくなります。
また、練習によって、選択肢が増えたときの反応時間の伸びが小さくなる場合があります。したがって、どの課題でも一定の時間が追加されるという決まりではありません(Proctor & Schneider, 2018)。
画面の設計についても注意が必要です。Liuら(2020)は、決まった合図への素早い反応を調べた法則を、商品やメニューを自由に探して選ぶ作業へそのまま当てはめるのは適切でないと論じています。画面の項目数を減らせば、いつでも利用者の操作が速くなるとまではいえません(Liu et al., 2020)。
身近な場面で考える
たとえば、自宅で反応速度を測るゲームをしている人がいるとします。画面に出る記号ごとに押すボタンが決まっていて、最初は記号が2種類、次は4種類、最後は8種類になるとします。記号がどれも同じくらいの頻度で現れ、ボタンの位置などの条件がほぼ同じなら、候補が増えるにつれて合ったボタンを選ぶ時間が長くなるかもしれません。
これは法則を日常に置き換えた仮の例です。実際には、記号の見分けやすさ、ボタンの配置、ゲームへの慣れ、正確に押そうとする程度も反応時間に関わります。ゲームが上手な人なら候補数が増えても差が小さい場合があるでしょう。
ヒック=ハイマンの法則を知ると、「候補がいくつあるか」に加えて、「次に何が出ると予想できるか」「合図と反応の組み合わせが分かりやすいか」を考えられます。数が多いだけで必ず遅くなると決めつけず、何を見て、どの動作を選ぶ課題なのかを具体的に確かめることが大切です。
参考文献・出典
Hick, W. E. (1952). On the rate of gain of information. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 4(1), 11–26. 合図と反応の種類数、反応時間、正確さの関係を調べた原研究です。公開要旨と後続の研究総説で確認できた範囲を参照しました。
Hyman, R. (1953). Stimulus information as a determinant of reaction time. Journal of Experimental Psychology, 45(3), 188–196. 光の種類数、出現確率、出る順番を変えて反応時間を測った実験の原論文です。
Proctor, R. W., & Schneider, D. W. (2018). Hick’s law for choice reaction time: A review. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 71(6), 1281–1299. 法則の研究史と、練習や合図と反応の対応による違いを整理した総説です。
Liu, W., Gori, J., Rioul, O., Beaudouin-Lafon, M., & Guiard, Y. (2020). How Relevant is Hick’s Law for HCI?. Proceedings of the 2020 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems. 反応時間の法則を、画面での選択や操作へ応用するときの違いと限界を整理した研究です。公開要旨の範囲を参照しました。