期待価値理論とは?できそうか、取り組む価値があるかで考える意欲

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

新しい習い事を探しているとき、「楽しそうだけれど自分には難しそう」と思うことがあります。反対に、「自分にもできそうだけれど、あまり興味がない」と感じることもあるでしょう。人は何を手がかりに、取り組むことを決めるのでしょうか。

期待価値理論は、「自分はうまくできそうか」という見込みと、「その活動は自分にとって取り組む価値があるか」という感じ方から、課題を選んだり続けたりする意欲を考える理論です。できそうだと思うことと、やってみたいと思うことの両方が大切だと捉えます。

期待価値理論とは?

期待価値理論には複数の考え方があります。ここでは、心理学者のエクルズとウィグフィールドらが発展させた、学習や進路などの選択を説明する理論を扱います。この理論は、人が課題にどのように取り組み、どの活動を選ぶかを、主に二つの面から考えます(Wigfield・Eccles、2000)。

  • 成功できそうという見込み:ある活動に取り組んだとき、自分はどのくらいうまくできそうだと予想しているか。
  • 本人が感じる価値:その活動を楽しい、大切だ、役に立つなどと感じるか。また、取り組むための負担をどう捉えるか。

たとえば、英語の本を読むことについて、「今の自分なら読み進められそうだ」と考えるのは成功の見込みです。「外国の物語を原文で読みたい」と思うのは、その人が英語を読むことに感じている価値です。

同じ人でも、英語を読むことには自信があり、初めて習う楽器には自信がないことがあります。また、どれほど得意でも、本人にとって価値が低い活動なら選ばないことがあります。理論では、ほかにできる活動との比較や、これまでの経験、周囲の状況も関わると考えます(Eccles・Wigfield、2024)。

「取り組む価値」にはどんな違いがあるのか

価値は、単にその活動が「役立つか」だけでは決まりません。エクルズらは、本人が感じる価値をいくつかの面から捉えています(Eccles・Wigfield、2024)。

  • 楽しさ:活動そのものが面白い、やっていて楽しいと感じること。たとえば、外国の物語を読むこと自体が好きな場合です。
  • 自分にとっての大切さ:その活動が、自分のありたい姿や大事にしていることと結び付いていること。たとえば、本を読んで幅広い考え方に触れることを大切にしている場合です。
  • 役立ち方:今後の目標や予定に役立つこと。たとえば、海外旅行で現地の案内を読めるようになりたい場合です。
  • 負担:かかる時間や労力、失敗への不安、取り組むことでほかの好きなことを諦める必要があるかということ。

これらの感じ方は人によって違い、一つの活動にもいくつも重なります。たとえば、英語の本を読むのは楽しくても、仕事や家事が忙しければ時間の負担が大きく感じられるでしょう。こうした負担を価値の中で扱うか、別の要素として扱うかは研究上の議論もありますが、取り組むかどうかを考えるうえで重要です(Eccles・Wigfield、2024)。

研究で分かっていること

「できそう」と「価値がある」は、その後の科目選択と関係した

Simpkinsら(2006)は、227人の子どもや若者について、学校外での算数・数学や理科に関わる活動と、その後の学習について調べました。小学5年生のときの活動参加、小学6年生と高校に当たる10年生のときの成功の見込みや価値の感じ方、高校で履修した科目の数などを追って調査しました。

学校外で数学や理科に関わる活動をしていたことは、その後の成功の見込みや価値の感じ方と関係していました。さらに、こうした見込みや価値は、高校で数学や理科の科目をどれだけ履修したかと、学校の成績を考慮しても関係していました(Simpkinsら、2006)。

この研究は、本人が「できそうだ」「学ぶ価値がある」と感じていることが、その後の選択を理解する手がかりになると示しています。ただし、長期間の関係を調べた研究なので、その気持ちだけが科目選択の原因になったとは言えません。

学ぶ内容が生活に役立つと考える活動で、成績が変わった

HullemanとHarackiewicz(2009)は、アメリカの高校2校で理科を学ぶ生徒262人を対象に、学ぶ内容を自分の生活に結び付けて考える活動の効果を調べました。生徒を無作為に分け、授業内容が生活にどう関係するかを文章にする活動と、授業内容をまとめる活動を比較しました。

その結果、特に授業でうまくできるという見込みが低かった生徒では、生活とのつながりを考える条件のほうが、授業内容をまとめる条件より理科への関心が高く、成績を調べた生徒でも授業成績が高い傾向が見られました。なお、授業成績を分析したのは、2校のうち1校の生徒100人です(Hulleman・Harackiewicz、2009)。

これは、活動に価値を感じられるようにすることが、学習に関わる場合があると示した実験です。ただし、すべての生徒やあらゆる教科で、同じ方法が同じ結果を生むと確認したものではありません。

身近な場面で考える

たとえば、家族の写真をきれいに撮りたい人が、週末の写真講座への参加を迷っているとします。講座に興味はあるものの、難しい専門知識が必要だと思って「自分にはできないかもしれない」と考えています。

その後、講座が初心者向けで、スマートフォンの写真から学べると知れば、「自分にもできそうだ」という見込みが変わるかもしれません。家族の思い出を残すために役立つと感じれば、参加する価値も高まるでしょう。一方、開催場所が遠く、移動に時間がかかることが大きな負担になれば、今回は見送るかもしれません。

これは研究で実際に観察された出来事ではなく、理論を日常に置き換えた仮の例です。期待価値理論は、人がある活動を選ぶか迷うとき、できそうか、本人にとって何が大切か、どんな負担があるかを一緒に考える手がかりになります。こうした見込みや価値は、経験や周囲の状況によっても変わり得ます。

参考文献・出典