機能的固着とは?道具のいつもの使い方が新しい発想を妨げる心理
家でちょっとした作業をするとき、必要な道具が見つからず困ることがあります。けれども、目の前にある物を別の使い方で見直せば、すでに持っている物で解決できるかもしれません。なぜ、その使い方がすぐには思い浮かばないのでしょうか。
機能的固着とは、物をいつもの用途で捉えることで、その物の別の使い道に気づきにくくなり、問題を解くのが難しくなる現象です。道具の普段の使い方を知っていることは便利ですが、別の働きが必要な場面では、その知識が発想を狭める場合があります。
機能的固着とは?道具をいつもの用途で捉える心理
たとえば、紙の箱を見たとき、多くの人は「物を入れるもの」と考えるでしょう。しかし、箱には底が平らで、ある程度の硬さがあるという特徴もあります。中に物を入れるだけでなく、別の物を支える台として使える場合もあります。
機能的固着は、その箱を「収納する道具」として見る考えが強く働き、「支える台」という別の用途を思いつきにくくなるような場面に関わります。使えそうな物が目の前にあっても、必要な役割と結び付けて考えられないことがあるのです。
ただし、よく知っている道具を見れば必ず機能的固着が起こるわけではありません。研究では、道具のいつもの用途が実際に示されたかどうかで、その後の問題の解きやすさが変わることを調べています(Duncker、1945;German・Defeyter、2000)。
また、この現象は道具の使い道についての思い込みを扱います。問題を解く手順を一つ覚え、その手順ばかり繰り返すこととは、注目している点が違います。機能的固着では、「この物は何に使えるのか」という見方が重要です。
ロウソクと箱の問題で見る、発想が妨げられる仕組み
心理学者カール・ダンカーは、ロウソクを壁に固定して燃やせるようにする課題を研究しました。使える物には、ロウソク、画びょう、マッチ、小さな箱などがありました。解決方法の一つは、箱を空にして画びょうで壁に留め、その箱をロウソクを置く台にすることです(Duncker、1945)。
ここで研究上の重要な違いは、箱の中に道具が入った状態で示すか、箱と道具を別々に示すかです。箱に画びょうなどが入っていれば、「箱は物を入れるためのもの」という使い方が目の前で示されます。その状態では、箱を台として使う解決方法が出にくくなりました。一方、箱が空の状態で示されると、台として使う方法に気づきやすくなりました(German・Defeyter、2000)。
なぜ違いが生まれるのでしょうか。箱の中に画びょうが入っていると、箱は「道具を入れておく物」として目に入ります。問題を解くために「ロウソクを支えられる物」を探しても、箱を候補に入れない場合があります。箱の平らな面や硬さに目を向ければ、支えるという働きに気づく余地が生まれます。
ワイスバーグとサルズ(1973)は、このロウソクの課題について六つの実験を行い、物の名前の付け方や箱を空にして示すことなどが、箱を利用する解き方にどう関わるかを検討しました。箱の示し方を変えると、その箱を使った解決が出やすくなるという結果は、問題に必要な物があるかだけでなく、どう見えているかも大切であることを示しています(Weisberg・Suls、1973)。
研究で分かっていること
2000年:5歳児と6・7歳児では、箱の使い方への反応が違った
ジャーマンとデフェイター(2000)は、5歳・6歳・7歳の子ども計60人に、小さなクマの人形が高い棚の上のおもちゃを取れるよう手伝う課題を出しました。使える物には積み木や小さな箱などがあり、解決するには箱を台にして、その上に積み木を重ねる必要がありました。
一方の条件では、積み木などが箱の中に入っており、箱が物入れとして使われている状態を見せました。もう一方では、箱とほかの物を別々に置きました。そして、子どもが箱を台にする方法で解決できたか、その方法を思いつくまでにどのくらい時間がかかったかを調べました。
箱を台にして解決できた子どもについて比べると、6歳児と7歳児では、箱が物入れとして示された条件の方が解決までに時間がかかりました。5歳児では、そのような時間の差は確認されませんでした。また、7歳児では、箱が物入れとして示された条件では4割、箱とほかの物を別々に示した条件では約9割が、箱を使って解決しました(German・Defeyter、2000)。
これは「年齢が低いほど、あらゆる問題をよく解ける」という意味ではありません。道具の通常の用途が強く意識される条件では、年齢によって別の使い方を見つける速さが異なる場合があった、という結果です。デフェイターとジャーマン(2003)も、子どもが道具の通常の用途を知っているかどうかだけで、この違いを説明できるわけではないと検討しました(Defeyter・German、2003)。
2005年:生活で使う道具が異なる文化でも、機能的固着が見られた
ジャーマンとバレット(2005)は、エクアドルのアマゾン地域に暮らすシュアールの12〜25歳の29人を対象に、箱を台として使う問題と、スプーンを橋として使う問題を調べました。道具の普段の用途を示す条件では、箱の中に別の道具を入れ、スプーンは米の入ったコップに入れて示しました。比較する条件では、箱やスプーンをほかの物と別々に置きました。
スプーンの問題では、米の入ったコップにスプーンを入れて示した方が、スプーンを選ぶまでにも、問題を解くまでにも時間がかかりました。一方、箱の問題では、箱を選ぶまでの時間が長い傾向はありましたが、解決までの時間に明確な差はありませんでした(German・Barrett、2005)。
この結果は、工業製品の種類が比較的少ない生活環境でも、機能的固着が起こり得ることを示しています。ただし、効果の現れ方は二つの問題で異なり、この29人の結果から、世界中の誰にも同じ強さで起こるとは言えません。
2012年:道具を部品や形から見直す練習が、問題解決を助けた
マキャフリー(2012)は、道具をいつもの用途の名前だけで考えず、どんな部品からできているか、各部分はどんな形や材質かを調べる方法を検討しました。道具全体の使い道からいったん離れ、別の働きに使える特徴を探す考え方です。
この方法を教わった参加者は、教わらなかった参加者より、機能的固着に関わる実験課題を平均して67%多く解きました(McCaffrey、2012)。ここでの67%は、解けた問題の数が比較群より相対的に多かったという意味であり、参加者の67%が成功したという意味ではありません。
道具の特徴に目を向ける工夫には可能性がありますが、研究で調べたのは実験用の問題です。家庭や学校などのあらゆる問題でも、同じ割合で解決が増えると確認されたわけではありません。
身近な場面で考える
たとえば、家で小さな案内カードを机の上に立てておきたい人がいるとします。専用のカード立ては見当たりませんが、洗濯ばさみは手元にあります。洗濯ばさみを「洗濯物を干す道具」としてしか考えていなければ、カードを挟んで立てられそうだとは思いつかないかもしれません。
そこで「この道具は何のために作られたか」ではなく、「どの部分がカードを挟めるか」「机の上で安定して置けるか」と考えると、別の使い方が候補に入ってきます。これは機能的固着の仕組みを考えるための仮の例であり、洗濯ばさみを使ったカード立ての効果を研究で確かめた話ではありません。
何かを作ったり直したりするとき、道具を名前やいつもの用途だけで探すのではなく、形、硬さ、大きさ、物を挟めるかといった特徴から見直してみる方法も考えられます。必要な強度や安全性は、その作業に合わせて別に判断する必要があります。
機能的固着が教えてくれるのは、物の使い方を知っていることが役に立つ一方で、その見方にとらわれると、目の前の物が持つ別の可能性を見落とす場合があるということです。
参考文献・出典
- Duncker, K. (1945). On problem-solving. Psychological Monographs, 58(5), i–113. 物を普段の用途で捉えることで別の使い方が見つかりにくくなる問題を扱い、箱とロウソクの課題を報告した原著。
- Weisberg, R. W., & Suls, J. M. (1973). An information-processing model of Duncker’s Candle Problem. Cognitive Psychology, 4(2), 255–276. 箱の提示や名前の付け方などを変え、ロウソクの課題における解決方法を比較した六つの実験。
- German, T. P., & Defeyter, M. A. (2000). Immunity to functional fixedness in young children. Psychonomic Bulletin & Review, 7(4), 707–712. 箱を台として使う課題で、箱が物入れとして示されるかによって、5〜7歳児の解決の割合や所要時間がどう変わるかを調べた実験。
- Defeyter, M. A., & German, T. P. (2003). Acquiring an understanding of design: Evidence from children’s insight problem solving. Cognition, 89(2), 133–155. 子どもが道具の普段の用途を知ることと、その用途にとらわれて別の使い方を考えにくくなることの関係を検討した研究。
- German, T. P., & Barrett, H. C. (2005). Functional fixedness in a technologically sparse culture. Psychological Science, 16(1), 1–5. エクアドルのシュアールの12〜25歳の29人を対象に、箱とスプーンを使った二つの問題で、普段の用途を示すことが別の使い方の発見にどう影響するかを調べた研究。
- McCaffrey, T. (2012). Innovation relies on the obscure: A key to overcoming the classic problem of functional fixedness. Psychological Science, 23(3), 215–218. 道具を部品や形などから見直す方法を学ぶことで、実験課題の解決数が変わるかを調べた研究。