制御焦点理論とは?前進を求める目標と安全を守る目標の違い

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

旅行の計画を立てるとき、「新しい場所にたくさん行きたい」と考えることもあれば、「乗り遅れや予約の失敗を防ぎたい」と考えることもあります。同じ旅行の準備なのに、何を大切にするかで行動は変わるのでしょうか。

制御焦点理論は、目標に向かうときの関心を、成長や達成を目指す「促進焦点」と、安全を保ち責任を果たそうとする「予防焦点」に分けて考える理論です。どちらに意識が向くかによって、選ぶ方法や注意する間違いが変わると考えられています。

制御焦点理論とは?

心理学者のヒギンズが提唱した制御焦点理論は、人が望む結果に近づこうとするとき、その目標をどのような関心から追いかけているのかに注目します。主な違いは次の二つです(Higgins、1997)。

  • 促進焦点:希望や理想をかなえ、成長したり成果を得たりすることを重視します。望んだ成果が得られるとうれしく、得られないと残念に感じることに関わります。
  • 予防焦点:安全を保ち、義務や責任を果たすことを重視します。問題を防げれば安心し、損失や失敗が起きると不安になることに関わります。

たとえば、試験の準備でも「新しいことを身につけて、よい成績を取りたい」と考える場合と、「必要な点数を落とさず、進級の条件を満たしたい」と考える場合があります。どちらも試験に合格するという望ましい結果を目指していますが、何を得たいか、何を避けたいかという関心が違います。

制御焦点は、積極的な人と慎重な人を固定的に分類するための名前ではありません。同じ人でも、希望をかなえたい場面では促進焦点が、責任を果たす場面では予防焦点が強まることがあります。ヒギンズは、長く持ち続ける関心だけでなく、その場の説明や状況によっても焦点が変わり得ると考えました(Higgins、1997)。

目標の捉え方が、取り組み方を変える仕組み

促進焦点では、得られる成果を逃さずに手に入れようとするため、使える方法を広く探したり、まず試したりする方向に気持ちが向きやすいと考えられています。一方、予防焦点では、失敗や不利益を起こさないよう、間違いがないか確かめてから進める方向に気持ちが向きやすくなります(Crowe・Higgins、1997)。

大切なのは、どちらか一方が常によい方法だという話ではないことです。新しい案を数多く出したいときと、小さな間違いを確実に見つけたいときでは、求められる行動が違います。制御焦点理論は、その違いを「どの結果を特に大切にしているか」から考える手がかりになります。

研究で分かっていること

目標の伝え方によって、答えを選ぶ基準が変わった

CroweとHiggins(1997)は、大学生65人に、以前見せた文字の並びと新しい文字の並びを見分けてもらいました。参加者を無作為に条件へ分け、課題の成績によって好きな活動ができると伝えたり、嫌いな活動をしなくて済むと伝えたりするなど、目標の捉え方を変えました。

その結果、促進焦点を強める説明を受けた人たちは、「前に見た」と答える方向に判断が偏り、予防焦点を強める説明を受けた人たちは、「前に見ていない」と答える方向に偏りました。回答までの平均時間も、促進焦点の条件では約1.23秒、予防焦点の条件では約1.40秒でした(Crowe・Higgins、1997)。

この実験で促進焦点と予防焦点の違いとして確認されたのは、文字を見分ける正確さの差ではなく、回答の偏りと反応時間の差です。見逃しを減らそうとするか、誤って「見た」と答えることを防ごうとするかで、回答の基準が異なりました。

速さと正確さの重視にも違いが見られた

Försterら(2003)は、制御焦点と作業の速さ・正確さの関係を四つの実験で調べました。初めの三つの実験では簡単な図形を描く課題を用い、もともとの目標への向き合い方や実験中の指示によって、参加者を比較しました。

図形を描く課題では、促進焦点が強い条件のほうが速く進める一方で、正確さは低くなる傾向がありました。別の文章の誤りを探す実験では、促進焦点の条件は作業が速く、予防焦点の条件は見つけにくい誤りをより正確に発見しました(Försterら、2003)。

ここで比較されたのは、特定の図形描画や文章の確認作業です。促進焦点の人が必ず不正確になる、あるいは予防焦点の人がどんな活動でも遅くなるという意味ではありません。

二つの焦点は、必ずしも反対の性質ではない

Gormanら(2012)は、仕事に関する77件の研究をまとめ、質問への回答で測られた促進焦点と予防焦点の関係を調べました。二つは一つの尺度の両端として扱うより、別々の関心として捉えることが適切だという結果でした。それぞれが、仕事に関する別の特徴とも関係していました(Gormanら、2012)。

ただし、これは主に仕事に関する研究をまとめた結果です。日常の一度の選択だけから、その人がどちらの焦点を強く持つかを決められるわけではありません。

身近な場面で考える

たとえば、家族旅行の予定を一緒に考える人が二人いるとします。一人は「せっかくなら、行ったことのない場所も訪ねたい」と新しい行き先を探します。もう一人は「乗り換えに余裕を持って、無理なく帰れるようにしたい」と交通手段や時間を確かめます。

前者は旅行で得られる体験を広げようとする促進焦点、後者は予定の失敗を防ごうとする予防焦点の例として考えられます。これは理論の説明のための仮の場面で、実際の二人の心理を調べた研究結果ではありません。

また、同じ人が行き先を探すときには新しい体験を重視し、切符を買うときには間違いを防ぐことを重視する場合もあります。制御焦点理論から分かるのは、同じ目標を持っていても、「何を得たいか」「何を守りたいか」によって行動の進め方が変わり得るということです。

参考文献・出典