自己決定理論とは?自律性・有能感・関係性から考える意欲の仕組み
同じ勉強をするときでも、「叱られたくないからやる」のと、「自分に必要だと思うからやる」のとでは、取り組む気持ちが違います。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。
自己決定理論とは、人が行動する理由や、周囲の人との関わりが意欲にどう結び付くかを説明する心理学の理論です。特に、自分の意思で取り組めている感覚、できるようになっている感覚、人とのつながりを感じられることを重視します。
自己決定理論とは?「何のために行動するか」に注目する理論
自己決定理論は、心理学者のデシとライアンらが発展させてきた、人の意欲についての考え方です。取り組む量や熱心さだけでなく、その行動を自分が納得して選んでいるか、それとも外からの圧力でしているかを区別します。
たとえば、資格試験の勉強をする二人がいるとします。一人は周りに責められるのが嫌で勉強し、もう一人は将来の自分に必要な知識だと考えて勉強しています。同じ時間机に向かっていても、行動を支える理由は違います。
また、自分の意思で取り組むことは、必ずしも「その作業が楽しい」という意味ではありません。勉強そのものが好きで取り組む場合だけでなく、面倒な作業でも意味を理解し、自分にとって大切だと納得して取り組む場合があります。このような意欲の違いを、自己決定理論は説明しています(Deci & Ryan, 2000)。
自律性・有能感・関係性の三つの欲求
自己決定理論では、人が意欲を保ち、心の面でも健やかに過ごすうえで、次の三つの心理的な欲求が大切だと考えます。
- 自律性:自分の行動を、自分の意思に沿って進めていると感じたいという欲求です。たとえば、勉強する理由に納得し、練習の進め方を自分で考えられることが当てはまります。
- 有能感:自分にもできるという手応えや、少しずつ上達している感覚を得たいという欲求です。たとえば、難しすぎない課題に挑戦し、前より解ける問題が増えたと実感することです。
- 関係性:周りの人に受け入れられ、大切にされていると感じたり、自分も誰かを大切にしたりしたいという欲求です。たとえば、分からないことを安心して質問でき、相手が話を聞いてくれる関係です。
ここでいう自律性は、何でも一人で決めることではありません。人に相談して方法を決めても、自分が納得して取り組んでいれば、自律性を感じることはできます。有能感も、いつも人より優れた結果を出すことではなく、自分なりに手応えを感じることです。
三つの欲求は、どれか一つだけを満たせば十分だという扱いではありません。自分で選ぶ余地があっても、何をしてもできるようにならないと感じたり、周りから孤立していると感じたりする場面では、意欲を支える条件が十分とはいえないと考えます(Deci & Ryan, 2000)。
研究では、三つの欲求と学ぶ意欲にどんな関係が見られたのか
Bureauら(2022)は、144件の研究、合計7万9,000人を超える学生のデータをまとめ、学習中に三つの欲求が満たされているという感覚と、自分から学ぼうとする意欲の関係を調べました。
その結果、自律性・有能感・関係性が満たされていると感じる学生ほど、興味や自分にとって大切な理由に基づく学習意欲が高いという関連が見られました。三つの欲求の中では、有能感との関連が最も強く、次いで自律性、関係性の順でした。また、教師が生徒の意思を尊重していると感じることも、このような意欲と結び付いていました(Bureau et al., 2022)。
ただし、この分析は研究で得られた関連をまとめたものです。有能感がほかの二つの欲求より必ず重要だという順位を定めたものでも、欲求が満たされたことだけで意欲が高まったという原因と結果を確定したものでもありません。主に学校での学習についての結果です。
周囲の関わり方を変えると、意欲も変わるのか
Wangら(2024)は、自己決定理論に基づいて教育現場で行われた36件の取り組みを調べ、うち31件の研究結果を数値的にまとめました。取り組みには、教師が生徒の考えを尊重する伝え方を学んだり、生徒が学び方を工夫したり、保護者が子どもの学習への関わり方を変えたりするものが含まれていました。
取り組みを受けた人と受けなかった人を比べた研究と、取り組みの前後を比べた研究のどちらでも、自分の意思が尊重されていると感じる程度には改善が見られました。有能感は前後比較で改善が見られましたが、取り組みを受けた人と受けなかった人の比較では、最初の集計で明確な差はなく、研究結果が公表される際の偏りを考慮して再集計すると改善が認められました。学ぶこと自体を楽しむ意欲は、取り組みを受けた人と受けなかった人の比較では改善が見られましたが、前後比較では明確な改善は確認されませんでした。関係性については、どちらの比較でも全体として明確な改善が見られませんでした(Wang et al., 2024)。
これは関係性が意欲に不要だという意味ではありません。実際に行われた取り組みの内容や測定方法には違いがあり、三つの欲求を支える方法が、すべて同じように効果を示したわけではないという結果です。
身近な場面で考える
たとえば、一人暮らしの人が「自分で夕食を作れるようになりたい」と考え、料理を始めたとします。料理がいつも楽しいわけではありませんが、自分の暮らしに役立つことだと納得しています。
その人は、作ってみたい料理を自分で選びます。最初は簡単な料理から練習し、以前より手際よく作れるようになったことに気づきます。困ったときには友人に相談でき、作った料理について感想も聞けます。この場面では、自分で納得して取り組むこと、上達の実感、安心できる人とのつながりが、それぞれ自律性・有能感・関係性に対応します。
これは仕組みを理解するための仮の例であり、料理を始めた人に必ずこうした変化が起こるという研究結果ではありません。意欲が続かないときも、その人の性格だけで説明せず、取り組む理由に納得できているか、挑戦の難しさが合っているか、助けを求められる環境かを考える手がかりになります。
自己決定理論は、単に「やる気を出す」ための決まりではありません。自分の意思や成長の実感、人との関わりが、どのような意欲で行動しているかに結び付くことを考える理論です。
参考文献・出典
Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The “What” and “Why” of Goal Pursuits: Human Needs and the Self-Determination of Behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227–268. 自己決定理論の考え方、三つの心理的欲求、自分の意思に沿う意欲と外からの圧力による意欲の違いを説明した論文です。
Bureau, J. S., Howard, J. L., Chong, J. X. Y., & Guay, F. (2022). Pathways to Student Motivation: A Meta-Analysis of Antecedents of Autonomous and Controlled Motivations. Review of Educational Research, 92(1), 46–72. 学生の心理的欲求と、学習への自分からの意欲の関連を多数の研究から調べた分析の根拠です。
Wang, Y., Wang, H., Wang, S., Wind, S. A., & Gill, C. (2024). A systematic review and meta-analysis of self-determination-theory-based interventions in the education context. Learning and Motivation, 87, Article 102015. 教育現場での支援の取り組みと、自律性・有能感・関係性や学習意欲の変化を調べた研究の根拠です。