ヤーキーズ・ドットソンの法則とは?心身の高ぶりと課題の難しさが成績にどう関わるのか

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

人前で話すとき、少し緊張した方が集中できることもあれば、緊張が強くて言葉が出にくくなることもあります。心身の高ぶりは、どのくらいあればよいのでしょうか。

ヤーキーズ・ドットソンの法則は、刺激や心身の高ぶりの程度と、学習や課題の出来との関係を考えるために使われる考え方です。よく知られるのは、高ぶりが弱すぎても強すぎても成績が下がり、中ほどで良くなるという説明です。ただし、課題が簡単か難しいかによって、好ましい刺激の強さは変わり、どの作業でも同じ形になるわけではありません。

ヤーキーズ・ドットソンの法則とは?「適度な緊張」の説明と注意点

眠くて注意が向かない状態と、落ち着かず焦っている状態では、同じ課題でも取り組み方が変わることがあります。心理学では、心や体がどれくらい活発になっているかと、作業の正確さや速さとの関係を調べてきました。

この法則はしばしば、横に心身の高ぶり、縦に成績を取ると、途中が山になる「逆U字型」の関係として紹介されます。高ぶりが増すにつれて成績が上がり、ある程度を超えると下がるという描き方です。

しかし、山の頂点に当たる状態を誰にでも共通する数値で示せるわけではありません。そもそも1908年の原研究が直接調べたのは、マウスが間違った通路で受ける電気刺激の強さと、正しい通路を覚える速さです。人の不安や試験の得点を直接測った実験ではありません(Yerkes & Dodson, 1908)。

1908年の実験では、課題の難しさと刺激の強さをどう比べたのか

YerkesとDodsonは、40匹のマウスを使って、白い通路を選び、黒い通路を避けるよう学習させました。黒い通路を選ぼうとすると電気刺激を受けます。研究者は刺激の強さを変え、マウスが繰り返し正しく選べるようになるまで、何回の試行が必要かを調べました。

さらに、二つの通路の明るさの差を変えました。明るさの差が大きければ見分けやすく、差が小さければ見分けにくくなります。結果は次のように、見分ける難しさによって異なりました(Yerkes & Dodson, 1908)。

通路の見分けやすさ 電気刺激の強さと学習の速さ
見分けやすい 調べた範囲では、刺激が強いほど正しい通路を速く覚える傾向があった
中くらい 弱い刺激や強い刺激より、中程度の刺激で速く覚える結果だった
見分けにくい 弱すぎる刺激や強い刺激では学習が遅く、比較的弱めの刺激が有利だった

見分けやすい条件では、刺激をさらに強くしたときに成績が下がるかどうかまでは調べていません。動物に害のある強さまで刺激を増やしていないためです。また、中くらいの難しさの実験は、刺激の強さを大まかに分けた予備的な調査でした。

原研究から読み取れる中心的な結果は、刺激を強くしたときの学習への影響が、見分ける課題の難しさによって異なったということです。簡単な課題まで含めて、すべてが同じ逆U字型の曲線を描いたわけではありません。

なぜ「緊張と成績の逆U字型」として知られるようになったのか

この研究はその後、心身の高ぶりや不安、意欲と成績の関係を説明する際にも使われるようになりました。たとえば、「単純な作業ではある程度の強い高ぶりが役立つことがあり、難しい作業では強い高ぶりが妨げになることがある」という見方です。

Teigen(1994)は、この法則が広まる過程を調べ、もともとの「電気刺激の強さと学習の速さ」が、後には「緊張・不安・意欲と、仕事や学習の成績」などへ幅広く言い換えられてきたと整理しています(Teigen, 1994)。

電気刺激の強さと、人が感じる緊張や心身の高ぶりは、同じ測り方で捉えられるものではありません。そのため、よく見る逆U字型の図は関係を考える手がかりにはなっても、1908年の実験だけで人のあらゆる活動について確かめられた結果だとはいえません。

人を対象とした研究でも、中程度の高ぶりがよいのか

Beerendonkら(2024)は、成人男性28人のデータをもとに、音や画像の違いを判断したり、特定の刺激があったかどうか答えたりする計6種類の課題を調べました。機器の不具合で1人が音の課題を実施できなかったため、音の課題の分析対象は27人でした。研究者は、音や画像が提示される直前の瞳孔の大きさを心身の活動状態を知る手がかりとして記録し、判断の正確さや反応の速さとの関係を調べました。

その結果、瞳孔の大きさから推定した心身の高ぶりが中程度のときに、刺激を見分けたり見つけたりする成績が良いという関係が、音の課題でも画像の課題でも見られました(Beerendonk et al., 2024)。

ただし、この研究は実験中に自然に変化する瞳孔の大きさと成績の関係を調べたもので、参加者の緊張を意図的に強めて、結果がどう変わるかを比較したものではありません。また、調べたのは特定の音や画像を判断する課題であり、試験や仕事の成績全般が同じように変化することを示すものではありません。

一方、Beilockら(2004)は数学の問題を解く際の心理的な圧力を調べました。いくつもの情報を頭に保って解く必要のある、練習の少ない問題では、強い圧力がかかった条件で成績が下がりました。一方、同じ問題を繰り返し練習して答えをすぐに思い出せるようになった条件では、その低下が見られなくなりました(Beilock et al., 2004)。

この数学の研究は、圧力による成績の変化に課題の経験や取り組み方が関わることを示しています。ただし、心身の高ぶりを何段階にも変えて逆U字型の曲線を確かめた実験ではありません。

身近な場面で考える

たとえば、授業で発表する生徒がいるとします。何度も練習した短い自己紹介なら、少し緊張している方が声をはっきり出すことに集中できるかもしれません。一方、初めて説明する複雑な内容では、強い緊張によって言葉や説明の順番を思い出しにくくなるかもしれません。

これは研究結果を日常の場面に置き換えた仮の例です。同じ人でも活動の難しさや慣れ、体調によって取り組みやすい状態は違うでしょう。誰にとっても「緊張をこれだけ高めれば成績が最も良くなる」という数値が分かっているわけではありません。

難しいことに取り組む前には、緊張を無理に高めることより、内容を小分けにして練習したり、落ち着いて確認する時間を作ったりすることが考えられます。これは学習や判断を助けるための一般的な提案であり、先ほどの研究がその手順の効果を直接確かめたものではありません。

ヤーキーズ・ドットソンの法則から学べるのは、心身の高ぶりは多ければ多いほどよいわけでも、少なければよいわけでもなく、何に取り組むかと、その人がどのような状態にあるかを一緒に考える必要があるということです。

参考文献・出典

Yerkes, R. M., & Dodson, J. D. (1908). The relation of strength of stimulus to rapidity of habit-formation. Journal of Comparative Neurology and Psychology, 18, 459–482. マウスが明るさの異なる通路を選ぶ学習について、電気刺激の強さと課題の難しさを変えた原研究です。

Teigen, K. H. (1994). Yerkes-Dodson: A Law for all Seasons. Theory & Psychology, 4(4), 525–547. 法則の説明が原研究からどのように広がってきたかを整理した論文で、公開要旨の範囲を参照しました。

Beerendonk, L., Mejías, J. F., Nuiten, S. A., de Gee, J. W., Fahrenfort, J. J., & van Gaal, S. (2024). A disinhibitory circuit mechanism explains a general principle of peak performance during mid-level arousal. Proceedings of the National Academy of Sciences, 121(5), e2312898121. 瞳孔から推定した心身の高ぶりと、音・画像の判断成績との関係を調べた研究です。

Beilock, S. L., Kulp, C. A., Holt, L. E., & Carr, T. H. (2004). More on the fragility of performance: Choking under pressure in mathematical problem solving. Journal of Experimental Psychology: General, 133(4), 584–600. 数学の課題で、心理的な圧力と練習の程度によって成績への影響が異なることを調べた研究です。